闘いを終えたボクサーの顔面に生々しく残った傷跡。腫れ上がった頬、切れた瞼からその頬をつたって滴り落ちる
鮮血。拳ひとつに人生の全てを賭した男の生きざま。Joe Sampleは、男心を、一人の類まれなヘビー級チャンピオン、
ジョー・ルイスに託して一曲のバラッドを編み上げました。きっとJoe Sampleは、ボクサーの鮮血が、光り輝くダイヤモンド
に様変わりする瞬間を知っている人にちがいありません。
曲の前半と後半にさりげなく挿入されたKO劇のカウントダウン。しかし曲自体は、アグレッシブでもなく、いたずらに
騒々しくもありません。
現役当時、褐色の爆撃機というニックネームで呼ばれたジョールイスを偲んで、
Joe Sampleは、ひたすら童心に帰って鍵盤に指を走らせているかのようです。曲は訥々と
静かに進行します。おそらくは少年時Joe Sampleにとって英雄だったはずのジョー・ルイス。
ジョー・ルイスは、途中KOの挫折を味わいながらも達磨のように起き上がり
世界ヘビー級王座にたどり就きます。69勝55KO3敗の戦績が物語る豪腕の不世出のファイター。しかし晩年は、無一文同然となり、プロレスに転向、リング上での怪我がもとで
自由に動くこともままならなくなったといいます。この人生の光と影をボクサーとして苛烈に生きた男の軌跡を、
Joe Sampleは、瞼の鮮血を真っ白いタオルで拭うリングサイドのトレーナーのように、淡々とクリスタルタッチで詩情を
綴ります。これが男心です。
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