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Fanta 2008 Resümee
考えた時期:2008年8月
★ 今年のファンタはいくらか不満が残りました。
・・・というより、ここ数年調子が良過ぎたのでいくらかそれよりレベルが落ちたという印象です。今年は22回目なのですが、20周年記念のちょっと前からおもしろい映画が続出し、参加国もバラエティーがあり、こちらが期待していた以上に驚きの作品が増えていました。
しかしどの国も間を置かずに10年続けておもしろい作品を供給し続けることは無理。タイミング良く1つの国が勢いを失った時に他の国が上昇傾向にあってくれればいいという希望的観測がありました。それが偶然上手く行き、スペインが絶好調、落ちて来たら北欧が伸び、北欧が時々休憩をしたら、アジアがぐっと伸びてといった感じでした。全体としてはどこかしらに好調な地域があって、ファンタはいつも盛り上がっていました。
★ 恐るべきは主催者の約束 - 守ってしまうのです。
「来年は1列増やす」とか、「今年はアジアの積み残した作品があるから冬にもう1回ファンタをやる」とか言うのです。話半分かと思っていたらやってしまうのです。特にここ暫く1列増え、午後1時開始になったため疲労困憊。このスケジュールですと1日6本となります。既に事前の上映会で見ていたり、上映最初の15分ほどで判断をするバイヤーやジャーナリストが多く、一般客は時々単発でティケットを買ってその作品だけを見るというベルリン映画祭などと違い、ファンタではホールに入ったらその作品をじっくり見る観客ばかりです。ということは1日6本ですと、12時間ほど気合を入れて作品を見、合間に仲間と情報交換をしたり、ああだ、こうだと議論をするわけです。
なじみ客はそろそろ10年選手。ということは皆主催者と一緒に10歳年を取りました。去年と今年、私は主催者の1人がゾンビのようになって歩きながら眠っているのを目撃しました(笑)。この人の状況に1番理解があったのは、去年ファンタの期間中に休暇を取ることができず、本業をしながら1週間映画館に通った観客です。「眠る時間が無いとああなっちゃうんだよ」という証言が現実味を持っていました。
さて、その約束を守る主催者、珍しく嘘を言いました。去年「来年はベルリンからスタートする。初日の1日前にオープニングのパーティーをやる」と言ったのですが、いざ蓋を開けてみると、水曜日に始まる1日前、つまり火曜日はパーティーではなく、オープニング作品上映。そして本来初日の水曜日からフル・プログラムです。今年はさすがに1列増やす話は元に戻し、1日5本の上映、午後3時開始ですが、日数が増えたため全体では9日42枠。以前は8日で42枠だったので、いくらか観客の年齢に合わせた感じです。これを嘘と言って文句を言うつもりは毛頭ありません。仲間内では「今年は助かった」と評判が良かったです。
去年ちょっと残念だったのはベルリンでは3館4ホールで開催され、場所が離れていたので、他の館へ行く余裕がゼロだった点。それは今年も同じで、2館3ホール。ただ、今年はプログラムにドタキャンやドタ変更があり、他の館でしか見られないはずの2作の内1作が2つのホールを使っている映画館で上映されることになり、見逃したのは1作だけでした。
★ たまには別な役割
今年はベルリンから始まったため、作品を選ぶ時に他の町の感想を参考にすることができず、こちらが先に見て発信しなければ行けないことになりました。なかなか大変な役目です。主催者は配給側からのドタキャン、輸送中の事故などに悩まされることもあり、またあまりに酷い評判の作品は途中で退場処分にしたりすることもあるので、最初の都市は言わばモルモット。これまでずっとベルリンはフィナーレでしたが、今年はモルモットの役を仰せつかりました。という事はこれを書いている現在他の都市ではまだファンタをやっているということです。
モルモットにも利点があり、未完成の作品を見ることができました(未完成上映はファンタでは時たまあります)。その作品の未完成度があまりにも高いので、他の都市には見せないという決定が下り、私たちは世界初公開の作品を見ることができた上に、この状態での上映は今後世界中で絶対に無いという珍しい経験をしました。
★ 来年に関してはぶったまの情報が入っています。
またしても2館で上映するそうですが、現在の会場から歩いて数分の所をもう1軒借りるそうです。現在の会場がドイツで1番良い設備の映画館なのですが、もう1軒もその次ぐらいに良い映画館で、私も時たま行ったことがあります。中国のツイ・ハークという監督が来ていて、ちょっと話をしたことがあります。
移動しようと思えば可能なのですが、同じ館、同じ階の隣同士のホールの交代でもちょっとした苦労。なので本当にパスを持った観客が頻繁に両館を移動するかは疑問ですが、通しのパスを買わない一般客がそちらに回るかも知れません。私たちは主としてメインの館にとどまり、どうしても見たい作品だけたまに移動ということになるのではと思います。
来年は50%ほどを3ホール内で再上映するとのことなので、作品を選ぶのが大変になりそうです。これまでは同じ時間帯に組んでしまったらどうしても1作は諦めなければ行けないシステムでした。それですと、すっぱり諦めがつくのですが、再上映があると上映は単純計算で行くと約120本分。実際に見られるのは40本程度。主催者が120本出して来るという意味ではなく、来年も原則としては80本弱でしょう。大雑把に言うと80本出されて40本は絶対に見られないとなっていたのが、館を移動すれば諦めなくても良くなるので、迷いがずっと大きくなりそうです。
なじみの客はうれしいながらも悲鳴を上げることになりそうですが、これは全体としては改善と見るべきかも知れません。これまでは良い作品(あるいは程度の似た作品)が2つ同じ時間に上映されることがほとんどで、必ず良い作品の1つを諦めていました。そこに少し余裕ができるわけで、とても評判がいいと知ったら再上映 で見ることが可能になります。
★ さて、今年のファンタですが。
☆ アメリカ ☆
ブロックバスター路線は追わないことに決めたらしく、今年もアメリカから出るとすれば比較的地味な作品や、マニア以外では知名度の低い作品が多かったです。アメリカは単独で資金を出したケースはダントツに多く、群を抜いて今年も1位。
作品の内容を見ると今年はあまり力強い作品は見られませんでした。一時期サンダンス映画祭などで評判を取ったり、取りそうな作品がざくざく来た年がありましたが、今年はそれほど個性のある作品は多くありませんでした。どちらかと言えば、アメリカだから作りそうなスプラッター映画、B級作品(ファンタにはBファンが多い)が多かったです。この部分はファンタの個性の1つなので、抜くわけには行きません。
完全にアメリカがお金を調達していて、監督が日本人という作品が1本出ています。俳優は全部外国人で、日本人は関係ありません。またイタリア、日本と合作で、資金提供に専念している作品も各1本来ています。
☆ アメリカ以外の英語圏 ☆
普段は喜んで英国やオセアニアの作品を見るのですが、今年は少数の例外を除いてほとんど避けました。休暇旅行などの最中に数人の若者が襲われるというテーマは好きでなく、ゲバルト・ポルノと呼ばれる意味も無く拷問をしたり苛める作品も好きでないのですが、そういった傾向の作品が英語圏の作品に見られました。
映画館に座ってボーっと見ている分には英語の方が楽でいいです。今年はかなり疲労感もあり、英語の映画にしておけば楽でよかったと思いますが、テーマが肌に合わず、敢えて他の国の言葉の作品を選びました。
☆ 北欧 ☆
一頃に比べるといくらか落ちているように思いますが、参加作品は一定の数を保っており(ノールウェイ、デンマーク、スウェーデン)、北欧では名のある俳優も出ています。ベルリンではファンタと無関係でも北欧のコメディーなどは映画館で見られ、多くはDVDを借りることもできます。今年は珍しく有名女優主演で子供向きのファンタジー・ホラー映画も来ていました。また普段は監督として有名なラース・フォン・トゥリアーが主演もやっている短編も来ています。内容的にはあっと驚く作品はありませんでした。
☆ スペイン語圏 ☆
スペインは一時期犯罪物でどんどんおもしろい作品を出していたことがありますが、最近は落ちています。ただ、いずれまた盛り返すかなと思えます。最近ハリウッド映画で忙しいギレルモ・デル・トロはお金を出してくれる人がスペインにいればスペインで、メキシコにいればメキシコで作ります。デル・トロ監督、今年はヘルボーイ2 のプロモーションでファンタ開催中にドイツにやって来るのですが、ベルリンはパスして南の方に来るそうです。悔しい!しかしデル・トロ監督のお気に入りのロン・パールマンがファンタ参加の作品に何度も出て来るので、それはうれしかったです。ちなみにファンタが行われている会場にはヘルボーイのレギュラー3人組の巨大なポスターがかかっていて、私は毎日眺めていました。
ファンタにはその他に毎年1つか2つ南米やメキシコの作品が来ます。映画大国でないので、そうしょっちゅう1つの国から連続してということは無いですが、メキシコとかアルゼンチンなどからポッと出ます。たまに大当たりすることもあり、優秀作品を見たことがあります。今年はアルゼンチン、コロンビアとスペインからの参加があり内容はまあまあ。
☆ フランス ☆
今年はフランス作品が多かったにも関わらずフランス特集は組んでいません。欧州の国が1国単独の資金で6本というのは根性で、その他にフランスも資金を提供した合作が5本ほどあります。カナダと組む場合はフランス語の作品になることが多いです。今年フランスもお金を出した変り種に、スポンサーがフランスとスペイン、原作がアルゼンチン人、舞台がオックスフォードで、俳優は英国、米国の有名人というのがありました。見終わると萎んでしまうのですが、それに気付くのは見終わってから、つまり見ている最中はおもしろいと感じているというトリッキーな作品でした。
フランス単独では、ハイテンション全編がイントロに見えてしまう物凄いインパクトのある作品や、犯罪物としてできのいい作品、テレビのレベルをちょっと上げたような作品があり、今年の満足度にはフランスが大いに貢献しています。
☆ アジア ☆
アジアは今年息切れしています。13本で内訳は
となっています。日本が特に増やしているわけではないのにトップになってしまうこと自体が普段と違います。合作ではお金だけ出し、口はあまり出していない物もあれば、舞台は中国でも自国の俳優を参加させている物などが混ざっています。いずれ記事を出すこともあるかと思いますが、香港、中国、韓国、日本揃ってテンションは下降気味です。
地図を見るとそのちょっと先のタイは時々映画を作る国ですが、ベトナムが単独資金で参加したのはなかなかの気合です。一昔前のアクション映画というスタイルですが、そのスタイルをきっちり通しているため好感が持てます。
☆ ベネルックス ☆
ベネルックス3国の中で映画の国と言えるのはオランダのみ。ルクセンブルクがルクセンブルク映画を作るという事はまずありませんし、ベルギーはたいてい資金面でフランスかオランダの参加を望んでいる様子。オランダはそれほど苦労しなくても中程度の犯罪映画は作れ、時にはインパクトのある作品も出して来ます。ハリウッドへ出た監督や俳優もいます。ベルギーはそれほど頻繁に作りませんが、ファンタに持って来る時は良い物を出して来ます。今年はジョン・クロード・ファン・ダムの快挙。犯罪映画とは言い難い、ジャンルの決め難い作品ですが、名作に数えられます。それ以外の作品はまあまあ。
1つオランダ、ベルギー、ブルガリア合作というのがありますが、撮影をブルガリアでやったのでしょうか。話の内容はどこが舞台でも構わないようなもので、あまりファンタ向きではありませんでした。一般の文化系の館に向きます。
☆ ドイツ ☆
ファンタのファンはドイツ映画を避ける傾向が強いです。いずれテレビで見られるだろうとか、DVDになるだろうという気の緩みもあるのですが、つまらない作品が出る確率も高いのです。それで私もつい避けてしまいました。ドイツの映画が全くだめではないことは時々デトレフ・ブック監督や若手の俳優を例に挙げてご紹介した通りです。ただこういう人たちはファンタに出るような作品に関わらないことが多いのです。
ドイツ人が好むのはSF。ところが作る前に構え過ぎて、結局計画倒れになるケースが多く、これまで見て感心した作品はゼロ。ホラーも時々作りますが、なぜか英語圏の俳優を使い、中の下といったレベルに仕上がります。
ドイツ人が映画を作るとファンタではみすぼらしいかと言うと決してそういうことは無く、大評判の分野があります。他の国の人が聞くと意外に思うかも知れませんが、短編のクレーアニメ。ここで輝く才能を何度か見ました。短編特集にそっと忍び込ませている場合もあるのですが、去年からはファンタと共催でファンタのトレイラーを製作している人たちがいます。確か去年のコーナーで誉めたことがあったと思いますが、常連は去年主催者からDVDをプレゼントされ、自宅で本当に見た人が多かったです。
今年はDVDのプレゼントはありませんでしたが、会場ではランニング・ギャグで続編が出ました。ファンは大喜び。ここにドイツ人のユーモアのセンスも集中していて、なんともかわいい、かわいそうなモンスターがたくさん登場します。
☆ その他の国 ☆
その他などと言ってまとめてしまうと気の毒ですが、それほど頻繁に出ない国、地域です。今年是非見たいと思っていたのに別な館に行ってしまって見られなかったのがハンガリー。1度ファンタにすばらしい作品が来ているので、興味はありました。もう1つ私は初めてだと思うのですが、ギリシャ。こちらはスケジュールの都合で見られませんでした。もう1つはイスラエル。
イスラエルは見ることができました。ファンタ向きなのだろうかとちょっと疑問に思いましたが、興味深い作品です。実話をベースにして戦争を題材にした作品で、エンターテイメント性の強いファンタに出すより、一般向きにした方がいいのではと思います。イスラエルがアニメというのも変わっています。ちょっとスキャナー・ダークリー的な雰囲気があるのですが、内容は全く違います。お金はフランス、ドイツ、イスラエルが出しているのですが、独仏は口は出していない様子。イスラエル人が体験したらしい出来事を語っています。
☆ 変わった作品 ☆
最後に英国、ドイツ、スペインがお金を出して、ロシアを舞台にしたウディー・ハレルソンが悪役でない作品をご紹介。スポンサーのコンビネーションが変わっています。お金を出した国が俳優も提供していますが、もっぱらハリウッドに出ている人もおり、なぜアメリカがお金を出さなかったのかと不思議に思いましたが、その代わりにウディー・ハレルソンの意外な使い方ができたのかも知れません。かつては役柄を押し付けられてしまうと俳優はいつもワンパターンでしたが、最近は小さな映画や外国のスポンサーがついた作品で、いつもと違う役を演じることもできるようになっています。
★ まとめるとこんな感じ
今年は全体的に何となく不調という印象だったのですが、何となくではうやむや。どうなっているんだろうと考えているうちにこんなまとめができてしまいました。裏返すと、こういった国々がこれまで何年もの間張り切ってどんどんおもしろい作品を出していたということです。
どの国にも波があり、これまで適度に交代しながらどこかの国が好調だったのだと思います。今年各国の不調が珍しく同時多発してしまったのでしょう。また韓国や中国がどんどんおもしろい映画を出していた頃、日本はそれほどおもしろい作品をファンタに持ち込んでいませんでした。では日本はだめだったかと言うとその反対で、テレビ界は絶好調でした。映画という形にしていなかったのでファンタに来ていなかったわけです。韓国も聞くところによるとテレビに重要な俳優が多く出るとか。
その国、その国の事情、映画でお金を儲けようと考える人たちが何に資金を出すかなどの事情にも左右されるのでしょう。そしてファンタという企画とつながりの大きい国とそうでない国もあります。その点日本より他のアジアの国の方が関わりが大きいように思います。
来年がどうなるか、楽しみにしています。
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