第2回

母親が癌であることを息子に説明した時の話です

00.3.30

本日は、肝硬変で入院中のM(女性)さんの息子さんに病状の説明をしました。

この患者さんは私がこの病院にきてまもなく出会った患者さんです。

約10年前のことです。ひどい肝硬変のため、肝性脳症を起こして意識障害、失禁、振戦の状態で運ばれてきました。血中アンモニアが著明に高く肝硬変から来る高アンモニア血症のため肝性脳症をきたしたものと判断しました。

食道静脈瘤も著明で、腹水もたまっていました。肝臓も小さく萎縮しており長く生きることは出来ないと思われました。肝性脳症の治療をして症状は良くなり元気に退院出来ましたが、脳症を繰り返し近いうちに亡くなるでしょうと息子さんには話しました。半年の命でしょうと説明しました。

それから10年肝性脳症を繰り返しながらも元気にすごしてこられました。

しかし残念な事に、数日前の検査(CT)で肝臓の右葉に肝臓癌が発見されました。

本日息子さんに肝臓に癌ができていること、このまま進行すれば今年いっぱいもたないであろうと話しました。そして年齢からも肝硬変の状態からも手術治療は無理であるし、その他の延命処置も困難であると話しました。長くみている患者さんに癌が出来、それを家族に説明することは医師として一番つらいことです。

でも本日は息子さんがこういってくれました。
「10年前に半年の命といわれ覚悟していました。しかし、先生のおかげで母はこんなに長生きできました。この病院と先生から離れて他で治療する気持ちはありません。最後までどうぞよろしくお願いします。母は先生にめぐり会えて幸せでした。」

あとどれくらい生きられるかはわかりませんが、無駄な延命はせず出来るだけ苦しまないようにすること、これしかしてあげられることはありません。

つらいつらい説明でした。

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