ありがたいことに、二十世紀最後の年も、ふつうに冬ボーをもらうことができました。

 「わ〜〜い!カレーつくろっと」

 さようなら金欠生活!ぼくは豚肉のたくさんはいったカレーをつくってお祝いしました。お金がないときには一週間食いつなぐための命の綱だったカレーも、今日はご馳走です。中身にかわりはないのだけれど・・・

 「ねえねえ、G4キューブかうの?」

 カレーを食べにあらわれたトホホ妖精が、さっそく無駄遣いの呪文をささやきましたが、これは今のぼくにはまったく効果ナシです。

 「パソコンは一年に一台まで!」

 「ウッ、スゲエウソくさ!・・・じゃ、じゃあ、貯金するの?」

 「スカジーカードを買う」

 「ア、あの160メガ/秒のやつね?」

 「夏にG4を買ったのはなんのためだったと思う?アダプテックの39160を64ビットPCIバスで使うためじゃないか!」

 アイマックと同時に発売された新しい(うさんくさい〕デザインのパワーマックGシリーズは、今までの短い32ビットPCIバスから、長い新型の64ビットバスになったので、64ビットPCIバスで使用したほうが速いスカジーカードは、やっぱりそっちでつかってみたいですよね。

 「DVD見るためって言ってたくせに・・・」

 「あれは、あの時はスカジーカードに回す金がなかったから、他に言い訳がいったの!」

 「ふうううううううん?」

 新発売当時は七万円台だったアダプテックの「39160」、64ビットPCIをフルに使用でき、ふたつのウルトラ3スカジーワイドバスをもつこのSCSIカードの王様は、今現在5万円台まで下がっていることは、すでにちらっと確認済みだったのです。それでも一緒に買わなければいけないHDDなどと合わせると、10万円を超えるお金がかかります。G4キューブも欲しいっちゃほしいけど、20万出す気はまったくありません。

 さて・・・

 ボーナスシーズンのアキバの地には、「少しリッチ」がウヨウヨあふれていて、とってもゴミゴミしています。タバコを吸う人の比率も恐らく日本一なので、空気の汚さもかなりのものです。のどがひりひりします。ぼくののどはナキウサギなみにひ弱です。

 「うむう、風邪気味なのに、これはきつい!はやくブツを見にゆかなくちゃ!」

 マックといえば、○葉館。商売がうまいようで、最近表通りに引っ越しました。今日は弱っているので、ここかビッ○カメラ、安いほうに決定しようと思ったのです。 後者のほうは五万三千くらいで、10パーセントのポイントがつくから、四万八千プラス税金・・・秋○館がそれより安いなら・・・

 「う・・・安い・・・」

 他の同グレードの機種とかとも較べてみて、やっぱりここで「39160」を買うことにしました。

 「お使いの機種、お名前とお電話番号は?」

 今までボールペンでもって書かされていた「ユーザー登録」が電算化されています。でもなんか時間がかかります。他のお客の前で、大きな声で名前と電話番号をいわされるのはなにかいやな感じです。でもまあ、いいか・・・

 「なにかトラブルの際はまずメーカーにお問い合わせの上、メーカーからの指示があれば、当店のサポートセンターに・・・」

 うわあ、なんか面倒くさいこといってる・・・数千円を惜しんだばかりに、○ックカメラで買った場合よりも、万が一初期不良をつかまされたり動かなかったりした場合の手続が面倒くさくなりそうだと後悔をはじめたのでしたが・・・

 「どすん」

 ぶあいそなレジ係の助手のぶあいそな兄ちゃんが品物を乱暴にカウンタに置いたので、態度には出さなかった(つもり〕ものの、ぼくはこれ以後ここで買い物をするのはやめようと思いました。いくら安かろうと。やっぱり、ここは大昔の「ステップ」のようないやな店になりつつあるようです。客に愛想よくするくらいのコストはタダだと思うのは経営シロウトなのでしょうか・・・

 「・・・あとは160対応のハードドライブだね!」

 ちょっときげんの悪くなったぼくを、トホホ妖精はおかまいなしにそそのかします。

 「HDDは○ックカメラでいいや。これに関してはポイントがつけばどこよりも安い」

 「でも、ねらい目のが一種類しかなかったじゃない」

 「ソフトウエアレイドを組むから同じのでいいんじゃ!」

 「起動ディスクも同じ種類にするの・・・?」

 トホホ妖精は少し悲しそうな顔をしました。

 「いや、・・・そうだね・・・違う種類も試したいもんな・・・」

 大切なことを忘れていました。ぼくは冒険がしたいからHDDを買うのです。かのサンテグジュペリが、飛行機でもってかれの人生を耕したように、ぼくはHDDを買うことで買って、ドキドキすることで、ぼくの人生を豊かにしていくのです!風邪気味なせいか、数ヶ月アキバで買い物をしなかったせいか、それとも年取ったせいか、ぼくはとても大切な、「破滅にむかうスピリット」を失いつつあったようです。ありがとうトホホ妖精。

 「さらば長き眠り」の主人公の冒頭シーンのように、ぼくの頭からはすっかりアキバの土地勘が欠けていたので、おもわず同じ道をいったりきたりしてしまいましたが、ようやく思いつくことができたいくつかのドスブイのお店を回ってみました。

 「10000回転のはまだいらん。」

 ぼくのG4の筐体の裏側には「480ワット」とか書いてあるものの、実際にそんな電源を積んでるのかどうかはまだ疑問でしたから、内蔵ドライブを四台以上積みたいのに、回転数のはやいHDDはいりません。(最低一台は入れてみたいけど)それに、ぼくのモットーは、「最速のマシン」ではなく、「はんぱに速いけどワケがわかんないマシーン」なのだということに、最近気がついたのです。

 ドスブイのお店では「最速のマシーン」か「安くてそこそこ速いマシーン」を求めるお客さんがほとんどなので、おいてあるHDDはみんな10000回転の160か、ATAドライブばかり。はんぱなグレードのHDDはみあたりません。でもやっと○-ゾーンで安いアイビーエムのドライブを見つけました。

 「よし、あとは○ックでシーゲートのを買うぞ!」

 ぼくたちはふつうの人間の街、新宿へともどってきました。

 「ちょっと前まで、量販店は品ぞろえが軟弱だっておもってたけど、最近はそうでもないぞ!」

 目指すドライブがショーケースにあることを確認してから店員さんをさがしました。なにか打ちあわせ中の二人のほかに見つからなかったのでそちらにいってえらそうな方へ「あのう」

 「?」

 「ハードドライブ欲しいんですけど」

 「???」

 クソ、てめえの頭の中の言葉じゃなきゃ通じねえのか?

 「ハードディスク欲しいんですけど。」

 「ああ、いってあげて」

 さすがえらい人。若い方の店員さんにアゴで指図しました。

 ぼくはケースの中の7200回転のシーゲートのドライブをゆびさしました。

 「これ2台ください」

 ついでに自作パソコン部品コーナーでみかけたハードディスク二階建てパーツ 〜これは7300のジップベイにST51080Sを2台入れるときにシャドウベイ用のHDDベゼルの側面だけ切り取って作った部品を製品化したようなものです。これでノコギリはいらない!とその時はそうおもいましたから、2セット買いました。

 こうして、第一次G4強化計画に必要なぶひんはすべて揃ったので、その日はもう、牛丼も食べずに一直線に家に帰りました。

 「久しぶりに、わくわくするね!」

 つづく。 

 

恐怖!ワイドのはずがナロウに! 月蝕とG4
USBおばかさん
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