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ラブソングができるまで /
Music and Lyrics

Marc Lawrence

2007 USA 104 Min. 劇映画

出演者

Hugh Grant
(Alex Fletcher - PoPというポップ・グループのキーボード、ボーカル)

Brad Garrett
(Chris Riley - アレックスのマネージャー)

Scott Porter
(Colin Thompson - PoPというポップ・グループのボーカル、後ソロで大成功)

Nicholas Bacon
(PoPのベーシスト)

Andrew Wyatt
(PoPのギタリスト)

Dan McMillan
(PoPのドラム)

Zak Orth
(David Newbert - テレビ会社のお偉方)

Brooke Tansley
(Janice Stern - テレビ会社のお偉方)

Haley Bennett
(Cora Corman - ブリトニーやシャキラぐらい売れているポップスの歌手)

Jason Antoon
(Greg Antonsky - すぐ首になるプロの作詞家)

Aasif Mandvi (Khan - アパートの受付)

Drew Barrymore
(Sophie Fisher - アレックスのアパートの観賞用植物に水をやる係)

Kristen Johnston
(Rhonda Fisher - ソフィーの姉、減量センター経営、POP全盛時代アレックスの大ファン)

Emma Lesser
(Lucy Fisher - ロンダの娘)

Adam Grupper
(Gary Fisher)

Campbell Scott
(Sloan Cates - 有名な作家、文学の教授)

見た時期:2007年3月

監督は脚本、監督などの仕事でサンドラ・ブロックと縁の深い人で、他愛ないコメディーを得意としています。ヒュー・グラントがブロックと共演したトゥー・ウィークス・ノーティスも彼の手によります。ブロックはグラントとコメディー・コンビが組めるかと期待したのかも知れませんが、2人の間はそれほど上手く行かず、その後は話を聞きません。それに対し、ドリュー・バリモアとグラントは俳優コンビとしては上手く行っており、私としては2人を主人公にして、別な映画を作ってもいいのではないかと感じています。制作に関わるという意味では女性2人はすでに経験があり、グラントもスタッフに回ることに興味を示している俳優です。

ブロックの作品には政治色も一応あるのですが、問題作と呼ばれるような深刻な出し方をせず、コメディーという形にしています。あまり押しつけがましく「お前も考えろ」という出し方をしません。ブロックは明らかに啓蒙映画を目指していますが、人に嫌悪感を抱かせるほどに押し付けがましくなく、アハハと笑って終わってもいいという程度です。このところシリアス・ドラマの方は「お前も考えろ」式の作品が増えており、見る方はちょっと疲れますが、ラブソングができるまではローレンス監督らしく、1番前に出るのは笑いです。

ヒュー・グラントが歌い踊ると聞くとつい好奇心が湧いてしまいます。ラブ・コメディーが主要な活躍場所でしたので、ラブソングができるまでに出ると聞いても違和感はありません。最近仕事をやる気をなくしていたような様子のグラントが久々に張り切っているようだったので、じゃ、見に行こうかと思いました。グラントは50本近くに出演していますが、30本近くは言わば無名時代。フォー・ウェディングでスマッシュ・ヒットを飛ばしてからは大スター。劇的な変化を経験した人で、私は フォー・ウェディングの他、

・ ノッティングヒルの恋人
・ 恋するための3つのルール
・ ブリジット・ジョーンズの日記
・ アバウト・ア・ボーイ
・ トゥー・ウィークス・ノーティス
・ ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月

を見ています。この種の作品に向いた人ではありますが、正直言ってフォー・ウェディング以外「これだ!」というぴったりの役には出会っていない印象を受けます。何かあと1つピントが合っていません。しかしジョージ・クルーニーのような行き当たりばったり式の模索はせず、自分に合わないジャンルは元から避けている様子。クルーニーグラントの違いは多分自分をどのぐらい知っているかの度合いでしょう。

偶然同じグラントという苗字ですが、私は実はヒュー・グラントでなくクルーニーがケーリー・グラントの後継者に向いていると長い間思っていました。ところがクルーニーは騒ぎ過ぎ、徐々にそのイメージから外れて行きました。ヒュー・グラントは恰幅や雰囲気はケーリー・グラントと全然違いますが、映画の世界で2枚目半路線を守り続けており、それが実を結ぶのではと思えて来ます。

ヒュー・グラントはあまりにも有名になってしまい、ハリウッドに呑み込まれ一時抵抗を試みたのかも知れません。大騒ぎに巻き込まれたこともあり、大変な経験の後、ずっと自分の仕事に距離を置きたがっているような印象を受けていました。それがラブソングができるまででは彼なりに打ち込んでいるように見えました。組んでいる女優ドリュー・バリモアとの息も合い、小さな作品ながらきっちりまとめようという意気込みが見えます。

バリモアも若い頃ハリウッドに呑み込まれかなり振りまわされた経験を持つ人。普通の人でも来るティーンの反抗期にすでに芸能界にもいたこともあり、親代わりのスピールバーグが本気で心配したぐらいです。バリモア家というのは有名な芸能一家ですが、トラブルに巻き込まれている人が多く、家庭環境は厳しかったようです。それがある日主旨変えをし、プロデュース業を本気で勉強し始め、その後は自分の進む方向を自分で決めるようになったという話を聞いたことがあります。もしかしたらそれでグラントの立場を良く理解でき、わだかまりがなかったのかも知れません。いずれにしろ2人の役に対する打ち込み方がいいバランスを保っています。

作品は「よくもまあ平気な顔をしてしれ〜っと嘘をつく」と感心してしまうような出来です。言葉通りに受け取ると私がこの作品を批判しているように聞こえますが、実は正反対。今時の暗いテーマ続きの映画界で「よくぞこんなばら色の嘘をついてくれた、2時間ほど楽しめた」というのが「こんな嘘」の意味です。つかの間、暗い世界を忘れさせてくれてありがとうという気分です。

いくつかのトラブルが起きるドラマなのですが、本当の悪人というのはブッカー賞か何かを取った作家1人。それも出るシーンは少なく、揉め事とは言ってもドンパチのたぐいではありません。グラントがしたたかやられるのですが、それは氷で顔を冷やすという形で表わすだけで、暴力シーンはありません。他は音楽の大コンツェルンまで含めて皆ほんわかと描いてあり、和気藹々で始まり、和気藹々で終わります。

ジャーナリストの書いた記事では、グラント演じるアレックスは今は落ちぶれている元PoPの大スターということになっています。実は落ちぶれたとは言えず、忘れられただけ。最後に作曲をしたのが10年以上前、最近は遊園地のアトラクションでナツメロをプレイバックで歌ったりする仕事をマネージャーに回してもらい、その他はこじんまりとしたマンションで悠々自適の生活。本人がカンバックとかに情熱を燃やしていないので、全てが丸く収まっています。 彼は5人組のポップス・バンドのキーボードで、グループは一世を風靡したということになっています。現在でも大物扱いされているスターがその頃全盛期だったのですが、それに負けないスターだったという設定です。私はマイケル・ジャクソン、ジョージ・マイケル、マドンナなどを思い浮かべました。

マネージャーのクリスは悪徳マネージャーではなく、元スターのアレックスをぼろぼろになるまで使うような無茶はしません。時には企画を全部把握しておらず失敗も。しかしマネージャーとアレックスは親友と言ってもいい関係で、マネージャーの奥さんらしき女性とも仲良くしています。このマネージャー、身長が2メートルを数センチ越えるので、180センチのグラントはチビに見えます。そんな所でもおかしさを出しています。

一応アレックスの仕事を気にしているマネージャーは前回の失敗の後、本当のチャンスと思えるような仕事を持って来ます。これまでそこそこマネージャーもアレックスも幸せに暮らせて来ましたが、ナツメロの仕事も永遠に貰えるものではないので、他の仕事もした方がいいと考えていたマネージャーの所へ凄いチャンスと思える話が飛び込んで来ます。日本で言えば藤圭子の娘、アメリカで言えばかつてのブリトニーのような大スターが数人のソングライターの曲の中から1曲を選んでレコーディングするので、候補に入れると言うのです。但し期日は間もなくそのスターの女の子がカリフォルニアに向かうので、数日後。

キーボードをやっていただけあって、作曲は軽いのですが、テキストを書くのが下手糞。それでギョロメのお兄さんを頼み、曲作りを始めるのですが難航。でき上がった曲がくずだと分かる程度の音楽のセンスは持ち合わせています。メロディーとテキストの組み合わせがしっくり行かないのです。このシーンはドイツ語吹き替えだったので私にもぴったり来ませんでした。ドイツ人声優がグラントの歌うテキストをドイツ語に訳したものを歌っていました。

ここでドリュー・バリモア登場。バリモア演じるソフィーは観賞用植物専用の家政婦さんのようなバイトを引き受けていて、アレックスのアパートに水をやりに通って来ます。彼女は気立てのいい陽気な女の子なのですが、アバウトな性格で、きっちり屋のアレックスとは正反対。アレックスの家を訪ねると全然気にもせずに自分のバッグやコートをグランド・ピアノの上に置こうとします。アレックスにとってはピアノはただの家具ではないらしく、ちょうどいいタイミングでさっと彼女のバッグなどを受け取り、他の場所へ移します。また植物に水をやりに来たのに、植物が本物かプラスティック製か気にもとめません。正反対の性格は対立という形でドーンと出さず、随所に違いが分かりこそすれ、2人の間は相手を張り倒してやりたいというような争いに発展しません。そこがブロックのトゥー・ウィークス・ノーティスより上手な演出でした。監督が進化したのでしょうか。彼女がアレックスとギョロメの作詞家の話を聞き、横っちょでチラッと言葉を口に。それがアレックスのフィーリングにぴったりで、ギョロメ氏は首。

アレックスは天にも昇る気持ちでソフィーをせかし「さあ、言え」と次のフレーズを催促します。自分には文才が無いと信じているソフィーは断わります。アレックスがいかにソフィーをおだて、なだめ、テキストを思いつかせるかが、ラブソングができるまでの前半のテーマです。

ソフィーは実は有名作家の愛人だったことがあり、自分も作家になろうと思い、この男を神のごとく崇拝していました。ところが男は実は別な女性と婚約中。しかもソフィーを題材にして書いた小説で大成功。ソフィーはけちょんけちょんに描かれていました。二重の裏切りに遭い、やり返す気力も無く、ソフィーは失意の中、筆を折っていました。さらに悪いことに小説は映画化されることになりました。

偶然その男も来る高級レストランにいた時、ソフィーはその男とばったり。失意で凹むばかりのソフィーを勇気付けようとアレックスはちょうどそこに居合せたマネージャーの奥さんに頼んでソフィーをシンデレラのように着替えさせます。ゴージャスなアウトフィットにも関わらず、ソフィーと小説家の依存関係は崩れず、男が上、彼女が下のまま。白馬の王子を買って出たアレックスは彼女が言いたい事を代弁。その結果小説家からしたたか殴られてしまいます。

アレックスはソフィーに「作詞家として売り出すチャンスだ、あいつを見返してやれ」と力説。それでもソフィーは当時の悪夢が蘇り、引いてしまいます。しかしソフィーとアレックスの間はそのために縮まり、アレックスが拝み倒してできあがったのが2000年代には完全に時代遅れに聞こえるラブソング。

何とか期日に間に合い、曲を手渡します。そして即決。超有名歌手が「気に入った」と言うのです。ここからはレコード業界の内幕がチラリ。それもほんわかとした雰囲気で、批判というほどのことはありません。彼女はインド風のスタイルで売れているので、新しい曲もその線でアレンジしてしまったのです。それを聞いてソフィーが「合わない」と一刀両断。音楽の世界を知り尽くしているアレックスは自分たちの曲が採用されただけで満足していて、ソフィーの口を塞ぐのに必死。ところが超売れっ子歌手の方がソフィーの意見に興味を示し、彼女の方がソフィーの方針に近付きます。いやあ、これはもうばら色のメルヘンですね。ルンルルンルルン

この後もまだいくつかエピソードが並びますが、ばら色のメルヘンに合った筋で、お約束通りのハッピーエンド

今年の秋に47歳になるヒュー・グラントが80年代のポップ・スターを演じるのは まず無理。ところが嘘を承知で強引に押し通します。細いズボンをはき、トム・ジョーンズ顔負けの尻振りダンス。椎間板ヘルニアの後のリハビリにぴったり。その上歌も本人が歌ってしまったそうです。さらに言うなら、ピアニストの役を演じてもインチキしているスターが多い中、グラントは自分の手も映るシーンを何度かやっていて、そこで動かしている指は少なくとも曲の音と合っていました。インタビューによるとバリモアの方がずっと音楽には詳しく、グラントは映画の撮影が始まる前はほとんど何も知らなかったそうです。ま、若い人の好きな音楽は知らなくても、クラシックを知っていたかもしれないので、その辺はインタビューでは誇張しているかも知れません。

アメリカではロバート・デニーロが「使い道も無いのに僕は歌も踊りも習わされた」と言い、俳優生活37年目にしてミュージカルの真似事をやっていましたが、ヒュー・グラントが歌や踊りをやるという話は聞いたことがありませんでした。それがラブソングができるまでではしっかり歌手になり切っています。それをきっちり演じた後で「年だから体が辛い」というシーンが出て来るので観客は笑ってしまいます。

途中でソフィーの姉ロンダがファンだというのでアレックスを連れてロンダの家に行きますが、この女性がまた180センチ。縦にも横にも充分成長した人なので、グラントがチビに見えてしまいます。

というわけで久しぶりのグラント。フォー・ウェディングほどではありませんが、上に挙げた他の作品に比べると、かなり彼に合ったコメディーです。

独断と偏見の持論ですが、普通の俳優よりコメディアンの方が実力があるというのが1つ、そして2枚目半というのは匙加減が非常に難しいというのがもう1つ。2枚目半というのは原則的にイケメンですから、男性には嫌われがち。そこをユーモアでカバーして1度嫌われた人を振り向かせる力が必要です。一方2枚目半は原則として2枚目ですから女性はそのイメージを崩すような下品な笑いは嫌います。しかし鼻にかけたような気取りも嫌われます。そのため2枚目半で大成功する俳優は数が少ないのでしょう。ケーリー・グラントの後継者はヒュー・グラントに決まりです。

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