2008年ファンタ参加作品

普通の場合1人の人間に1つの人格しか無いと思い込んでいましたが、多重人格の人というのは意外と頻繁にいるようです。かっとして切れてしまう人物というのが最近増えているように言われていますが、そういう人が普段物静かだったりするわけです。病的なケースもありますが、カッとした時やお酒を飲んだ時だけがらっと人柄が変わるのも考えようによれば多重人格なのかも知れません。ま、素人は定義も対処の仕方も知らないので、そういう人が身近にいると苦労しますが。

ファンタでは前半やや低め、まあまあの調子で来て、中日、週末にガタッとレベルが下がり、ちょっとがっかりしていたところに神探が出ました。気を取り直して見たのですが、おもしろかったので、次の日の再上映でもう1度見てしまいました。

★　リピーター

ファンタ開催中に同じ作品を2度見るというのは実にもったいない話です。今年を例に取ると、42枠取ってあります。初日は同じ作品が2度上映されるので、1つ引くと全部で41本新しい作品を見ることができる計算になります。常連のファンはこれをこなすわけです。再上映は少なく、本気なら41本見ることは可能です。10年以上毎年参加している仲間も年を取って来たので、中には休養を取るためにいくつかパスする人はいますが、会場に出向いていて同じ作品を2度見るケースはまれです。

ところが今年は私の他にも神探を2度見た人がいました。その人たちは最初から「おもしろかったら2度見る」と言っていましたが、私は元々は2度見るつもりではなかったのです。ところが見終わって「もう1度見て確かめなければ」というシーンが何箇所かあり、2度見る価値があると思ったのです。非常に珍しいことです。

★　事件と登場人物

この作品は井上さんも見ています。説明もあるのでそちらも参考にして下さい。

オリジナル・タイトルが示すようにある所（とは言っても香港のどこか）に神がかりに近い能力を持って難しい事件を解決している刑事バンがいました。署内では評判で、若い刑事もあこがれていました。しかし何事にも両面があって、神がかりが狂気に近く、ある日退職する上司に奇妙な贈り物をしたため退職することになってしまいます。

バンの能力にあこがれていたのにほんの数日しか一緒に仕事ができなかった刑事ホーがある日難問を抱えてバンを訪ねて来ます。18ヶ月前に2人で組んで事件捜査に当たっていたうちの1人ウォンが行方不明になり、その時一緒に消えたピストルがいくつかの事件に使われているとのこと。依頼を受けたバンはその時のウォンの相棒コに注目し、コの精神が7人に分裂していることをたちどころに見て取ります。

バン、ホー、ウォン、コが重要人物で、コが町を歩くところを観察しているバンのシーンはとても凝っています。そこについている音楽もとてもおもしろく、このシーンは事件の経緯にはあまり大きな影響はありませんが必見です。

★　残酷シーンカット

・・・というニュースを作品を見てから知りました。「どこの事かいな」と思っていたら、どうやら退職上司にあげるプレゼントのシーンだそうです。ファンタを見ていると神経が麻痺してしまうんでしょうか、「あの程度で残酷シーン？」と思ってしまいました。シーンが始まる前にその部分を見ると明らかに偽者がセットしてあり、俳優には何事も無く終わるのが見え見え。間もなくそういうシーンが出ると知らずに見た1回目でもちょっとその部分が普通より膨らんで見えたので、あれっと思ったものです。しかし中国では成人映画になってしまったそうです。香港では問題なかったようです。杜�h峰の作品はここ暫く大陸では災難続きです。

★　事件か人物か、そしてどの人物か

事件自体はそれほど不可解な話ではなく、仕事の途中で起きたトラブルが連鎖反応を起こし、流浪ピストルが他の事件に使われているという話です。元々そのピストルを持っていた人がどうなったか、後始末はどうしていたのかなどが事件の本質ですが、監督はそちらよりブンという人物に焦点を置いています。そしてよく考えてみるとコもおかしな刑事で、毎日7人の人格に分裂しながら仕事はこなしているのです。

これまでいくつか杜�h峰の作品を見ましたが、ユーモアは重要な要素のようです。コを中心に据えた作品を作っても良かったかも知れません。しかしその種の作品はアメリカなどに多く、一定のレベルを超えることはできないでしょう。ブンを主演にすると視点ががらっと変わります。

選んだ俳優も良かったのかも知れません。ブンは自分の事に夢中で世間をあまり見ていません。退職後何とか毎日の生活をこなしていたようですが、同僚でもあった妻には去られています。しっかりした女性なので、ブンが追い出されたのかも知れません。大好きな仕事も首になってできず、よく考えてみると悲しく惨めな生活をしているブンなのですが、ブンの主観が頻繁に出るため、自分を客観的に見ていないブンの視点ではそれほど惨めではありません。

ブンを客観的に見ることができるホーは、ちょっとおかしいブン、さびしい生活を送っているブンが見えますが、自分がブンにあこがれているので、あたたかい目を向けています。

意外なことにあまり深く突っ込んでいないのが7人の人物に分裂して毎日を送っているコ。ここを抑えたのは正解でしょう。平凡な映画になるのを防いだと思います。

★　なぜ2度見たか

最初見た時は事件がどういう風になっているのか、犯人は誰かなどということだけに集中してしまったのです。ブンの頭の中がちょっと軌道を逸していることは上司の退職のシーンやトランクの中に入って階段を転げ落ちるシーンで分かりますが、凡人の私は事件の方ばかりを気にしていたのです。

しかしこの作品は事件よりもブンの視点とそれを見守るホーの視点に注目する方が味わいがあります。で、翌日もう1度見ることにしたのです。

★　他の作品との共通点

今年はしりとりのように1つの作品が他の作品と繋がっていたりします。例えばブンは所謂精神分裂ではなく、身近な人の精神状態が見えてしまう設定になっています。それと似ているのが別なページでご紹介する Dorothy Mills で、主人公は精神分裂と判断されてしまいますが、実はそうではないようなのです。