第93回 平成16年月3月6日
☆ 啓蟄や指舐め測る風の向き
寒禽や喉んどに甘き神の水
孕み鹿谺に耳をそばだてる
芳子
啓蟄の土やはらかく返しけり
やはらかく響く鎚音涅槃西風
春風の真ん中にゐて砂遊び
師の席を囲みて歌ふ卒業歌
比呂
名の付かぬ木橋に積もり春の雪
啓蟄や身を曲げて切る夜の爪
白き斑の形あやふや孕鹿
清子
警官の自転車揺らす春疾風
啓蟄や雛鳥小屋のざはめける
抽斗に納める念珠余寒かな
暖かや彩のまばたく万華鏡
春寒し塩蓋厚き糠の床
生え変る前歯の太しよもぎ餠
一構
春昼の積み木散らばる子の新居
啓蟄や足踏みミシンに注す油
敬子
物乞ひの瞳をしてゐたり孕鹿
春暁や舟が湖上の富士登る
良人
孕鹿湖面の返す陽に入りぬ
啓蟄や土の香たまる切通し
登美子
あどけなさ残し草喰む孕み鹿
軒先を借りて膝折る孕み鹿
幸一
煙管吸ふ歯の無き口や春の宵
林間に一声残し孕鹿
鴻
奔流の飛沫を被り蕗の薹
利孟
啓蟄やいざりてこなす土仕事
春の雪湯めぐりバスに客一人
バスが道ゆづる国道西行忌