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エスパーニャ道中記 こぼれ話
Vol.7
(第31話〜)

                            第31話 Sombra(ソンブラ)

 スペイン語で「暑い」は「カロール」。グラナダでは40度を超える事もしばしばというほどですが、乾燥したスペイン中南部の暑さは日本の暑さとは性質が違います。「蒸し暑い」はスペイン語で「ソホカンテ」と言いますが、辞書にはもう一つ「窒息するような」という訳がありました。
 湿気の多い日本の家は、窓を大きく開けて風を十分に室内に入れることで涼をとりますが、スペイン中南部の家は窓は小さく、しかもその窓を締め切り 、鎧戸やブラインドを下ろして外の空気と日光を遮断して室内を涼しく保つようになっています。マドリーの夏も暑くて寒暖計の数字は毎日、40度近くまで上がりましたが、建物の中はひんやりとしていてクーラーは必要が無いほどでした。バルやカフェテリアなどでもクーラーの置いてある方が少ないようで、一昔前の日本のように、店の入り口に『冷房中』という張り紙のある店を時々見かけました。
 スペインはよく『光と影の国』と言われます。スペイン人の陽気さと哀愁を表現した言葉のようですが、私は青い空と白い壁の照り返しと言う光に溢れた外の世界と、建物内部の薄暗くてひんやりとした空間を思い出します。

 中世の古い都市トレドのエル・グレコの家を訪れた時のこと。展示室からパティオ(中庭)へ出ようとした時、あふれる外光で一瞬、目がくらみました。その時「アシモトキヲツケテ。」と言う声が聞こえてきました。とっさの事で意味がわからず、きょとんとしている私に、もう一度同じ言葉を掛けてくれたのは、金モールのついた立派な制服を着た白髪のおじいさんでした。目を凝らしてよく見ると、出口は少し高くなっています。たくさん来る日本人観光客が外の光に目がくらんで、よくここでつまずいて転ぶので、おじさんが覚えた日本語でした。
 光と陰の、光がソル(太陽、日当たりの意)、陰がソンブラです。日本ではメキシコの大きなつば付きの麦藁帽子として知られているソンブレロはスペイン語でつば付きの帽子のことですが、これもソンブラから来ている言葉のようです。
 スペインと言えばすぐに闘牛を連想される方も多いと思いますが、闘牛場の座席は、ソル、ソル・イ・ソンブラ、ソンブラの3つに分かれています。ソルは日当たりの席」、ソンブラは日陰の席、そしてソル・イ・ソンブラは、はじめ日が当たっていて、だんだん陰になるという席でソンブラは闘牛士に近く暑くないし、眩しくもないというわけでソルの2倍以上の料金だそうです。(我々は、まだ実物を見たことがありません)闘牛場のダフ屋さんは、これを知らない観光客にソルのせきを、よい席だと言って高い値段で売りつける事があると言いますので、スペインで闘牛を見物される時はお気をつけ下さい。