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ペイチェック 消された記憶 /
Paycheck /
Paycheck - Die Abrechnung

John Woo

2003 USA 119 Min. 劇映画

出演者

Ben Affleck
(Michael Jennings - コンピューターの技術者)

Aaron Eckhart
(James Rethrick - マイケルの雇用主)

Uma Thurman
(Rachel Porter - マイケルの同僚、生物学者)

Paul Giamatti
(Shorty - マイケルの親友)

Colm Feore
(Wolfe - 会社側の追跡者)

Joe Morton
(Dodge - FBI捜査官)

Michael C. Hall
(Klein - FBI捜査官)

Fulvio Cecere
(Furman - FBI捜査官)

Peter Friedman
(Brown)

Kathryn Morris
(Rita Dunne)

見た時期:2004年1月

あのフェイス/オフのジョン・ウーだし、短篇小説から長編映画が作られるフィリップ・K・ディックの原作。ブレードランナーの例もあるので期待していました。トータル・リコールマイノリティ・リポート、その上ヒッチコック風という風評も聞いたのでさらに期待。

主演にはあのどうしようもないストーリー、考えられないような俳優のアンサンブルのザ・コアを出演者全員の稀代稀なるティームワークで救ったメンバーの1人、アーロン・エッカートと、押し出しの良い大スターのベン・アフレック。その上華を添えるのがウマ・サーマン。キル・ビルでは華を添えるなどという生易しさではなく堂々たるアクション映画の主演を張り、後半に期待を持たせるあのウマ・サーマン。メイクもちょっと前のボケっとした顔立ちでなく、きりっと。このように豪華なスタッフ、キャストを揃え、素晴らしい作家の原作を使ったのに胴体着陸してしまいました。どうしてこういうことになってしまったんでしょう。

主人公マイケルは SF の世界だけで考えられるような変な職業についていて、仕事の度に高額の小切手を受け取っています。巨大コンピューターの絡む大型プロジェクトで他の人が作ったプログラムを解析し、改良品を作るエンジニア。実はあまり大手を振ってお天道様の顔を拝める商売ではありません。というのも他人が発明した物をこっそり分析して、さらに良い物を作ってちゃっかり特許登録をしてしまうというずるい商売だからです。その上企画が終わったら会社は機密保持のためにその間の記憶を消してしまうのです。後から調べられても忘れてしまっていれば追求ができないというわけです。しかし脳をいじるのは危険なので、タイムリミットも2週間と短い。ところが今回は3年という大掛かりなプロジェクトに誘われ、報酬も一生使いきれないぐらいの金額です。あまり深く人生を考えるタイプではないマ イケルはわりと簡単に引き受けてしまいます。

この種の映画では冒頭主人公登場の10分ほどで、カッコイイ主演俳優か、超おもしろいストーリーの説明シーンが観客の心をしっかりつかまなければ行けません。
成功例: ボーン・アイデンティティーフェイス/オフフレイルティー 妄執ヴィドック光の旅人 K-Pax、この先いくらでも例を挙げることができます。ウーは今回ここですでにこけているのです。彼らしくもない。

ベン・アフレックが実生活でコンピューターに強いのか弱いのかは分かりませんが、ペイチェック 消された記憶を見ているとあまりそれらしく見えません。実生活では PC に強くないハリソン・フォードが画面では上手にカバーしているのを見ると、脚本や本人の演技次第で何とでもなりそうに思うのですが。

3年経って消えた記憶の報酬として手渡されたのはいつものような大金の小切手でなく、A4の封筒に入ったガラクタ(このアイテムは見終わってからチェックすると楽しいです。あなたはいくつ覚えていられるかな。すぐバラすと行けないので、ガラクタの詳細は別なページに書きます)。手にしたのはプロジェクト開始直前に預けた自分の私物とも違っています。確かに時計とか、その他諸々を手渡していますが、マイケルは3年前、今返って来た製品とは違う物を身につけていたのです。秘書は「御自身がそのように希望されたので、報酬のチェック(小切手)はありません」とのたまう。観客はここで会社が大金を払うのを渋って、彼の記憶が消されるのをいいことにインチキしたのかと思います。ところが書類にはちゃんと自分の筆跡でサインしてある上、記録にもそういう風に載っています。サイン偽造という事も考えられますが、どうもよく分からない・・・。

普通ですとここで謎が謎を呼び、ミステリーっぽい雰囲気になるのです。観客は疑心暗鬼に陥らないと行けません。会社がインチキをしたのか、彼の記憶に重大な損傷が生じたのか、誰かの陰謀か、勘違いか、何か別な理由があるのか・・・。ところがあまり深い謎になりません。明らかにアフレックの演技不足。演技で売る俳優でない人を使った場合は監督の演出不足。私はまだアフレックが素晴らしい演技を見せる作品にぶつかったことがないので、ここは監督の責任としましょう。アフレックのような押し出しの良い人物は別に複雑な演技ができなくても、ただそこに立っていればいいのです。スキャンダルもゴシップも無く、グウィニス・パートロフと一緒にそこに立っていれば、ケネディー・ジュニア夫妻みたいなイメージです。それだけでハリウッドでは存在価値があるというものです。しかしケネディー・ジュニア夫妻は今ではこの世の人ではなく、パートロフはよそにお嫁に行ってしまい、JLo とのスーパー・カップルもこけたアフレックはどうも調子がよくありません。この作品が作られていた頃にはまだ JLo との破局の話は無かったはずですが、どうも今一つ乗りが良くありません。

後記: 当時までアフレックは大根役者という役を巧妙に演じていたようです。その後の役者としての器の大きさがこの時には全然見えていませんでした。その上監督としての腕もすばらしい。ジョン・ウーが真っ青になるぐらいの実力です。

さて、大金の代わりにガラクタ。これだけでも唖然としていいはずのマイケルですが、ペイチェック 消された記憶ではやや凡庸な出で立ちのアフレックは謎を謎らしくするチャンスを逃しています。悪党の方は一応人材が揃っています。大悪党のアーロン・エッカートはウィラードのクリスピン・グローバー風の妙な笑顔で何を考えているのか分からない。彼の腹心は世界的に有名な秘密諜報機関の上級エージェント風で、画面に登場した時点では俳優としての役目を立派に果たしています。ところが後半の演出でこけてしまうのです。研究所内の追いかけシーンでは、出演者がピストルを手に60年代の子供向き活劇、名探偵X氏ナショナル・キッドかというような配置になっていて、我が目を疑いました。なんで40年も前の子供向きの演出がここに出て来るの・・・!?

話を戻して、取り敢えずガラクタを受け取ったマイケルは FBI に捕まり尋問を受けます。警察関係の役が多いモートン氏、最近はやや白髪が増え、年を取って来ましたが、しっかり国のために勤務についております。何か事件が起きているようで、その内容を知りたいと言われますが、マイケルは記憶が消えてしまっており、証人として役に立ちません。ある重要人物がたまたま高層ビルの窓から落ちて死亡。その人物はたまたま ある重要な研究に携わっていたのですが、特許書類はその人でなくほとんどがマイケルの名前でサインされていたのです。FBI はこれがたまたまの出来事ではないと考え、探っているうちにマイケルにたどり着いたわけです。

まだ状況がよく呑みこめないままマイケルはトンズラ。逃亡のきっかけを作ったのが、彼の封筒に入っていたガラクタのうちの2つの品。尋問中の捜査官がマイケルの私物に手を出し、タバコを吸ってしまったので消火装置のアラームが作動し、操作室は電気が消え、煙がもうもう。そこでマイケルは思わず封筒に入っていたサングラスに手をかけ、掛けてみます。すると煙の中でも進路が見えます。これ幸いと建物を逃れ、外へ。容疑者の私物に手を出す FBI なんてちょっと考えられませんが、ここでこの男が凡ミスをやってくれないと、マイケルことベン・アフレックはドクター・キンブルことデビッド・ジャンセンに変身できないので、そこは多少無理でも目をつぶりましょう。

自宅は危ないというのでホテルに居を移し、封筒の中身を見ながら一生懸命考えてみますが、何も浮かんで来ない。しかしそうこうする間に彼はFBI と会社のセキュリティー担当ティームの両方から追いかけられることになります。FBI は尋問しに来るようですが、セキュリティーは殺しに来る。記憶は断片しか戻って来ない。追いかける側は両方とも容赦なく迫ってくる。で、スタント動員。

カースタントにはマトリックスのような特殊効果は使っておらず、本物の・・・という意味では評価しますが、ファイナル・デスティネーション 2ターミネーター 3 を見てしまうと物足りないです。ウマ・サーマンのアクション・シーンは、典型的な補助型の女性風で、自ら自分や恋人を守るために積極的に戦うという演出ではありません。先にキル・ビルを見てしまったため興醒めです。肝心のベン・アフレックも何だかとろいのです。リベリオンで珍奇な格闘技を見せたクリスチャン・ベイルの方がきりっとした動きで決まっていました。アフレックのコンディションは最良とは言えません。ボーン・アイデンティティーに出演するためにトレーニングして最良のコンディションで臨んだ親友を思い出してくれれば良かった。

観客には悪党は会社の人間だけで、FBI は彼を逮捕尋問するつもりなのか、保護するつもりなのかあいまいになって来ていることが分かっています。マイケル本人にはそういう事は分かっていないので、彼は友人2人に助けを求めます。1人はどうやら過去3年の間恋人だったらしいレイチェル。しかしマイケルは2人がルンルンの写真を見せられても思い出せません。ここでもレイチェルが彼の側なのか、あるいは偽造写真で彼をたぶらかそうとしているのか程度の謎が生まれて良さそうなものですが、サーマンとアフレックは悪役はやらないという規則になっているかのようです。さて、レイチェルと組んで謎を追っている間に、何か大きな機械が問題で、マイケルには未来が見えたという話になって来ます。フェイス/オフ程度の、現実をごく僅か逸脱する程度の SF です。スタートレックAI のような完全な SF ではありません。

ここで示される未来というのが戦争と疫病で荒れ切った世界。マイケルにはそれが見えてしまったのです。それを防ごうとして云々という話で、ちょっとターミネーターとも似て来ます。しかし背骨が弱いストーリー。マイケル自身が自分の身に起きる事を先取りして20個のガラクタを用意したのだということもじき分かります。これはいいアイディア。しかし始めもう少し上手にネタを隠して、徐々に分かって来るようにできないものでしょうかね。おもしろい活劇にする材料、人材は充分揃っていたのにこれはどうしたことでしょう。その辺の作品からいくつか拾って来て混ぜ合わせたような感じもしますし、それも手抜きで混ぜ合わせたという印象。他の作品から取った部分のつぎはぎでも、ストーリーがおもしろおかしくできていれば誉める準備をしてあったのですが・・・。力作も作れるあのジョン・ウーなんですよ。

と言うわけで、ラジー賞にノミネートされてしまうのも仕方のないことです。

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