映画のページ
2004 USA 115 Min. 劇映画
出演者
Will Smith
(Del Spooner - シカゴ警察の刑事)
Bridget Moynahan
(Susan Calvin - USロボテックス社の研究者、ロボット心理学専門)
Alan Tudyk
(Sonny - 異端型のロボット)
James Cromwell
(Alfred Lanning - USロボテックス社の研究開発主任、死体で発見)
Bruce Greenwood
(Lawrence Robertson - USロボテックス社の社長)
Adrian Ricard
(デルの祖母)
Chi McBride
(John Bergin - デルの上司)
Fiona Hogan
(VIKI - USロボテックス社のメイン・コンピューター、声)
見た時期:2007年6月
エジプト生まれのギリシャ人でオセアニア系のアクセントのある監督です。どこの国籍を持っているのかは分かりませんが、いくつもの国に関わったためなのか、視野が広いです。クロウ/飛翔伝説、ダークシティ、アイ、ロボットなどが有名な作品。音楽のプロモーション・ビデオを作る方が多いらしく、長編映画の数は多くありません。私はダークシティを見ています。クロウ/飛翔伝説は、彼だからということではなく、ブルース・リー関連でいつか見てやろうと構えています。ダークシティとアイ、ロボットには特殊撮影が多用されているのですが、監督はやり慣れているという印象を受けます。
ストーリーはアイザック・アシモフが30歳の1950年に書いた短編小説と、アイ、ロボットの脚本家があたためていた構想をドッキングさせた結果だそうです。アシモフの有名な《ロボット3原則》が映画のアイ、ロボットにもふんだんに活用されており、それが骨子になったストーリーです。
アシモフはご存知のように天才。1920年生まれで、1939年に大学を卒業しています。1948年に博士号。博士号を取った年齢は普通ですが、大学を卒業した年齢は尋常ではありません。博士号が遅れた理由は世界大戦と結婚なのだそうで、学業だけを見る時は3年ほど差し引くのだそうです。となると25歳で博士号取得も可能だったという計算になります。アメリカにはそういう人は時々いますが、いずれにしても勉強はかなり好きだったようです。学業を振って著作業に専念してくれたおかげで、私たちはおもしろい小説、そして映画化された作品などにめぐり合うのですが、実は当時教授への道が開かれていたようです。小説を世に出し始めたのは大学卒業とほぼ同時。恐らくはその前から書いていたのでしょう。ジャンルは SF に限定されませんが、やはりアシモフと言えば SF でしょう。
彼が生きた時代にはアメリカの政治は政党の色分けとほぼ一致していて、彼はリベラルな人だったそうです。彼の著作、発言が政治家に及ぼした影響も見られるのだそうです。「そうです」と書いているのは私はそんな事を全然知らなかったからです。自分が推理小説に凝っていた頃、隣の SF 分野でアシモフという名前を何度も聞いていたので、見過ごせない人なのだと思っていただけです。現在ではアメリカの政党は政党名で支持の内容が分かれるのではなく、それぞれの政党に似たような考えを持った派が並行して存在するらしく、両政党に分かれた議員が似たような事を言ったりもするようです。アシモフは環境問題などに関心を示しており、もし現在も生きていれば87歳。ちょうど今大きく取り上げられたかも知れません。残念なことに HIV が原因で1992年に亡くなっています。死の10年ほど前に行われた外科手術の時に使われた血液が行けなかったようです。
一応化学博士の称号を持っている人ですが、化学と言わず、科学博士と言うのが正しく思えるぐらい巾広く考えをめぐらせたようです。やはりアシモフの SF と言えばロボットでしょう。そういう意味でいずれ見たいと思っていたのがアイ、ロボット。体調がすぐれず、映画に集中できない時期があり、時間は余っていたので見ようかと何度も思ったのですが、アイ、ロボットは是非気合を入れて見たいと思っていたので、待ちました。甲斐がありました。すばらしい作品でした。
井上さんが洒落たパンフを送ってくれていたので、画像はきれいそうだなあと思っていました。実際に作品を見てパンフの何倍もきれいだと感じました。これを映画館で見るともっときれいに見えるでしょう。DVD という物が発明されたので、最近では公開からかなり後になっても名作を見ることができ、うれしい限りですが、アイ、ロボットのようにきれいな作品にぶつかると、映画館で見られなかったことが悔やまれます。唯一の希望は野外映画館。こういう所では時々ちょっと前の作品をやります。
誉める所満載の作品です。色々な視点があるでしょう。ただ画面をボーっと見ているだけでもカメラが良く、美術の努力が実っており、美的です。光と色彩に気を使ってあり、どのシーンを見ても絵になります。
キャスティングもぴったりです。ウィル・スミスと聞くと陽気でダイナミックなアクションというイメージがあります。ダイナミックなアクションはたっぷりです。しかし陽気ではありません。コメディーを知っている方には「新しいイメージか」という気がするでしょう。急激な演技派への転向ではないので、違和感は出ません。
ウィル・スミスは以前から(大ファンではないのですが)好ましいと思っている人で、取りあえずは The Fresh Prince というCD、音楽の方でお近づきになりました。自分の好みに合った曲が多かったのですが、声だけを聞いていたので、あの映画に出て来た人と同じだと分かったのは暫くしてから。
見た作品は
有名どころが多いです。この中でコメディーとは言えないのがエネミー・オブ・アメリカとALI アリ。他は陽気な青年役か、コメディー。普段笑いを入れておいて、時たまシリアスという役の選び方は上手いです。
アフリカ系の俳優を主演に据えたのには政治的な背景があったのかも知れませんが、そんなややこしい事を考えなくとも彼は役を良く理解し、シリアス・ドラマなのに重苦しくならず、しかしストーリーはシリアスなのでお手軽にもならず、匙加減がいいです。
メン・イン・ブラックだったらリンダ・フィオレンティーノというようなスミスとコンビを組む相棒役にはブリジット・モイナハン。役で要求される人間に対する冷ややかな部分が出切っておらず、やさしそうなお姉さんになってしまいましたが、アクションもこなし、健闘しています。
デル・トロ監督ならダグ・ジョーンズのような、人間でない重要な役を演じるのがアラン・テュディック。《ロボット3原則》から逸脱したらしい、はぐれロボット役なのですが、非常に微妙な役どころで、俳優の力量で映画全体の評価が左右されかねません。アニメ撮影のために体を撮影のモデルとして動かす役割と、声優の両方をつとめたそうで、成功しています。
作品によって善人か悪人か分からない俳優クロムウェルは今回最初から死体で登場しますが、彼の出す謎がストーリー全体を支配するので、出番が少なく姿が薄っぺらでも、存在感があります。
全体としてスミス以外ストーリーの邪魔になるような超大物スターを起用しなかったのは良かったと思います。
別な視点で見ると、マトリックスとの比較ができ、これも興味深いです。ウィル・スミスは元々マトリックスの主演に想定された俳優で、話があった時あっさり断わっています。その話を耳にした時私も「マトリックス − スミス − ええ???」と違和感を抱いたのですが、それまでのスミスが作っていたイメージとマトリックスのネオは全然合わず、大金を逃したとしても映画ファンとしては正解だと思っていました。上にも書いたように私はスミスの大ファンではないのですが、それぞれの俳優が自分のイメージに合った役にありつければいいとはいつも祈っています。キアヌ・でベストかと聞かれると、1作目は良いが、その後はちょっとねえ、という気がしますが、それでもウィル・スミスを起用するよりは良かったと思います。
あんな凄い役を3本分断わって、超大ヒットではない1本に決めたスミスという人の自分を見る目は鋭いと当時思っていましたが、数年後にアイ、ロボットを選んだのは正解。アイ、ロボットには所々マトリックスを揶揄するシーンが出て来ますが、それはご愛嬌。始めの方にロボットがキャリー・アン・モスそっくりのポーズを取るシーンが出て来ます。オラーケル(マトリックスのお告げおばさん)そっくりのおばさんがスミスの祖母役。
全体のストーリーは探偵物として描かれています。冒頭にロボット製造会社USロボテックス(実在する会社といくらか関連あり)の開発責任者ラニング博士の自殺事件があり、シカゴ警察の刑事デルが呼ばれます。2035年という未来社会ですがやる事は現代と同じ。死体付近を封鎖して、鑑識が登場。加えて捜査をする刑事の登場です。飛び降り自殺で、高層ビルの上の階から飛び降りたものと思われています。
デジャヴのワシントン名探偵ほど鋭くはないのですが、まじめに仕事をするデルは現場検証、事情聴取などをしながら、殺人との疑いを抱きます。状況証拠から見て犯人として考えられるのはロボット。社会は2035年までに生活のほとんどが自動化されており、ロボットを買って家事その他の雑用をやらせている家が多数あります。そのロボットを製造している大手の会社USロボテックスは、間もなく億の単位の数の新型を全世界で発売する予定にしていました。
死の現場に残された博士のホログラム(遺言ビデオみたいな物)はデルに妙な謎をかけて来ます。自殺、他殺の両面で事件を追い始めたデルは、会社の社長、博士の同僚の心理学者から事情を聞きますが、デルが自殺説を出すと、即座に「あり得ない」というきっぱりとした反応が返って来ます。それはデルの上司や同僚も同じ。《ロボット3原則》というルールがあって、すべてのロボットには人間を襲わない、人間の命令に従う、その範囲でロボットは自分の身を守るという取り決めになっています。
これは考えようによっては人間に都合のいい一方的なルールで、私には幻想に見えます。《ルールは守られる》という原則了解を取りあえず前提にしておいて、《知らない所でそれが崩れていたら・・・》という設定の小説や映画が作られています。アイ、ロボットはその典型的な例。《ロボット3原則》はアシモフ自身が世に出したアイ、ロボットの元ネタの小説に書かれたのがきっかけで世に知られることになりました。そしてその誕生の瞬間から3原則は破られる運命にありました。《ストーリーをおもしろくするために破るべき》ルールを考え出したわけです。
いずれにしろデル刑事は規則を破るロボットが存在し、それが博士を襲ったという推理をし、犯ロボット追跡にかかります。デル刑事は過去に起きた出来事がきっかけでロボットが大嫌い。そのためやや、ムキになって犯ロボット捜索に気合を入れます。
彼のキャラクターは時代に背を向けたような設定になっていておもしろいです。皆がマイノリティ・リポートかというような世の中で暮らしているのに、彼はレトロの運動靴をはき、自動運転ができる車を手動で運転したり、オートバイに(ヘルメットをかぶらず!)乗ったりします。皆がロボットを相手に暮らしているというのに、彼はおばあさんの家に出掛けて行き、パイをご馳走になるのが楽しみです。社会全体が冷ややかなプラスティック、ガラス、金属、デジタル音声の世界になってしまっているのに、彼は古臭い人間風の生活を送っているのです。これをウィル・スミスが演じているとつい共感してしまいます。私自身が時代にかなり取り残された人間だからかも知れません。
2035年の社会からやや逸脱している刑事対、2035年のロボット社会から逸脱しているロボットの戦いになるのですが、デルの主張はその後起きるいくつかの出来事のために信憑性を帯びて来ます。最初は激しく抵抗していた心理学者も徐々にデルの説になびき始めます。
デルの捜査は死んだ博士に誘導されて進んで行くのですが、後半に入ると犯ロボットは実はデルが行き着くべき最終目標ではないということになって来ます。犯ロボットとして確保して、廃棄処分にと思っていたのに、デルや心理学者の危機を救ってくれたりもします。そして裏に隠れている黒幕を突き止めたかと思ってかけつけて見てもそう単純ではありませんでした。
ネタばれ防止のためにこの辺であらすじを語るのはやめますが、推理物としてもまあまあの出来です。最後に分かる黒幕がマトリックスで、ある重要な出演者が言っていたのとそっくりの話をしたり、やや哲学的な方向で似ていたりします。スミスはこの種のテーマの映画に出演すること自体には異議は無かったのかも知れません。マトリックスにスミスの奥方が出演しており、マトリックス自体に反対ではないものの、自分のイメージとネオが合わなかった点が、大きな決断をさせたのかも知れません。私はアイ、ロボットとスミスの相性がぴったりなので大満足です。
ドイツの雑誌には時々 DVD がついて来るのですが、SF が選ばれることが多いので、いつの日かアイ、ロボットがおまけについてこないか期待しているところです。
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