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C55流改(3Dプリンター)

3Dプリンターで出力した流線形と改造後流線形

2024.9.9

3Dプリントサービスのひとつ、DMM.makeに「高精細プラスチック」という素材があります。鉄道模型に最適と書かれていますので利用してみました。


素材(紫外線硬化樹脂)とプリンターについて

DMM.makeのサイトによりますと、機材はProjet MJP2500Plus、素材はVisiJet M2R-TNということです。
以前何度か使った Projet 3500HDMax(高精細アクリル)と同様のインクジェット方式で、1層ごとに素材と周囲のワックスサポートを噴射して紫外線硬化させていく方式だと思います。

従いまして造形物の特徴も恐らく同じと想像しました。
この方式の長所は、ユーザー側で複雑なサポート構造を考える必要がなく、どの面も比較的正確な寸法でカッチリ造形されること。
弱点は、おそらく樹脂とサポート材の界面の滲みによって、サポートに埋まる側面部がざらつく傾向があること。また層間結着がやや弱く、細い部分が積層間でポロッと折れやすいことかと思います。その認識で注文してみました。

素材のM2R-TNは一風変わった黄土色ですが、プリンターのメーカーには他の色もあり、データシートを見ると色によって物性が異なるようです。その中で黄土色のM2R-TNは、引っ張り強度や曲げ強度が一番高いのでDMM.makeで採用されたのかもしれません。
一部、他色より落ちるように見える試験項目もありましたが、私の解釈が違うかもしれません。

題材と3Dモデリング

C55流改、つまり流線形の一般化改造機にしました。特別視はしていなかった形態なのですけども、蒸気機関車EXの57号でちょうど流改の特集があり、それを見ているうちに無性に作りたくなりました。 また大変勉強になりました。

3Dデータ

一応のモデルは末期の28号機ということにし、データは以前作ったC55一次形後期の15号機をもとにしました。

特徴が大体出ていればよいと思い、テンダー・キャブ屋根・ドームのみ作り変え、その他のディテールには手を入れない予定でした。しかし進めていくと意外な違いが出るわ出るわで、思ったよりも手間がかかりました。
自分があまり注目していない箇所には、15号機ママのところが残っています。

テンダーの3Dデータは実際に以前作った流線形を元に改造しました。屋根を撤去し、側板を作り変えたものです。
キャブの屋根も流線形から写し取って使いました。

3Dプリント注文

STLデータチェック

外部に注文するためSTLデータチェックをしたところ、案の定エラーが出たうえ自動修正が効きません。

自前の3Dプリントではエラーがあってもスライスできなかったことはないので、ダメもとでこのまま3Dプリントサービスにアップロードしてみました。

幸いアップロード時に行われる自動チェックは問題なく通り、注文可能になりました。よかったです。ダメなら何とかエラー解消するしかありません。

ただ注文後に改めて行われる詳細なチェックにて、最小寸法に満たない細い箇所や薄い箇所が多々見つかりました。造形後に破損するかもしれず、実際にどうなるかわかりませんでした。

造形完了

約7,000円かけて待つこと2週間、造形物が届きました。

造形されたエンジン側ボディー

まずは嬉しいです。思ったより全体の歪みは少なく、カッチリした仕上がりでした。また細い部分も欠損はごくわずかで、ほぼ完全にできていました。ただ、やはり基準に満たないところはその後の扱いでどんどん失われていきました…すみません。

側面部(天面を除く部分)は、想像通りサポート界面となるため結構ざらざらしています。ここに関しては、お手持ちの個人用プリンターのほうがきれいだと感じる方もいらっしゃるかも。

ボイラー部や屋根の丸みにどうしてもできる、ドットのガタガタによる細い横縞もカッチリ出ます。斜め造形するとどうなるかを見たい気もしますが、傾けると造形高さが上がるためお金がたくさんかかります。なので、いいですね。

非公式側ボイラー超拡大

非公式側ボイラーの超拡大です。表面の様子がお分かりいただけるでしょうか。

ハンドレールを通す穴など、非常に細い部分には欠損もありますが、折りこみ済みですので特に問題ありません。

側面部はざらつくものの、ランボード上など天面は非常に滑らかです(今回網目模様は付けませんでした)。HD3500Maxでは天面にもさざ波のような独特の模様が付くことがありますが、これはかすかな縞模様があるだけです。

フロント

門鉄デフは少し太め・厚めに作っておいたので問題なく出ていました。デフ表面はペーパー掛けでザラザラを取り除いたほうがよいと思いますが、初めての樹脂をありのままに見たかったので、何もしませんでした。

給水温め器の上の踏板は天面となっているので、ざらつきがなく滑らかに出ています。

テンダー

テンダー側面は細かい縞模様で木製のような感じです。ただし寸法は十分正確に出ており、下廻り・ダイキャスト部が一発でパチンとはまりました。

私のモデリングのミスで、裾の部分にあるATS配管が1本歪んで垂れています。配管が壁に密着しておらず0.05mmの隙間がありました。あとで修理しましたが、その後も隣接部が取れ、放っておいています。

ところで実物の流改機はテンダーの側面形状や高さがてんでバラバラですね。28号機は最初は高かったものが、後に低く改造され、その後また増炭枠を付けることがあったりと色々変化しています。

仮組み

C55の動力ユニットを装着してみたところです。以前に一次形を作ったときはC57の動力だったため、フロント部のダイキャストを削る必要がありましたが、今回はまったく何もせずにパチンとはまりました。これは気分がいいです。
いつもの手製ですと、何となく「ぐにゃっ」とした手ごたえになることが多いもので…。

テンダー中身

なおテンダーの中身は先に作った流線形(写真)と同じく、TOMIXのテンダーの側板を切り取り、ダイキャスト前後を削っています。

組み立て・塗装

動力との組み合わせに問題はなさそうなので、塗装して組み立てました。

超音波洗浄

サポートはあらかじめ溶解除去されています。一応超音波洗浄にかけてみました。

だいぶ前にHD3500Max(高精細アクリル)で造形してもらったときは、この過程でモワーッと白いものが沸いてくることがありましたが、今回は特に目立つものはありませんでした。1回だけで終えました。

塗装と組み立て

黒塗装はいつものようにアクリジョンで、ブラック:つや消しブラック=1:1にしました。表面の細かいザラザラで木造機関車のようになってしまいましたが、今回は気にせず行きまして。

それでも白線を入れて格好を付けたりしてみました。

あとは細かいディテールが取れたあとを整えたり、です。

完成

部品の寸法精度が高いので、組み立てはすべて想定通りに進んで(はめるだけ、ですから)大変楽でした。

完成

造形物表面の仕上げをせず、そのまま塗装した様子です。
ちなみに意見としては、ペーパー仕上げをしたほうが断然よいと思いますが。その際に余計なところを折ってしまいそうな心配も。

一次形や三次形のC55では、側面にあるつづら折りの繰り出し管の裏側に逆転棒がありますが、流改では重なりが逆なんですよね。なぜでしょう…。また、多くの流改の逆転棒は全体にわたり直線的ですが、28号機などは前方が湾曲しています。

ほか、流改はコンプレッサーと給水ポンプが少し後方にあるようで、図面を見ると流線形時代からそのようです。接続する配管の変更も必要で、3Dモデルの修正は想定より大ごとでした。何か他にも気づかぬ違いが色々あるんだろうと思うと、作っているうちにどうでもよくなってきますが(笑)。

前面

ナンバープレートは手持ちのエッチング品を付けました。

積層方向の関係で、フロントのステップも折れやすいのではと思いますが、ある程度データ上で補強してあり、今のところは大丈夫です。

非公式側

この機は密閉キャブのドアが撤去され、開放キャブのように改造されています。
手持ち資料の関係で、いくつかの時代の姿が混在しています。

テンダー

やはり天面になる箇所は非常に滑らかです。模型によってはこの性質を生かして、うまく分割配置するとよいかもしれません。

ところで給水口の左右にある小判型の薄い板は、流線形時代に左右にあった給水口の名残りです。

キャブ屋根

キャブ屋根の吊り金具は造形時に取れたようで痕跡のみです。この素材の場合、特に小さい部品は積層面からポロッと取れやすいようなので、データ作成の際には注意したほうがよさそうです。

白に塗ったキャブ裾のデザインには何種かありますが、最も特徴を感じた2辺斜めタイプ(鷹取・小倉工場タイプ)にしました。

というわけで、作品として完成させるには表面処理が大変そうですが、蒸気機関車のスタイル表現は十分できそうな素材です。
素材ではなくインクジェット式という機材の性質になりますが、一番の利点は複雑なサポート構成を考える必要がないことと、寸法の再現度がどの面も良好なことでしょうか。個人用の光造形プリンターですと、どうしてもサポートが付く側の面が乱れたり、分厚くなって寸法があいまいになりがちです。ほか3Dプリントサービスですと、プリント後のサポート除去や洗浄・二次硬化・用具の片づけなどの面倒さがないのもよいところです。

一方、個人用光造形プリンターの最大の利点は、やはり思い立ったときにすぐ造形できることや、細い部分・薄い部分も無理が効くことでしょうか。色々な樹脂を選べるので、靭性の高い樹脂を使えば細い部品も結構丈夫で安心感があります。積層に沿って折れやすいということもありません。あと樹脂をボトル1本買ってしまえば、その後のプリント作業は何となくお金がかかっていないような気がしたり…ですね。幻ですけどね。

流線形と流改形

よく使われているHD3500Maxによる高精細アクリルに比べますと、ディテールは概ね同等、天面部の平滑性は今回の樹脂が上。細かい部分はHD3500Maxのアクリルのほうが破損しにくい印象でした。

ただ、4年前にβテストだけで終わった、MJP5600のアクリルHiReso/HiPre(下記)ほど欠損しやすくはありません。あれは触っただけでポロポロ取れてしまうこともあったので、今回のMJP2500のサービスのほうが多少よさそうです。
C58(3Dプリンター) ※MJP5600による、テストのみで終わったサービス


●おもな参考書籍(書籍名のみ・一部)
・蒸気機関車スタイルブック(旧版・新版) 機芸出版社
・蒸気機関車の角度 機芸出版社
・1号機関車からC63まで ネコ・パブリッシング
・スポーク動輪の世界/華麗なるパシフィックC51・54・55 誠文堂新光社
・蒸気機関車EX Vol.57 イカロス出版


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