ミステリ&SF感想vol.250

2026.10.13

デッドマンズ・チェア  阿津川辰海

ネタバレ感想 2026年発表 (KADOKAWA)

[紹介]
 百個の動詞に基づく特殊な能力、“コトダマ”を持つ能力者が誕生した世界。横浜で発生した、「射る」のコトダマにより雀、鳩、鴉が射殺された事件を捜査中のSWORD――警視庁公安部コトダマ犯罪調査課だったが、その最中にメンバーの小鳥遊沙雪が人質として捕えられた。その犯人は、駆け落ちしてきたという中国人の少年と少女。事件の捜査と並行して沙雪の行方を探し求めるSWORDだったが、駆け落ちした二人を追いかける中国マフィアのコトダマ遣いがその前に立ちはだかる。捜査と激闘の果てに明らかになる真相は……?

[感想]
 本書は、警察小説と能力バトルを組み合わせた快作『バーニング・ダンサー』の続編――〈コトダマ犯罪捜査課シリーズ〉(*1)の第二弾です。前作はシリーズ第一作ということもあってか、物語が比較的ストレートに進んでいきましたが、本書では、SWORDの一員・小鳥遊沙雪がいきなり拉致される一幕に始まり、複数の事件が同時並行で進行していく形になっています。複数の勢力が入り乱れて視点や場面が次々と切り替わっていくため、やや煩雑に感じられる部分もないではないですが、変わらずスピーディな展開で読ませてくれます。

 前作に続いて新たなコトダマが次々に登場してくる(*2)のも見どころで、(誤解を恐れずにいえば)前作に比べると物理法則を無視したより超常的な能力が目につき、結果として突っ込みどころが少なくなっているのは好印象。当然ながらコトダマによる能力バトルも見ごたえがありますが、本書では特に中国マフィアの“参戦”が効果的で、(前作の正体不明の犯人と違って)堂々と登場してくるはっきりした敵の存在によって、頭脳戦も含めたバトルが前作よりもパワーアップしている感があります。

 一方、「射る」のコトダマによる事件について、比較的地味な捜査を根気よく積み重ねていく筋道は警察小説らしい面白さですし、そこで班長の永嶺以外が主体となり、捜査経験がほとんどなかったメンバーの成長が描かれているのも魅力。そして、事件の不可能状況を打破する(ある意味で)意外な手がかり(*3)や意表を突いたトリックなど、ミステリとしてもよくできているのはもちろんで、特に最後に明らかになる衝撃的な真相に――さらにそれを納得させる作者の手腕にうならされます。

 事件の顛末と緊密に絡み合うように、シリーズとしての筋も着実に進めていく手際もお見事で、絶妙な(一応伏せ字)バランスの取り方(ここまで)によって強力な“引き”となっている結末には、期待をふくらませずにはいられません。ますます目が離せなっていくこのシリーズ、次作も大いに楽しみです。

*1: シリーズ名は帯の紹介文より。ちなみに、帯には“本作から読んでも楽しめる”と書かれてはいますが、どう考えても前作から順番に読むべきでしょう。
*2: 能力だけが説明されるものも含めて。作者のことですから、百個の動詞に基づく百種類の能力を事前にしっかり考えてあったのではないかと思われるので、さらなるコトダマの登場が楽しみです。
*3: これに関連する、コトダマのとある謎も興味深いところです。

2026.04.14読了  [阿津川辰海]
【関連】 『バーニング・ダンサー』