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2010 USA/Vereinigte Arabische Emirate 108 Min. 劇映画
出演者
Naomi Watts
(Valerie Plame - CIA の諜報員)
Sean Penn
(Joe Wilson - ヴァレリーの夫、元外交官、分析家)
Ashley Gerasimovich
(Samantha Wilson - ヴァレリーの娘)
Quinn Broggy
(Trevor Wilson - ヴァレリーの息子)
Polly Holliday
(Diane Plame - ヴァレリーの母親)
Sam Shepard
(Sam Plame - ヴァレリーの父親)
Anand Tiwari
(Hafiz - クアラルンプールの実業家の甥)
Vanessa Chong
(クアラルンプールの実業家の秘書)
Stephanie Chai
(クアラルンプールの実業家の秘書)
Brooke Smith
(Diana - ウィルソン家の友人)
Ty Burrell
(Fred - ウィルソン家の友人)
Jessica Hecht
(Sue - ウィルソン家の友人)
Norbert Leo Butz
(Steve Norbert - ウィルソン家の友人)
Rebecca Rigg
(Lisa - ウィルソン家の友人)
Bruce McGill
(Jim Pavitt - CIA、ヴァレリーの上司)
Michael Kelly
(Jack McAllister - CIA、ヴァレリーの上司)
Noah Emmerich
(Bill Johnson - CIA、ヴァレリーの上司)
Nicholas Sadler (CIA)
Louis Ozawa Changchien (CIA の分析官)
Remy Auberjonois (CIA の分析官)
Sean Mahon (CIA の分析官)
David Denman (CIA の分析官)
Liraz Charhi
(Dr. Zahraa - アメリカ在住のイラク人医師)
Khaled Nabawy
(Hammad - イラクの科学者、ザラ医師の兄弟)
Rafat Basel
(ハマドの息子)
Maysa Abdel Sattar
(ハマドの妻)
Nabil Koni
(イラクの科学者)
Mohammad Al Sawalqa
(イラクの科学者)
Ghazil
(ニジェールの鉱物省大臣)
Anastasia Barzee
(ジョーに嫌がらせをするジャーナリスト)
Mohamed Abdel Fatah
(Professor Badawi - エジプトの教授)
Rebekah Paltrow (国連大使)
Ken Sladyk
(トルコの外交官)
Sonya Davison (Chanel Suit)
Thomas McCarthy (Jeff)
Kristoffer Ryan Winters (Joe Turner)
Rashmi Rao (Kim)
David Andrews
(Lewis Libby - 副大統領主席補佐官)
Adam LeFevre
(Karl Rove - 次席補佐官)
Brian McCormack
(Steven Hadley - 大統領副補佐官)
Tim Griffin (Paul)
Sunil Malhotra (Ali)
Kevin Makely (Jordan)
Nasser (Mr. Tabir)
George W. Bush (本人)
Dick Cheney (本人)
Dominique de Villepin (本人)
Colin Powell (本人)
Condoleezza Rice (本人)
見た時期:2011年4月
★ 現実はどんどん先に進む
最初から最後まで政治ショーの映画です。椅子にゆったりと座りお茶でも飲みながらそのつもりで見てください。この映画を作った人たちはこれこれしかじかと言いたいわけです。皆さんが同調するも良し、反対するも良し、まだ分からないからと保留するも良し、最低でも3つの選択肢があります。もしかしたら他にも解釈の道があるかも知れない。911 も当時言われたバージョンと今日言われているバージョンは全然違いますし、この先また何か出て来るかも知れない・・・この程度のスタンスでご覧になるといいと思います。
普段表立って映画産業に投資しない国がお金を出しています。作品の内容を考えると、アラブ事情を世間に知ってもらいたいという意図が見えます。ちょうど今日彼の髭を生やした有名人が襲撃され命を落としたことになり、1つのけりがつきましたが、この話も私はまだ眉に唾をつけて見守っています。
彼の国の実業家が Fair Game にも大々的に登場する某諜報機関に協力していたら、いつの間にか政治状況が変わり、実業家はカッカと怒り出し、「もう協力をするのは嫌だ、それどころか反対してやる」とばかりに方向転換、テロ方向にコースを変更。事業で稼いだお金を反対運動に使い始めました。それが尋常の額ではなく、さらに彼には人をリードするカリスマ性もあり、大々的に発展。某諜報機関を擁する国に取っては忌々しき事態。なので彼に活動を止めさせるか、消してしまうかしなければならなくなります。
こういうパターンは確か中央アメリカだか南米にも過去にあったように思います。古いパターンのリサイクルです。実業家が他の同じパターンの人に比べて特別有名になってしまったのは、911事件とイラク戦争が絡んで来たからです。一応世間的にはこの実業家は50年代に生まれ、今日(2011年5月2日)死んだことになっています。彼が生まれた日もはっきりしませんが、死んだ日についてはニュースが出た当日から「あの死体写真はフォトショップで作った偽物だ」と言われ始め、元ネタの写真まで公開される始末。なので本当にこの日襲撃を受けて死んだのかはまったく不明。葬儀も水葬という珍しい方法で、死体は今後見つからないので司法手続きをして掘り出し、再検査などということはできません。つまりこの日死んだ人が本当にいたのか、そしてその人が彼の有名実業家だったのかは検証のしようがありません。
私は現在のところ、彼の超大国の大統領が、5月2日をもってこのカリスマ・メルヘンに区切りをつけようとしたのだとだけ考えています。古いパターンのリサイクルですと、元々協力者だった頃の秘密を知っているわけですし、色々都合の悪い情報があるでしょう。それを清算したかったのかも知れませんが、あの企画は元々現在の野党が主体になってやった事なので、現大統領にはそれほどの責任があるとは思えません。それなのにこういう行動に出たということは、区切りをつけることにアクセントが置いてあるのかなと思っているところです。
この実業家が本当に今日まで生きていたのかについては疑わしい話がいくつかあります。出されたビデオは大抵現在の野党が行き詰まった時期にどこからともなく現われています。分析の結果偽物という報告も多々あります。また、実業家は腎臓を患っていて透析が必要だという話があり、ある時停電で透析の機械が使えなくなったそうです。なのでこの時に死んだ可能性も噂されています。その他あれこれ生存を疑う噂があります。私などは、彼は元々アメリカと仲のいい家族の一員なので、全部に協力していて、実はニューヨークかどこかに西洋の服を着て住んでいて、時々アラビアの衣装を着、メイクをしてビデオを作っていたのではなどという解釈もありかとさえ思っていました。彼のおかげでたんとお金が儲かった人たちもいるので、全部がマッチポンプだと後で言われても驚かないと思います。彼の存在が怪しく思えてからはこれはアラビア版のフー・マンチュー(傅満洲)博士ではないかと思っていました。いずれにしろここ暫く某諜報機関、某国特殊部隊、某大国政府は発表されたバージョンが事実だという証明に追われるでしょう。あまり長い間狼少年をやっていたので、一般人は何を信じていいのか分からなくなっています。
★ 監督
というわけで、記事を書こうと思った矢先に現実がドンと存在感を現わして来ましたが、作品の話に戻りましょう。
ダグ・リーマンが監督として関わって世に出した劇映画は現在までに7本。その中の最新作が Fair Game。間もなくジャンパーの続編が出るようです。特にこの監督ご指名で見たわけではないのですが、いくつかの作品を見ています。
Fair Game に関連がある作品として挙げられるのはボーン・アイデンティティーと Mr.&Mrs スミス。本人もそのつもりだったようでインタビューで触れています。関連するキーワードは諜報活動。両作品とも有名なので詳しくは触れませんが、ボーン・アイデンティティーは本来の職務から脱線してしまった諜報員の物語で、アクション、謎解きに加えて、本人の葛藤がシリアスに描かれています。Mr.&Mrs スミスは夫婦がそれぞれ諜報員で、お互いに相手にそれを秘していたらこうなった・・・というコメディーです。
そして諜報員シリーズで次に来たのが実話。フィクションのつもりで見ていたら、見覚えのある顔が並び始め、おやおやと思っているとそれらしい名前まで登場。間もなく Fair Game がそっくりさんショーに見えて来ました。そう思って見ていると本当によく似た俳優を呼んで来ています。大物の有名人が実名で登場する上、この事件が起きた時「おや」と思いながら報道に目を通していたので、話はじき分かって来ました。
その主演にショーン・ペンとは心憎い配慮。本人が企画段階でどのぐらい首を突っ込んでいたのかは分かりません。開戦直前まで問題の地にいた本人の出演というのは良く分かりますし、本人も気合を入れています。ただ私にはジェフ・ブリッジズの方がこの役に合っているように思えてしまいます。本人があまり役に思い入れを持つと、観客に本人の意図とは違った印象を生んでしまうことがあるようです。原則的にそちらに近い思想を持っていたとしても、役にちょっと距離が保てると、その方が観客には政治のメッセージが良く伝わるのではないかと思います。
そうなのです。この作品は始めから終わりまで全部政治プロパガンダ。なので観客はそのつもりで見ると話がすっきり分かっていいかと思われます。映画はお金がかかり、金儲けだけを考える人の他に、「それほどのお金を出すのなら言いたい事は言わせ貰う」と考えるスポンサーがいます。この作品はその方針のようです。
★ ストーリー vs 実話
ストーリーをご紹介するのも、実話をご紹介するのも同じ事です。私は当時この事件の報道を目にしていたのですが、表に出た報道を見る限り、映画にこれといったフィクションは挟んでいないように見えます。家族関係の詳細は分かりません。夫婦、親子、祖父母、友人などが描かれています。友人の実名を出しているのか、本当にこういう話だったのかまでは分かりません。ただ、この2人が英国の科学者のように不審感漂う自殺に終わらず、生き延びられたのは、家族が重要だったためでしょう。でなければ途中で投げ出していたか、国なんぞはどうでもいいという投げやりな考え方になっていたでしょう。作品の最後に本人が証言するシーンが出て来ます。そして DVD には本人たちが何度も登場します。2人はこの作品の制作に当たってアドバイザーを務めています。
事の次第をざっとご紹介すると次の通り。
サダム・フセインがイラクの3人目の首相だった時。それまでのいきさつからイラクは大量破壊兵器を放棄させられており、国内でそういう物は作ってもおらず、保持もしていませんでした。しかしアメリカ政府では隠れてやっているのではないかという疑いが生じ、諜報活動を通じてしきりにそこを探っていました。その活動の一翼を担っていたのがここで問題になるヴァレリー・プレイム・ウィルソンです。
映画と実話に僅かな違いが出るのは彼女が CIA にリクルートされて諜報員になったか、彼女の方が希望してなったかぐらいです。映画では自分で志願となっていますが、記事ではリクルートされたとなっています。彼女は有能な諜報員で、同時にいくつものミッションを抱え、成功させるようなベテラン。両親と夫は彼女の素性を承知しています。他の人には秘密。しょっちゅう海外に出ているところはそれに合うような職業だと言って誤魔化しています。事件が表面化するまで誤魔化されていた友人の1人がシリーズ 7: ザ・バトルロワイヤルのブルック・スミスで、9 デイズに続いて再び CIA 関係の作品ですが、今度はそんなことに気づかなかった一般国民の役です。
CIA は大掛かりな調査、分析の結果、2001年以降のサダム・フセインはそういった武器は持ち合わせていないだろうという結論に近づいていました。しかし2001年の事件の後、どういう事情か、絶対にイラクを攻撃しなければならないという必要に駆られていた政府は、こじつけてフセインに濡れ衣を着せてでも開戦する方向に動いていました。そのため CIA にも政府の息のかかった分析官を入り込ませるなどしてあれこれ画策していました。それでも Fair Game が始まる頃はその男が道化のように扱われ、大勢はむしろフセインはこの件に関しては無罪だという結論を信じていました。
《それじゃ、困る》というので、政府から副大統領直属の大物が乗り込んで来て、分析官1人1人と面会し、神経をずたずたにし、CIA の結論として《フセインは大量破壊兵器を作っている最中、そのためニジェールからウランを買っている》という話を無理やり作らせて行きます。CIA と言えども役人、官僚。上からごり押しされると黙らざるを得なくなります。そうやって1人、また1人と口をつぐみ始めた時、政府の方針に反旗を翻した人物がいます。
それがヴァレリーの夫のジョー・ウィルソン。彼はフセインの件を分析する過程で CIA から依頼を受け、ヴァレリーの上司に自分がニジェールにいた時の様子を報告します。念のためにもう1度調査ということで CIA からニジェールに送られます。過去に滞在した時の人脈がまだあり、もう1度確認をしますが、フセインでなくともどこかの誰かとウランの売買をした場合起こりそうな変化が全く見られず、やはりニジェールがフセインにウランを送った形跡はありません。
イラクが入手したと言われる大量のアルミ管も原子爆弾を生産する時に必要な物とはサイズが合わないという分析が出ます。つまりフセインがいつどこで何をやったかは別として、この件に関しては多数の人間が白という結論を出しています。
こんな話では都合が悪い政府は2003年3月19日ごり押しで開戦してしまいます。武器が出て来なかったことはグリーン・ゾーンでご存知の通り。こういう状況に我慢できなくなったジョーはニューヨーク・タイムズに投稿します。《無いはずの武器をあると言いくるめて始めた戦争だ》という内容で、政府は顔を潰されます。元々クリントン大統領の相談役だったジョーは1ラウンドでは勝ちますが、政府はすぐ2ラウンド目に取り掛かります。パウエルの副大臣だったアーミテージからの情報源で、政府の高官がマスコミに「ジョーの妻は CIA の諜報員だ」とばらしてしまいます。アーミテージは「あの頃誰でも知っていた話だからばらすとかいう話ではない」と言って、誰かにそれを伝え、それがカール・ローブ、ルイス・リビーあたりからジャーナリストに漏れます。この辺で大物政治家の名前がボンボン出て来ます。
身元をばらされてしまったため、ヴァレリーは私生活でもミッションでも大穴が空いてしまいます。彼女がそれまでかかっていたミッションは即時中断。聞くところによると70人ほどの命が失われたとか。この話は確認が取れていませんが、Fair Game の中では具体的にイラク人協力者で科学者が数人とその家族が行方不明になっています。CIA では任務から外され、同僚も口を利いてくれません。
失意のどん底でしかし自分は間借りなりにも諜報員、口を閉ざしていようと決心するヴァレリー。離婚の危機に瀕しています。他方、ジョーは曲がった事には妥協しない性格。なので3ラウンド目を試みます。
ジョーは「自国の諜報員の身元を明かして生命の危険にさらすのは法律に触れる」として告訴。これで勝ってしまいます。この裏にはジョーに当時の野党、その野党側に理解のあるマスコミとのつながりがあって救われたという面もあったと思います。
めでたしではありますが、4ラウンド目があります。政府はリビー1人に責任を押し付け、罰金と実刑を受け入れさせてから大統領の恩赦で手を打ちます。執行猶予になったので、ムショ行きは無し。
★ どこを見るか
この作品を受身的に見ていると、民主党が正義の味方で、共和党が悪、ブッシュはこじつけで開戦したという話になります。なのでジョーとヴァレリーに同情し、私生活をめちゃくちゃにされたことに同情していればいいのです。
ただ、ちょっと疑問に思ったのは、ジョーの行動。彼自身政府の上の方に協力している人物だったので、ああいう記事をニューヨーク・タイムズに出すとどういう事になるかは十分想像がついたはずです。それでも自分が正義と信じた話を通したのですから、それなりのリスクも伴うことは理解しなければなりません。何も無くて済むと考えるほど子供っぽい人物ではありません。なので、ショーン・ペンが出来事の負のエスカレートに怒って怒鳴り散らすのは場違いに思えました。どういう形にせよ、彼が政府に与えた程度の反撃は食らったと思います。
もう1つ気になった事が。ジョーの行動は一般人として映画を見ているとそれなりに正しいように思えます。彼はアメリカ一般国民のためには確かにいい事をしたと思えます。存在しない根拠に準拠して戦争を開始すると、アメリカ兵は犬死です。それを防ごうとしたのですから、アメリカ人のためにやったと言えます。すると政府は何を理由にあの戦争をどうしても始めなければならなかったのかという疑問が残ります。あれだけの人と金を動かすのなら、政府なりに何か採算が取れるはず。しかしそこが私には見えませんでした。
後記: この記事を書いている間に起きた、彼の有名実業家死亡事件や、同じパターンで過去に起きた事件を鑑みるに、フセインも以前はアメリカに協力的だった人物で、後に方向が変わっているので、そのあたりに手品のタネが隠れているのかも知れません。いずれにしろ、死んでしまった人に口はありませんので、私たちがいつか本当の話を聞く機会に恵まれるかは分かりません。ま、誰かに都合の悪い話があったのかとは思います。
★ 俳優のイメージ
まあ、よく似た人を連れて来ています。本物のヴァレリーは厚化粧で出て来るので最初全然似ていないと感じましたが、メイキング・オブには薄い化粧で出て来ます。するとナオミ・ワッツと姉妹のような感じがします。ショーン・ペンよりジェフ・ブリッジズの方が全体の感じはジョーに似ていますが、ショーン・ペンは髪型などで工夫しています。その他 CIA 関係者、政治家など、名前を聞く前からあの人ではと思っていると大抵当たります。
ナオミ・ワッツの Fair Game での出で立ちは、痩せてぎすぎすした感じです。お姫様役ではないので、これでいいと思います。見ていてふと思い出したのがやはり CIA のジョーン・アレン。ボーン・シリーズの3本目です。リーマンは1本目だけで降りているので、3本目の出演者とイメージが似ているのは恐らく偶然でしょうが、2人の女性ベテラン CIA が似たようなイメージを持っているということは、現実がこうなんでしょうか。眠る暇も無く世界中を飛び回り、時には敵に捕まってしまうこともあるとすれば、ぎすぎすするのもやむを得ないのでしょうか。ま、楽な仕事ではないようです。
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