兼題: 冬ざれ 毛皮 十二月 晦日蕎麦



  利孟
 十二月愛用手帳は廃版に
 花立ての枯れた花替へ十二月
 衛兵の立て銃熊の毛皮帽
 冬ざれの野に塹壕を築き兵
 注連を綯ふブルーシートに藁広げ
 松手入れ揺らぐ脚立をなだめつつ
 風に鞭鳴らしサンタの橇を駆る

  信子
☆毛皮着て最前列の指定席
○老木の瘤を重ねて冬ざるる
△売り出しの旗立ち並び十二月
△隙間風厨に飾るみつをの詩
△充電の小さき点滅十二月
△冬ざるる丘の百穴百の闇
 蕎麦好きの夫に供へて晦日蕎麦

  比呂
○冬ざるる風の舞ひたる石舞台
○小春日や目覚め赤子の独り言
○閂に太縄かませ牧閉ざす
△冬麗や軽き病を持ちて生き
△初湯出て赤子全き赤子なる
△熊撃ちの鹿の尻皮揺り歩む
△川底の細き流れや十二月

  ミヨ
○傷の柚子たつぷり浮かび終ひ風呂
○冬ざれや庭に梯子を立てしまま
○板の間の板戸四枚晦日蕎麦
△八方に枝を拡げて冬薔薇
△麺棒の音軽やかに晦日蕎麦
△冬ざれや耕地整理の遅遅として
△押せ押せの日々に安んじ十二月

  美恵子
○来し方を語り笑ひて晦日蕎麦
△主なき畑背を越す草枯れて
△鳥も来ぬ裸の庭木冬ざるる
△彩りの葉を掃き納め十二月
△梅盆栽の花芽の固き十二月
△十二月ふるさと納税品定め
 ポチ袋二三用意し晦日蕎麦

  英郷
○冬ざれやゆつくり戻る夕鴉
△植木鉢一葉萎れて十二月
△青天の枯葉ふるへる梢かな
△吹き付ける風や毛皮の襟立てて
 晦日蕎麦夫婦二人でテレビ見て
 不惑ごろ愉しみありしボーナスに
 満艦の枝枯れ葉越しに青き空