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ドリームガールズ / Dreamgirls

Bill Condon

2006 USA 131 Min. 劇映画

出演者

Jamie Foxx
(Curtis Taylor, Jr. - 元中古車のセールスマン、後レインボー・レコードの社主、ディーナの夫)

Beyoncé Knowles
(Deena Jones - 女性トリオの歌手、後カーティスの妻)

Jennifer Hudson
(Effie White - 女性トリオのトップ・シンガー)

Anika Noni Rose
(Lorrell Robinson - 女性トリオの歌手、ジェームズの愛人)

Eddie Murphy
(James Early - 一世を風靡したソウル歌手)

Danny Glover
(Marty Madison - ジェームズのマネージャー)

Keith Robinson
(C.C. White - エフィーの弟、レインボー社付きの作曲家)

Loretta Devine (ジャズ歌手)
Hinton Battle (Wayne)
Debra Zane (観客)

見た時期:2007年3月

ソウル・ファンの方がソウル音楽を楽しみにしてドリームガールズを見に来ると失望します。本格的なソウルはあまり出て来ません。ソウルの曲を聞きたいのでしたら、ザ・コミットメンツの方がお勧めです。ソウルの業界の事を知りたいのでしたら、ドリームガールズ(ドラマ)と永遠のモータウン(ドキュメンタリー)を両方ご覧になるといいかも知れません。また、ブルース・ブラザーズブルース・ブラザーズ2000はブルースなどと名乗っていますが、流れる曲はソウル中心で、大スターが大勢登場します。ブルース・ブラザーズの故ベルーシの出るサタデー・ナイト・ライブも必見です。

難産を覚悟で妥協しまくった作品です。その苦労が見えます。それでも作品をアカデミー賞ゴールデン・グローブの対象にまで持ち上げ、賞を取ってしまった努力にはシャッポを脱ぎます。元ネタの舞台劇があるので、難産はそちらの方だったのかも知れません。トム・アイアンという人が舞台の脚本を書いています。

映画は舞台をフィルムに移しただけなので、80年代前半に舞台のドリームガールズができた時の方が反響が大きかったのかも知れません。私はちょうどドイツ語を必死で勉強していた時期なので、ブロードウエイの事は全く知らずに過ごしていましたが、映画の主題になるダイアナ・ロスは当時まだバリバリの現役です。

ロスにはソウル系の経歴とディスコ系の経歴があります。エド・サリバンにかわいがられていた頃はポップス色の強い、一応ソウルと分類される曲を歌っており、エド・サリバン・ショーが打ち切りになったのが1971年。白人を含む世間一般にソウルが受け入れられ、エド・サリバン・ショーがマンネリ化した1970年にダイアナ・ロスはザ・シュープリームスを卒業しています。

1972年には主演で映画の仕事を試みますが後が続きませんでした。ハリウッドはまだ黒人の主演に大きな評価をするに至っていなかったようです。その後1980年頃ディスコ風のポップスに変更し、再びトップに踊り出ています。色々言われる人ではありますが、目標をきっちり決めてたどり着く人のようです。

これまでに18曲をチャートのトップに持ち込み、うち3分の2はザ・シュープリームス。ザ・シュープリームスとしては1964年から69年の勤務。物凄いスピードで音楽界をかけ抜けたという感じです。ソロとしては1970年から1981年。ですから結成から5年が下積み、その後の5年で12曲、その後10年で6曲をトップに押し上げたことになります。

私でも16曲覚えています。ビジネスの感覚が良かったのかも知れません。彼女を使ってお金をもうけてやろうと思う人が20年近く彼女の近くにいたということでしょう。映画ドリームガールズにもその辺は分かり易く描かれていました。

結婚は2度で、映画ではその経緯が他の人に割り当てられ、実話とは変えてあります。ロスは70年代に1度結婚し、子供2人。2度目はドイツ生まれのノールウェー人と結婚し、子供2人。しかしモータウンのベリー・ゴールディーとの間に1971年に生まれたロンダ・ロス・ケンドリックという娘がいます。恐らくはこれが最初の子供で、当時シルバースタイン籍に入れた様子です。ケンドリックの戸籍上の苗字はロスが1971年に結婚した男性の姓を取ってあり、シルバースタイン、自分が結婚した後はご主人の姓を取ってケンドリックを名乗っています。ロスにはその他にシルバースタインとの間にも子供がいる様子。

このあたりは、映画の中では分散してあり、ダイアナ・ロスをモデルにしているディーナ・ジョーンズは、ベリー・ゴールディーをモデルにしているカーティス・テイラー・ジュニアの子供は妊娠していません。カーティスになぜジュニアがついているかと言うと、ゴールディーがジュニアだからです。実生活ではロスとゴールディーは結婚していませんが、映画では夫婦になっています。そして妊娠するのは別な女性。上手にテーマをさばいています。

舞台化、映画化が難産になったのではとかんぐっている理由はそういうロスとゴールディーの私生活ではなく、モデルとなっている会社、モータウン、そしてその会社を引っ張った人たちの姿が、表で知られている物とはかけ離れていただろうことが予想できるからです。アフロ・アメリカ人でない意外な人たちの大きな力が働いています。それをどの程度扱い、どの程度隠すか、一般人が持っているモータウンのイメージをどこまで守るかどこまで裏の事情を明かすかが微妙になります。当時のアフロ・アメリカ人の音楽をリードしたモータウンは、それまで差別されっぱなしだった人たちに大きな光と自信を与えました。現在軍の重要なポスト、大統領の補佐官、大臣の地位にアフロ・アメリカ人が就いて国全体を動かす重要な歯車になっている、そしてもしかしたら間もなく大統領や副大統領が生まれるかも知れないのですが、現在ここまで来たについては大きな力になっていた要素の1つが当時の音楽界の動向でした。

それまでは生産に携わる方ばかりが注目され、重要な消費者と見なされていなかったアフロ・アメリカ人が60年代以降は消費者として重要視されるようになります。モータウンの側から見ると、同胞だけを対象に家内工業的にやっていたレコード界を、白人の消費者も対象にした作風に切り換え、白人にも受け入れられるヒット曲をチャートに入れる(百万枚以上売る)ことを目指し始め、見事成功します。それにはマーケティングの天才(映画では)カーティス・ジュニアと、映画には登場しない大手コンツェルンのやり手の企業家たちが関わっていました。

というわけでこの作品は60年代に零細、中小企業から大きく飛躍した会社、そしてその構成員の歌手、マネージャー、バンドの発展の物語です。バンドは映画のテーマとしては扱っていませんが、サウンド・トラックは買った方がいいと思えるいい音を聞かせてくれます。バンドの事情に付いては別なドキュメンタリー映画に詳しいです

ミュージカルなので歌がたくさん出て来ます。本人が歌ったものと仮定しての話ですが、爆発的な歌唱力はオスカーを取ったジェニファー・ハドソン。新世代のアレサ・フランクリン誕生と言えます。恐ろしいのはアフロ・アメリカ人にはこの程度歌えてしまう人が頻繁にいること。彼女はちょうどいい時にちょうどいい場所にいて、認められるチャンスがあったわけです。表舞台に立ち、一挙にオスカーに届いてしまいました。何度もオーディションに通い、粘り勝ち。

去年ドイツ中の映画ファンの神経を苛立たせた館内CMがありました。ある有名な大衆向けの既製服の会社が作ったCMで、ロミオとジュリエットウエスト・サイド物語風に置き換えた超短いミュージカルだったのですが、そこで大メロドラマのバラードを歌った女性がいます。

このCMはしつこいほど映画館で上映され、一度聞くだけで人はげんなり。それが数ヶ月の間しつこく、しつこく、しつこく流れたので、今でも語り草になっています。私も映画館に行くことが多い方なので、もう完全に参っていました。しかし1つだけ言えることがあります。その神経にさわるほどのうるさい大バラードを歌った人とジェニファー・ハドソンはそっくりで、私はもしかしてCMの仕事をしたハドソンがその後チャンスをつかんでオスカーに至ったのかと思ったぐらいです。好きなタイプの曲でなかっただけで、彼女の歌唱力には圧倒されました。アレサ・フランクリン一家でも妹だか姉だかが抜群に歌がうまいそうです。それでもバック・コーラスに甘んじていたとか。ディオンヌ・ウォーウィックにも歌のうまい姉だか妹だかがいたのですが、注目はディオンヌの方に行ってしまいました。あのぐらい歌える人がぞろぞろいるといういい例です。

主演のはずのノウルズがノミネートすらされなかったのは仕方ありません。歌を発揮する場面も、ドラマチックな場面もハドソンに行ってしまい、彼女はきれいな顔を見せて、ハドソンにはかなわない弱い歌唱力を披露する役どころです。顔がきれいで主演だけれど、見せ場は助演にというストーリーなので、主演としてはド迫力のジュディー・デンチ、今年気合を入れて来たヘレン・ミレンには負けます。その分驚くのは、ノウルズがダイアナ・ロスをとことん勉強していて、一部は見間違えるほど似せた点。私はたまたまロスがシュープリームスのイメージを止め、ソロとして活動し始めた頃のCDを持っていますが、そのイメージを上手くスクリーンに出しています。

次に感心するのはエディー・マーフィー。残念ながらオスカーには届きませんでしたが、主演男優賞、助演男優賞にノミネートされた中では、かなりオスカーに近い所まで仕上がっていました。私個人のかんぐりですが、落ちたのは彼が下手だったからではなく、引き受けたのが麻薬と下品なパーフォーマンスで首になるという役柄だっため、不利に働いたのではないかと思っています。

マーフィーも良く勉強していて、歌は吹き替えでないとすれば結構行けます。マーフィを映画俳優だ、コメディアンだと思って見に行くとびっくりします。ソウルという音楽を扱った映画でありながら平凡なバラードなども多い中、彼とハドソンだけがソウルっぽいサウンドを思いっきり出しています。彼が演じるのはキャリアで言うとマービン・ゲイを思わせるキャラクター、歌と髪型はジェームズ・ブラウンを意識しています。ゲイともブラウンとも全く違う顔の形、体型なのに、2人を思わせる演技です。そして有能なコメディアンによくあるように、普通のドラマの演技は任せて置いて大丈夫です。

ストーリーはほぼモータウンの歴史の片側と一致します。1962年、自動車工業の町デトロイトから始まります。コンテストに出る女性3人組のボーカル・グループと、車のセールスが本業のカーティス・ジュニアという男の出会いからです。バック・コーラスに採用するというカーティスとメインの歌手になりたいエフィーというグループのトップ・シンガー。色々な新人歌手を物色していたカーティスは、ソウル・ブームを作るべく大計画を練り、今では当たり前のタレント養成を当時初めて開始、作曲家、バンド、バック・ダンサー、表のタレント、そしてレコード会社と流れ作業のシステムを作って行きます。

その中でも特に大きな役割を果たしたのがドリームズという名で売り出した3人娘。しかし時代の要求に合わせたマーケティングをやろうとするカーティスと、他のメンバーも「自分が1番上手い」と思っている中エフィーをトップから外すかどうかで揉めます。結局カーティスの目論みが当たり、グループはトップに踊り出します。

しかしエフィーをトップからはずしたことが尾を引き、やがてエフィーは脱退。一方自分が歌では最高と思っていないディナは映画進出も考慮。音楽界には強いカーティスと、芸能界全体に目が行くディナの間にも対立が起こります。映画の中ではディナがクレオパトラを演じるようにカーティスが手配するのですが、ディナはこの役は自分向きではないと直感的に察していました。これはダイアナ・ロスのオズの魔法使いを指しているのでしょうか。「自分の年齢に合わない」という台詞が出て来ます。(ロスは無茶苦茶自分勝手で、自分だけが上に上にという人で、評判はすこぶる悪いのですが、やる事が大胆で、自分に対する目が非常に冷静。これだと思ったらガーンと突進しますが、自分に合わない事はたとえ主演の話でも避けたがります。)

その途中に当時良くあった白人のパクリ問題、恋愛問題も絡み、背景にはキング師を頂点にした差別反対運動、カーティスが企業拡張のためにやった裏取引も絡めてあるので2時間以上の上映時間でも飽きる暇はありません。脚本の功績で、脚本家の意図が演出とずれることなく進みます。ずれることができないのです。監督が自分で書いています。

モータウンというのはドラマの多い会社で、ちょっと考えただけでも、さまよえるマイケル・ジャクソン、牧師の息子の悲劇マービン・ゲイ、メンバー・チェンジ続きで跡形も無いザ・テンプテーションズ、死が4人を分かつまで友達だったフォー・トップス(両グループのメンバー・チェンジ比較)、実力があってもシュープリームスに追い越されて目立くなったマーサ・リーブス、何だか冴えない顔のモータウン副社長スモーキー・ロビンソンなど、ファンクブラザーズ以外にも映画や舞台で中心に据えて物語ができそうな人がいっぱいです。

この作品をご覧になる予定の方、是非映画館へ。家でモニター相手では分からない良さがあります。音楽が好きな方は音響のいい映画館へ。私は小さな映画館で、コンサートの醍醐味は味わえませんでした。それでも舞台シーンが多いので、映画館の方がいいです。ソウル・ファンの方は是非冒頭のコンテストのシーンや前半の音楽シーンをご注目下さい。後半はポップ調が強まります。

参考記事: 風雲電影院ドリームガールズ

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