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16ブロック /
16 Blocks /
16 calles /
16 Quadras /
16 blocs /
16 rues /
Solo 2 ore

Richard Donner

2006 D/USA 105 Min. 劇映画

出演者

Mos Def
(Eddie Bunker - 小悪党、ある事件の証人)

Bruce Willis
(Jack Mosley - 燃え尽き症候群の刑事)

David Morse
(Frank Nugent - ジャックの20年来のパートナーだった殺人課の刑事)

Jenna Stern
(Diane Mosley - ジャックの妹、救急隊員)

Paul Tuerpe
(ダイアンのボーイフレンド)

Casey Sander
(Gruber - ジャック、フランクの上司)

Brenda Pressley
(MacDonald - 検事)

Richard Fitzpatrick
(Wagner - 警察長官代理)

Efosa Otuomagie
(バスの運転手)

Richard Donner
(バースデーケーキの男)

見た時期:2007年3月

刑事のパートナー物語第3弾です。ブラック・ダリアではハーネットが悩みます。スモーキン・エース/暗殺者がいっぱいではレイノルズがある決心を。16ブロックではウィリスがよーく考えなければなりません。アルコール漬けの頭で果たして考えられるか。スリル満点です。

リチャード・ドナーの作品は見たことがあります。上出来とは言えない作品でした。しかしこの監督はその作品以上の実力はあるのだろうという様子が見て取れ、そういう意味で16ブロックこそが彼の本当のレベルなのではないかと思います。

ドイツは話に乗せられてつまらない映画に大金を出資することが時々あったのですが、たまには本当におもしろい作品に当たることもあります。ブラック・ダリアにも出資したようなのですが、せっかくの監督、せっかくの俳優が十分生きていませんでした。税金も使われるのでよその国の事ながら気にかかっていたのですが、16ブロックですと、税金が使われても怒る人は少ないのではと思えます。

実はこの作品を借りた時あまり期待をしていませんでした。ここ2週間ほどに懸賞にも当たり、おもしろい作品にもぶつかっていたのですが、週末を割り引き料金でDVD三昧にしてみようと思い立ち、3作借りました。その中では1番期待をしていなかった作品です。懸賞では最新の作品が当たり、オスカーを取ったりノミネートされた作品が含まれています。ですからそれよりは落ちるだろうと思っていました。

ところが16ブロックはそのマイナスの予想を見事に裏切り、最近まれに見る気合の入った作品だということが分かりました。予告を何度も見ていて、「ブルース・ウィリスを連れ出して来て、そこそこの作品を撮ったんだろう」と思っていたのですが、実際はブルース・ウィリスのベストではないかと思います。これまで見て来た作品も楽しかったですし、彼にはコメディアンの才能もはっきり見えます。ヒーロー系の作品では普通の人が言ったら気恥ずかしいような台詞が堂々と言えてしまい、それを今度はコメディーで笑い飛ばすよう人です。彼はドイツ系の人なのでドイツでは評判がいいですが、そういうボーナスを抜きにしてもそれなりにいい俳優だとは思っていました。

知らないうちにウィリスの作品を結構見ていました。私の見た作品は意外なことに犯罪映画や、シリアスな物が約半分。タイトルに数字の多い人です。

・ 16ブロック
・ シン・シティ
・ バンディッツ
・ アンブレイカブル
・ 隣のヒットマン
・ ストーリー・オブ・ラブ
・ シックス・センス
・ マーシャル・ロー
・ フィフス・エレメント
・ アルマゲドン
・ マーキュリー・ライジング
・ ジャッカル
・ 12モンキーズ
・ フォー・ルームス
・ パルプ・フィクション
・ ダイ・ハード・シリーズのうち2本

ダイ・ハードは2本見ていますが、どれだったか忘れてしまいました。多分1と2でしょう。

しかしここ数年は旬を過ぎたような印象で、デミ・ムーアとどういう風に離婚するかの方がゴシップ雑誌をにぎわし、演技ではあまりぱっとしないというか、成功した作品の続編で2匹目の鰌を探しているような印象を持っていました。でも 16ブロックの後に17ブロックはないと思います。

どの俳優にもピークというものがあり、それを過ぎた時にうまく次の課題、役割に移れない人も多いです。その方が普通で、ウィリスも徐々に下り坂だと思っていました。ところが 16ブロックを見て、とんでもない、「ブルース・ウィリスは第2のピークに向かい始めた」という印象を持ちました。私生活はデミ・ムーアの知恵なのか、発展的解消。離婚して、それぞれがパートナーを迎え、子供を共同で育てるという大家族制に移行。失ったというより得たという印象です。それで安定して再出発が可能だったのかも知れません。大スターとかヒーローの域に収まらず、性格俳優の様相を帯びて来ているのです。

最初にお断わりしておきますが、16ブロックは犯罪映画で、スリル、サスペンス、謎、アクションなど、ウィリスの良さが出るシーン満載ですが、コメディーの要素はゼロです。時間は2時間をちょっと切るぐらい。そして事件も午前8時10分前あたりから始まり、ショーダウンは同じ日の午前10時。少なくともそこで期限が切られています。

このタイプの映画としてすぐ思い出されるのがニック・オブ・タイム。ジョニー・デップが大悪党のクリストファー・ウォーケンと素手で対決という話ですが、スリル、サスペンス満載でした。16ブロックはやはり2時間で、観客はほぼウィリスとリアル・タイムで彼の体験を見て行きます。さすがに素手では戦いませんが、相手が大勢で、スナイパーまで出して来るのに、ウィリスは時々ピストルを使う程度。パチンコで大砲を相手にしているような状況もあります。

まず主人公のジャックが自分の遺言を録音するシーンから始まります。「後で世間は色々言うだろうけれど、事実は全然違う・・・」とか言っています。ウィリスを知る観客は彼が悪人のはずはないと思いますからすぐそれを信じますが、同時に彼に降りかかっている災難が大きいのだな、命がかかっているのだなと感じます。ウィリスは巻き込まれ役の多い俳優ですが、16ブロックはシリアス巻き込まれドラマです。

冒頭シーンから話が2時間ほどさかのぼり、彼はまだトラブルに巻き込まれていません。髪が薄くなり、びっこを引く中年刑事で、家庭生活は荒れているか崩壊しているかだろうと思わせるしなびた顔。職務中でもお酒を飲むほどのアル中。これをほんの2、3分で演じてしまうので、おやっと思いました。ここですでに気合の入り方が尋常ではありません。

とてもエリート刑事とは見えないしょぼくれよれよれのジャックに同僚が無理やり簡単な仕事を押し付けます。夜勤明けらしくくたびれ切っているので「やだ」と断わるのですが、なだめすかされ押し付けられてしまいます。近くの留置場にいる小悪党を裁判所まで連れて行くという仕事。裁判所はそこから16ブロック離れた場所にあり、午前10時までに届けるようにと言われます。自転車でもあれば15分程度で片付けられそうな用事です。

やる気の無いジャックは嫌々留置場に向かいます。エディーという小男で、のべつ幕無しに喋り続けます。手錠をかけ、届くはずの背広が届かないのでそのままの服で連行。裁判所で証言する人にはどうやら背広が与えられるようなのですが、届いていませんでした。その後渋滞に巻き込まれてしまいます。アルコールを切らしたので、ちょっと車を降りて酒屋へ。

その間にエディー1人になった車を襲った者がいます。一瞬の差で店から出て来たジャックの方が早く、エディーを殺そうとした男を仕留めます。犯人は単独ではないのでジャックはエディーを連れて車を離れ、逃げ込んだ店から電話で署に応援を頼みます。

店に到着したのは数人。中の1人はフランクといい、ジャックの20年来のパートナーで、上からの信頼もあつく現在は殺人課で出世中。

彼に敬意を表してではないのですが、それまで観客もうんざりするほど喋り捲っていたエディーが急にしおれてしまいます。 何か変だなと思い始めたジャック。あろう事かフランクたちはエディーに撃ってもいない拳銃を握らせ、指紋をべったりつけた上で片付けようとします。

エディーが最初に車で撃たれそうになった瞬間のウィリスの演技がすばらしいです。アルコール漬けになっていた頭が一瞬の内にピンとなり、ヒットマンを仕留めます。ジャックは急に周囲との協調(=不正を見逃すこと)を止めて、正しい事(=エディーを裁判所に護送=文字通り護って送り届けること)をやるのが使命だと思ってしまうのです。その切り換えのシーンをウィリスは短い時間で、顔の表情を変えるだけでやってしまいます。うわあっ、凄い、性格俳優だ!

このシーンだけでも料金を払う価値がありますが、エディー役に起用してあるのが有名なラップの歌手。 ほとんどのシーンでのべつ幕無しにしゃべらせているのですが、それにも理由があります。彼は話の内容ではなく、話をするかしないかで物事を表現しているのです。凝った仕掛けです。

最初にエディーを助けたところでジャックは前日までの投げやりな生活から片足抜けます。バーでもう1度エディーを助けた瞬間両足が抜けます。1人で全ニューヨーク警察を相手に戦い始め、エディーの護衛に命をかけてしまいます。それだけを見ていると世界を1人で救うスーパーヒーローの姿が見えて来ますが、16ブロックアルマゲドンなど他のウィリスの映画と違い、苦悩に満ち、たった1人の証人を救うのに、自分の命をかけなければ行けなくなります。この瞬間にジャックは20年パートナーとして一緒に仕事をしたフランクでなく、ほとんど見ず知らずのエディーを取ることに決めてしまいます。

そこから始まる危険な逃避行。事件に直接関係がなくても、同僚の不都合だと口を閉ざすこともあるので、ジャックは市内の警官全員を敵に回したようなもの。敵はヘリコプター、探知機からスナイパーSWATまで何でも揃っています。その上上司、その上の上司、そのまた上の上司まで皆が口を揃えて、ジャックは悪事に手を染めていたと言うでしょう。それで冒頭自分に近い人に宛てて遺言を録音をしていたのです。

警察の内部、ニューヨーク市内の地理を知り尽くしているベテラン警官なので、エディーを連れて逃げるにはある程度条件が揃っています。警察は先を読んで人を回して来ますが、ジャックとエディーはすごろくで言えば10時までに裁判所に入ってしまえば上がり。その後は安全になります。

まずは勝手知ったるアパートへ行き、武器を調達。その後は勝手知ったる中華街に逃げ込み、少し裁判所のある区に近づいて行きます。冒頭のクライマックスがエディーが撃たれる寸前にジャックが敵を倒すシーンだとすれば、中盤のクライマックスはバス・ジャックシーンでしょう。逃げ切れなくなり、2人でバスを乗っ取ってしまいます。人質は31人。周囲をSWATや交渉人に囲まれ動きが取れなくなります。ここでアルコール漬けだったはずのジャックの頭はフル回転。人質を上手に使ってエディーをバスから逃がすのに成功します。

ここからはショーダウンに向かって何度も意外性で勝負をかけて来ます。監督の功績なのか、脚本の功績なのかは分かりませんが、俳優は全員かなりいいコンディションで仕事に臨んでおり、良い脚本が良い監督と俳優で100%生かされたという感じです。

結末は2通り用意されていたそうで、悲劇版とハッピーエンド版。普段ですと私はハッピーエンドには懐疑的なのですが、この作品では前半からの積み重ねが良くできているので、主人公が最後に助かって夢のようなハッピーエンドになっても映画全体の言いたい事は十分伝わると思います。悲劇版ですと人としての道は通ったものの犠牲者は出るという形で終わり、観客にはむなしさが残ります。監督がどちらを取ったかは明かしません。

バス・ジャック以降ショーダウン寸前までにまだ驚愕の事実というのがあり、展開も意外な方向へ行ってしまい、推理小説ファンの私でもそこまでは思いつきませんでした。観客を騙すために取ってつけたような展開ではなく、伏線は最初から引いてあります。たったの16ブロックの道のり、たったの2時間の経過なのに、色々な要素満載。それでいて詰め込み過ぎの消化不良は無く、アクションや銃を持っての睨み合いもあり、アクション・ファン、推理物ファン、犯罪映画ファンを満足させてくれます。そして何よりもウィリス・ファンとラップ・ファンの方は狂喜乱舞で喜ぶでしょう。

結局は1人で世界を救うというウィリスお得意のスーパーヒーローのパターンには違いないのですが、説得力のある状況設定、簡単に問題が解決しないリアリティー、これまでいい加減な生活を続けて来た負い目などがウィリスの演技で100%効果を上げています。実際には超人的な活躍をするのですが、それがよれよれ、くたびれ切った中年男、その上アルコールの瓶が手放せないという誰の手本にもならないような男になって出て来るので、意外性があります。ウィリスが長年の経験を生かして、その意外性をやり過ぎないように押さえを聞かせながら演じているのがいいです。

大物ウィリスの陰に隠れることなく思いっ切り悪事を働くデビッド・モース他の警察官も貫禄の演技です。皆まじめな公務員の顔をしていながら、ツーと言えばカーの物分かりの良さで事件揉み消しをはかります。あまり日常化しているので背筋が寒くなりますが、現実的な演技です。モースは出る映画によって悪人か善人か予想がつかないという便利な俳優で、今回は最初から最後までウィリスの敵。巧みにウィリスを切り崩そうとするシーンはケビン・スペーシーといい勝負です。

久しぶりのウィリスの活躍というだけでなく、久しぶりに全体に気合の入った犯罪映画を見たぞというスカッとした気分になりました。

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