ストーリーテリング

雑誌「ビズテリア経営企画」に連載した「ストーリーテリングで人を動かす」10回シリーズのうち第1回〜第5回を再掲しています。

第1回「ストーリーテリング」で人を動かす

第2回ストーリーテリングが効果的な7つのシチュエーション

第3回価値観を伝える

第4回危機意識を持たせる

第5回未来に導く


第1回「ストーリーテリング」で人を動かす

20年近くにわたってコンサルティングの世界に身を置いてきたが、長年、顧客に我々の提案を実行してもらうにはどうしたらいいのか、と悩み続けてきた。そして、その結果たどり着いたのがストーリーテリングである。ストーリーテリングを使うと相手の反応が変わる。相手が行動を起こすことが分かってきた。実は、こういうことが大切なのだということを、今回から数回にわたり、ストーリーテリングのエッセンスを交えて語ってみたい。

さて、まず、世界の宗教の中で一番人口が多い宗教は何だろうか?ふとそんな疑問を持って、インターネットを調べてみると、一番多いのが、がキリスト教で20億人超である。ざっと世界の人口の約1/3がキリスト教徒である。続いて多いのが、イスラム教で10億人強。3位がヒンズー教で10億人弱。イスラム教がアラブ世界から支持され、インドの人口の大半がヒンズー教であることを考えると、キリスト教信者の人口の民族的広がり、地域的な広がりに驚かされる。キリスト教がもともとユダヤ教から出た宗教で、ユダヤ教徒が現在でも2千万人に満たないことを考えるとキリスト教の伝播力の強さに感嘆する。ざっと2千年で100倍である。キリスト教が広まったのには、教義の普遍性もあると思うが、私は、実はそのストーリー性にあるのではないかと思っている。

イエスがユダヤ人として、処女マリアから生まれ、成人してから、数々の奇蹟を起こしながら反ユダヤ教的考えを布教したため、十字架の刑にかけられたが、死後復活を遂げた、というストーリーは、キリスト教徒ではない私でも知っている。一方、イスラム教の話やヒンズー教の話は殆ど知らないし、実家は浄土宗であるが、お釈迦様や宗祖法然の話もよく知らない。不勉強だといわれればそれまでだが、あまりそれらの宗教にまつわる話に触れる機会がなかったからではないかと思う。キリスト教の伝播力の強さの根源には、イエスの物語の分かりやすさ、それをまた人々が語りついで来たからではないかと思うのである。

話変わって、日本のアニメ。古くは鉄腕アトムが、マイティボーイとして海外でもよく知られていた。比較的最近では、ポケットモンスターが米国で流行った話は有名だ。ドラゴンクエスト等もヨーロッパで人気とのこと。また、最近、マッハゴーゴーゴーがハリウッドで実写版で復活した。私たちが子供の頃は、マンガばかり見ているとバカになると、親から叱られた。しかし、「巨人の星」や「明日のジョー」などは見ずにいられなかった。そうしたアニメが、海外では日本を代表する文化になっている。アニメもストーリーの一種である。

アニメは、単に海外に普及したばかりではない。その後の日本の科学技術の発展にも貢献している。日本は、ヒト型ロボットの研究では世界一である。ホンダのアシモが出たときにはみな驚かされた。トヨタもロボットの研究に本腰を入れ始めた。そうしたロボット研究者の原動力になっているのは、手塚治虫作の鉄腕アトムである。日本のロボット研究者は、みな「鉄腕アトムのようなロボットを作りたい」と思って研究してきた。子供の頃親に白眼視されていたアニメが、現代の日本の科学技術の意欲を支えている。

ストーリーといえるものは、古今東西いたるところにある。神話、文学、演劇、歌、映画、TVドラマ数え上げればきりがない。しかも、日本人がストーリーを創出する力は世界的に見ても優れている。源氏物語は世界最古の長編小説だし、江戸期には近松門左衛門等の優れた作家を輩出している。また、最近では、世界に類を見ないほどたくさんのマンガが毎週毎週出版されている。

こうしたストーリーの力、日本人が得意なストーリー力をもっとビジネスの世界に活かせないものか。いや、きっとあるのではないか。第2回から、このストーリーの力をどのようにビジネスに活かして行ったらよいかをみていきたい。


第2回ストーリーテリングが効果的な7つのシチュエーション

ストーリーテリングが効果的なシチュエーションについて考えてみたい。論理と資本主義の国アメリカでも数年前からストーリーテリングが流行っている。ハーバードビジネスレビューなどでもストーリーテリングについてときどき論文が掲載されている。そうした中で、ストーリーテリングは、以下の7つのシチュエーションに効果的であると言われている。

1.自分を理解してもらう

2.価値観を伝える

3.変革のための行動を引き出す

4.未来に導く

5.共同作業を促す

6.ナレッジマネジメント(知恵を共有する)

7.うわさを管理する

まず、「自分を理解してもらう」ということだが、これは、自己紹介に活用すると有効である。私達は、いろいろな場面で自己紹介のチャンスがあるが、自己紹介されて印象に残る人と残らない人がいる。その違いは何かと考えてみると、印象に残るエピソードがあったがなかったかであることが多い。

例えば、私の場合、「日産自動車で情報システムと海外企画を担当し、コンサルタントになろうと当時の三和総研に入って10年経営コンサルタントをやりました。得意分野は、経営戦略や中期経営計画です。」と自己紹介しても、聞いた人はあまり印象に残らないだろう。

それに対して次のような自己紹介はどうだろう。

「私は、メーカーが好きで、最初日産に就職して、海外部門の中期経営計画を担当していました。当時の部長から海外部門全体の中期経営計画案をまとめてくれ、といわれたので、まずたたき台をということで1週間程度でまとめて持っていくと、『うん、これでいいよ』といわれて、それがその後、そのまま何の議論も修正も加えられず会社の海外部門の中期経営計画になってしまいました。こんなんでいいのかなと思っていると、その後しばらくして、みなさんご存知の結果になってしまいました。社内できちんと議論することができていなかったのですね。さて、私はゴーンさんが来るだいぶ前に辞めていますが、コンサルタントになったきっかけは、日産がマッキンゼーに北米の製品・市場戦略プロジェクトを頼んだ際、プロジェクトメンバーになった経験がきっかけです。ロサンゼルスで、4ヶ月ほど現地スタッフといっしょにプロジェクトをやりました。ホテルに泊まってずっと英語づくしだったのですが、当時のマッキンゼーの米人のプロジェクトリーダーに進め方や内容でいろいろ噛み付いたりしていました。やっているとコンサルタントって自分にもできそうに思ったのと、いろいろな会社の仕事がやれて面白そうだったので、なることにしました。でも、日本のマッキンゼーに行くと、『クライアントからは採れない』と言われて、当時、大企業向けのコンサル部隊を立ち上げ中の三和総研に入ったのです。三和総研に入ってからは、日産時代の中期経営計画立案スキルを活かし、いろいろな中期経営計画立案プロジェクトをやりました。いいかげんたくさんやったので、卒業論文のつもりで、実務家向けに『中期経営計画の立て方・使い方』を書いて出したら、好評を博しベストセラーとなりました。今でも企業の経営企画の方にお会いすると、『この本読みました』とか『前の中計で使わせてもらいました』などのお話を頂きます。」

事例が私事で恐縮だが、最初の簡単なプロフィール紹介に比べ、だいぶビビッドに伝わるのではないだろうか。こういうふうに自己紹介ができると、初めての方でも私のことをだいぶご理解頂けるようで、その後の話がしやすくなる。

自己紹介にストーリーテリングを活用するポイントは、自分が想いを込めてやってきたことや、うまく行ったエピソードを事実に即してリアルに紹介することである。その際、留意したいポイントが3つある。一つは、場面設定をきちんと行なうことである。いつ、どこで、どのような状況なのかを的確に表現することである。私の事例の場合でいうと、日産時代に海外部門で中期経営計画案の立案を指示された場面やマッキンゼープロジェクトメンバーに指名された場面などである。二つ目は、主人公である自分の心の動きや感情、想い、行動を表現することである。事例で言うと、「こんなんでいいのかな」とか、「これなら自分でもできそうだ」などである。三つ目は、その結果どうなったかという話の結末である。事例でいうと、たまたま書いた本がそのカテゴリーでベストセラーになったこと、である。これらの3つの要素を揃えて順序だてて話すとストーリーテリングを使った自己紹介が効果的に行なえる。


第3回価値観を伝える

ストーリーテリングが効果的なシチュエーションのうち、「価値観を伝える」ということについて考えてみたい。

「価値観を伝える」には、過去の優れた経営者の判断や行動を引き合いに出すのが効果的である。例えば、本田技研では、本田宗一郎さんの様々な武勇伝を語り伝える中でホンダが大切にする価値観・DNAを伝承している。宗一郎さんのエピソードに次のような話がある。

ホンダがまだバイクメーカーだった1954年、宗一郎さんは、当時英国のマン島で行われていた世界最高峰のレースに出場することを宣言した。ホンダがまだようやく量販バイクを売り始めたころで、当時のホンダには、まだそうしたレースに出場する実力がまったくない時代だった。宣言したからにはと、宗一郎さん、そのレースを見に行って、実物を見て驚いた。とても当時の本田の技術では勝てる代物ではなかったのだ。「とんでもないことを宣言してしまった。」と、一瞬ひるんだ宗一郎さんだったが、すぐに負けん気が頭をもたげてきて、その海外出張の帰りに、ヨーロッパの優秀なバイク部品を買い集めて帰ってきたそうだ。帰国後、宗一郎さんはすぐに、これまでの開発体制ではとてもマン島のレースに出られるバイクは作れないと考え、技術研究所を別に設立したという。これが現在も続く後の株式会社本田技術研究所の出発点である。カーメーカとしては珍しく現在でも開発部隊が別会社になっている。この技術研究所が中心になって、レースに出られるエンジンを開発し、5年後には実際にレース出場を果たし、そのまた2年後には、みごと優勝を収めている。これをきっかけにしてホンダは世界一のバイクメーカーになっていったのである。

ホンダでは、よく、まず初めに「ありたき姿」を描き、その後、どうしたらそこに辿り着けるかを考えるという発想をするんだ、といわれる。しかし、ただ単にそういう風に諭されても、実際にどうやったらいいかイメージが浮かばない。なぜなら普通の人は、まず自分がやれそうなことを先に考えて、それをやったらどうなるかという発想をするからで、「ありたき姿」を先に考えろ、と言われても、ピンと来ない。しかし、先の宗一郎さんのエピソードは、まさに「ありたき姿」(=世界最高峰のマン島のレースに優勝すること)を考え、それを実現するにはどうしたらいいかを考える、ということを地で行っているのである。宗一郎さんがそうしてきたからこそ、今日のホンダがあるのだ、といわれると、実話なので反論のしようがない。また、実際にそうして成果を上げてきたのだから、そういうやり方を自分たちもやってみようという気持ちにもなる。

一般に、企業理念などに書かれている言葉は、その企業が大切にする価値観を表しているが、抽象的な表現が多い。その分、どこの会社の企業理念も表現が似てくる。そして言葉が抽象的であればあるほど、その意味するところは、曖昧になっていく。

しかし、企業理念は、その企業が長年実践してきたこと、心がけてきたことを集大成した言葉の集まりであり、それだけ事実、歴史の裏付けがあるものであるはずだ。だから企業理念を浸透させるには、理念の言葉、一つ一つに創業者、経営者のエピソードを交え、なぜその言葉が大切であるのか理解してもらえるようにすればいいのである。そうすれば、今ある企業理念の言葉ももっとよく社員の人たちに実感を持って伝わるのではないだろうか。

価値観や思考パターンを伝える際にストーリーテリングを活用するポイントは、まず創業者や、過去会社に貢献のあった人に関連したエピソードを語ること。宗一郎さんの例では、マン島のレースに出場した話である。次に、そのエピソードが、その価値観や思考パターンにどう紐付いているかを分かるように説明すること。ホンダのケースでは、宗一郎さんのエピソードがまず「ありたき姿を考える」という発想方法と同じであることを述べる。そして、そのような価値観や思考パターンを取ることによってその後どのようなよいことがあるか、起こるかを説明する。ホンダのケースでは、今日のホンダの発展が、そうした発想の賜物であることを語る。最後に、この話を聞いた皆さんも、そのように心がけて下さい、というメッセージで締めくくるのである。そうすることによって、ストーリーテリングを価値観や思考パターンの伝承に役立てることができるのである。



第4回危機意識を持たせる

今回は、ストーリーテリングが効果的なシチュエーションのうち、「危機意識を持たせる」ということについて考えてみたい。

「危機意識を持たせる」にはストーリーテリングだけでは充分ではないが、ストーリーテリングもその中の重要な役割を占めている。最近の国内での事例としてパナソニック(2008年10月1日松下から社名変更)の改革を例に見ていきたい。

まず改革の概要であるが、中村前社長(現会長)が2000年6月に松下の第6代社長に就任し、「破壊と創造」という名のもと、早期退職制度の導入、事業部制の廃止等矢継ぎ早に様々な改革を断行した結果、2002年3月の決算は連結最終赤字4,310億円という過去最悪の業績にいったん陥った。その後改革を継続し、業績も徐々に回復し(図参照)、2008年3月期には純利益が2,818億円となり、22年ぶりに最高益を更新するまでに復活したのである。

中村前社長は就任当時、松下は、松下幸之助氏の「水道哲学」に基づき独立性の強い事業部制のもとで大量生産・大量販売の20世紀型のビジネスモデルにとらわれていて、改革が遅れており、「このままでは松下はつぶれる」と強い危機感を抱いていた。そこで2000年の10月には、「破壊と創造」という中期経営計画「創生21計画を発表した。翌2001年度は、早期退職者募集を行いグループで1万3千人を減らした。また、マーケティング本部を新設したり、家電流通改革を実行したりと矢継ぎ早の施策を行い、「破壊」を繰り返していった。さらに2002年度からは事業部制を廃してドメイン別のカンパニー制を導入したり、兄弟会社である松下電工等グループ会社を子会社化したりした。そして最後の仕上げになったのが、パナソニックへの社名変更である。

グループで30万人もの社員がいると、一人ひとりに危機意識を持たせることは並大抵ではない。しかし、社員に危機意識を持ってもらわなければ改革は進まない。だからいろいろと工夫が必要になる。中村前社長がグループ社員に危機意識を持たせるために仕掛けた(と思われる)ことをいくつか見てみる。

一つ目は、こんなまずいことが起こっているという実話を伝えることである。中村前社長は、主力であるTV事業を引き合いに出してこんなエピソードを紹介している。ソニーの平面ブラウン管テレビベガがヒット商品になっていたときのこと、松下のテレビ事業部長は、こう言い訳したという。「当社の画面はナチュラルフラットです。ベガは平面なので、真ん中がくぼんで見えるが、当社はほぼ平面で絵が自然にみえるでしょう」と平然と言ってのけた。テレビ事業部長はその時全く危機感を感じていなかった風であったというのである。これを聞いた中村前社長は、テレビ事業部長の危機感のなさに逆に大きな危機感を抱いたという。このように社員に危機感を持たせるには、聞いたら「そんなバカな話があるか。」とか「そんなふうに思っているようじゃあだめだ。」とかびっくりしたり、呆れたりするような実話(エピソード)を紹介するのである。

二つ目は、「このままでは松下はつぶれる」という自分自身の危機感をデータと予測に基づいて伝えることだ。過去からの売上や利益の推移、主力事業のシェア推移など事実に基づいて、今後起こりうる要素とそのトレンドを加味して予想し、このままいくと会社が潰れてしまうという危機感を伝えるのである。これは、日産でゴーン社長がリバイバルプランの発表の際に使った手法でもある。

三つ目は、2002年3月期に過去最悪の赤字になった、という紛れもないまずい事実を内外に向けて明るみにしたことである。「過去最悪」、過去に起こったことのないことが今起こっている、だから意識と行動を変えなければならないという強いメッセージになった。

四つ目は「聖域を壊した」ことである。松下は松下幸之助が作り、育てた日本を代表する会社だが、「創業者が作った経営理念以外はすべて破壊して良い」という大方針のもとに、その幸之助さんが手塩にかけて作り上げた事業制を壊し、かつ終身雇用の大方針も転換して早期退職制度を導入したりしたのである。これらにより、聖域がないほどの改革が必要なのだということを社員に知らしめたのである。

このように社員に危機意識を持たせるには、いろいろな仕掛けを盛り込む必要があるが、その中の一要素としてエピソードを使ったストーリーテリングを活用すると効果的である。



第5回未来に導く

よく「明確な目標を持て」と言われる。明確な目標とは、将来の特定時期にこうなりたいという目標である。スポーツ選手で言うと、オリンピックでメダルを取る、などの目標である。明確な目標を持てると、それを達成する意欲が湧くし、その目標達成に向けて現在の自分に足りないものが認識でき、それを補うための方策を考えたり、実行したりする。だから、明確な目標がある場合は、基本的に人間は前向きになれる(図表参照)。おそらく読者の皆さんも、過去自分のことを振り返ってみて、明確な目標が持てた時は前向きな気持ちが強かったという記憶があるのではないだろうか。

それに対して、明確な目標が持てないときは、モチベーションが上がらないため、現状に対する不平・不満が多くなるし、自分の不満の原因を他人に押し付けがちである(いわゆる他責)。先の北京オリンピックで水泳の北島康介選手がみごと2つの金メダルを獲得したが、彼もアテネで2つの金メダルを取ってからしばらくは調子の上がらない時期があった。怪我もしたようで、どうやら彼はその時期目標を喪失していたようである。彼のような精神力の強い選手でも、一度目標を見失うと、モチベーションの低下にさいなまれてしまう。しかし、北島選手の場合は、北京に向けて再度目標を設定し直し、きちんと追い込むことができたので、再び金メダルを2つ獲ることができたのである。彼が一つ目の金メダルを獲得した100メートル平泳ぎ決勝で、ゴールした後の両こぶしを挙げての雄叫びと、歓喜の涙でインタビューに応えられない様は我々の瞼に鮮明に焼き付いている。それだけ彼にとっても嬉しい金メダルだったのである。

その持つべき明確な目標の設定方法には2つあると言われている。一つは、現状から方策を積み上げていって、これだけやればここまで到達できるという現状延長型の目標である。このやり方は、理解はしやすいが、目標のレベルが低くなり、夢が小さくなりがちである。もう一つの方法は、先に大きな目標を立て、それと現状を対比し、足りないものを明らかにしてギャップを埋めていこうというものである。以前の回で取り上げた本田宗一郎さんは明らかに後者のタイプである。このため世の中では、よくこの後者のやり方をしないさいと言われているが、筆者のこれまでの経験では、この後者のやり方ができる人は1割に満たない。残り9割の人は前者の方法を取っている。これは思考パターンの癖のようなもので、容易にこのパターンは変えられないのである。

しかし、我々が活用している「ビジョン・ストーリー」という方法を使うと、ほとんど誰でも後者のような発想パターンを身につけることができる。この手法は、石川正樹氏の開発によるものだが、最先端の脳科学理論や大脳生理学の理論に基づいて組み立てられている。

ビジョン・ストーリーの特徴や作成方法については回を改めて説明するが、ここではまず、明確な将来目標=ビジョンの要件について整理しておきたい。企業変革理論で有名なハーバード大学のジョン・コッター教授は、優れたビジョンの条件を6つ提示していて、その筆頭に、「将来のイメージが明確であること」を挙げている。重要なのは、「イメージ」という部分である。イメージという限りは、絵や映像のようなものでなければならないということだ。確かに、ハイビジョンという言葉には映像という意味が込められている。しかし、筆者の見るところでは、企業が打ち出す「経営ビジョン」や政府の打ち出す「○○ビジョン」なるものの解説をいくら読んでも、絵やイメージのように思い浮かべられるものはほとんどない。例えば、三洋電機のホームページには、「目指すべき企業像『環境・エナジー先進メーカー』」としている。しかし、「環境・エナジー先進メーカー」という言葉だけでは、「企業像」というだけの「像」が浮かんでこないのである。果たして将来像やビジョンという言葉は適正に使われているのだろうか?次回は、この部分を明らかにしたい。