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Kanada/F 2018 91 Min. 劇映画
出演者
Rob Archer
(キャンディー・トラックの太った犯罪者)
Kevin Power
(キャンディー・トラックの女犯罪者)
Angela Asher
(キャンディー・トラックの女犯罪者、声の出演)
Mylène Farmer (Colleen - 叔母の家を相続した女性)
Emilia Jones
(Beth - コリーンの娘、ベラの姉、事件前)
Crystal Reed
(Beth - コリーンの娘、ベラの姉、事件後)
Adam Hurtig
(ベスの夫)
Dennis Cozzi
(ベスの息子)
Taylor Hickson
(Vera - コリーンの娘、ベスの妹、事件前)
Anastasia Phillips
(Vera - ベスの妹、事件後)
Paolo Bryant (警官)
Erik Athavale
(救急車の医師)
見た時期:2018年3月
2018年5月の春のファンタ前のプレミア
このページはほぼ書き終わっていたのですが、なぜか突然ソース・コードを書くためのプログラムが謀反を起こして、全部文字化けしてしまいました。もうだめかと諦めかけていたのですが、たまたま開いていたウェッブのページはまだ見ることができました。
そのページを全部コピーし、新たなソース・コードのページにペーストしました。段落、改行などは全部無視されましたが、とにかくテキストの内容だけは救出できました。
それを元に書き直しています。
以下に書きましたが、これは冬のファンタと春のファンタの間に行われた特別な催しです。
★ 初めての催し
5月最初の週に春のファンタが予定されていて、徐々に参加作品の紹介が始まっています。 (書いたのは今年の3月です。) 例年通り10本のようなのですが、先日突然ファンタの主催者から連絡が入りました。
「3月13日に単独で1本のプレミアを行う、5月のファンタの通しのパスを持っている人は無料で招待する」と言うのです。
その日大学病院で8時間通しの外来の手術の予定が入っていたので、「やれやれ、よりによってそんな日に」、「コンディションが悪かったら欠席しよう」と思いつつ手術に出かけて行きました。
普段でも1回4時間の大作業になる治療なのですが、歯科大学の学生の国家試験につき合っている最中で、私が実験台。なので、手術を優先し、映画は二の次と考えていました。8時間作業は最低でも3日予定が入っていて、ことに寄ったらさらにその先4時間の作業が2〜3回続くかも知れません。学生に試験に受かって欲しいということもあって、映画よりこちらを優先することに決めていました。
これまでは滞りなく行っていた手術なのですが、この日はちょっと不運があり、時間が延長になり、閉店直前まであれこれありました。一旦自宅に戻って映画館に行くはずだった予定は映画館直行に変更。
20時上映の予定で、早めに到着。いつものポツダム広場ではなく、これまでたまに別途で使われた東ベルリンにある映画館です。
飲み物、食べ物の用意はしてありましたが、歯の治療でごたついたので食欲ゼロ。時間に余裕があったので到着後は落ち着いていました。
★ 監督
この日監督と主演女優の1人が来る予定になっていましたが、女優は急病で欠席(本当かなあ〜)。監督がカメラマンを連れて来ていました。そのカメラマンが無断で映画館に来た私たちをしつこく撮影するので、嫌な印象を受けました。ドイツ人は無断で撮影されるのを好みませんし、私もちょくちょくトラブっているので「嫌だなあ」と思っていました。とにかくしつこく撮影していました。
パスカル・ロジエ監督はフランス人で、有名な作品はマーターズとトールマン。両方ともファンタに来ました。マーターズはフランス語でしたが、最近フランスはちょくちょく英語の作品を発表するようになっており、トールマンはジェシカ・ビール主演で英語です。
Ghostland も英語ですが、カナダとの協力で作られていて、準主演のミレーヌ・ファルメールはカナダで有名なヒット歌手です。名前や歌のタイトルを見ると普段はフランス語を使う人のようです。
撮影はマニトーバにある古い家で行われたそうです。
★ あらすじ
ミレーヌ・ファルメールが演じるのは2人の娘を持つ母親。3人は叔母の家を相続して引っ越して来ます。道中キャンピング・カーに追いかけられ、あわや事故かと言うほど接近されますが、事なきを得ます。ただ、その車は母子がキオスクで休憩している時に近くに来ています。観客は不安を感じますが、気づいていない母子はまだ変な感じは持っていません。
目的地に着いて見ると、家は化け物屋敷の一歩手前。叔母には人形を集める趣味があったようで、その数は尋常ではありません。家中が人形だらけ。西洋の人形は冷たい感じで、日本人が可愛いと思うタイプではありません。
その上ドアが開いたら中からびっくり箱のように人形が飛び出して来たり、不気味で感じの悪い家です。ホラー映画としての条件は揃い始めます。
その上道中出くわしたキャンピング・カーがまたもや近づいて来ています。
間もなく男が家に入って来て家族を襲い始めます。体格のいい男に母子3人はかないません。コリーンは母親根性丸出し、娘を助けようと必死で、姉のベスに「早く家から外へ出なさい」と言いますが、ベスはショックで放心状態。思ったように足が動きません。
シーンはそれから16年経ったニューヨークに変わります。
ベスはこの事件で心に深い傷を負い、今でも悪夢に悩まされてはいますが、流行ホラー作家として成功し、出版ラッシュ。テレビのインタビューにも呼ばれるほどです。家では優しい夫と、最近生まれた子供と3人で幸せに暮らしています。
ある日そこに妹のヴェラから電話が入ります。ヴェラは母親と2人でカナダの家に住み続けています。どうやら事件は終わったようなのですが、ヴェラは精神状態が落ち着かず、引きこもり、自傷など多くの問題を抱えたままです。母親は人里離れた田舎でヴェラの世話をしながら暮らしています。これといった収入は無い様子。
久しぶりに訪ねて来たベスを母親は歓迎。そして精神を病んだ妹を見せます。ベス自身大変な思いをして立ち直っている最中なので、めちゃくちゃな事をするヴェラに腹を立てたりはしていません。
ところがそこにまたキャンピング・カーが近づき、あの犯人が襲って来ます。姉妹はギャーギャー叫び抵抗しますが、2人の間のコミュニケーションもうまく行かず、その状態で敵と対決するのは大変です。
きれいな姿でニューヨークからやって来たベスもヴェラと同じくぼろぼろの姿になってしまいます。
★ 実は話は違っていた
後半の後半あたりでネタがばれます。実はベスは全くこの家から去っておらず、ニューヨークに夫などはいなかったのです。ヴェラは狂気に振り回されはしていますが、現実を見ており、ベスはあまりの怖さに現実逃避をして、ニューヨークのストーリーをでっち上げてその中の幸福に浸っていたのです。
そして最後まで娘を守るために抵抗した母親は殺されてしまっていました。
そこへまたもやキャンピング・カーの太った男がやって来ます。抵抗しようとしたり、戦おうとしたりしますが、うまく行きません。ただ、今回違うのはベスが現実を見るようになった点。ぼろぼろになりながらも2人は家を脱出し、荒野を幹線道路に向かって歩き始めます。2人の警官の乗るパトカーに発見され、ようやく助かるかと思った瞬間警官2人は犯人に射殺されてしまいます。
それでも警官が本部に通報していたので救急車とパトカーがやって来て、2人は助かります。
★ 生まれて初めて吐き気を催した
前の2作はいいできだったので、私はこの作品にも期待していました。ところが不快極まりない作りで、最後のクレジットが出たあたりから私は吐き気を催してしまいました。
監督が舞台に上がり、少し映画の説明をした後 Q & A が始まったのですが、観客から殆ど質問が出ません。長い間ファンタの舞台にゲストが登場するのを見ていた私の目には、観客の評価は「落第」のように映りました。観客が気に入った時の反応は全然違います。質問が出なかっただけではなく、何となく客席は白けていました。
私の胃は謀反を起こし始め、トイレに行くか、せめてホールの外に出て暫く静かに座っていないとだめな状態になりました。で、私はロビーに出て、そこのソファーに座っていました。仲間の1人はこの監督のDVDの表紙を持って来て、サインをしてもらおうとしていました。この日は1本のみの上映で、ポスターはもらえる、ロリポップはもらえる、ただで飲み物はもらえると大盤振る舞い。私もファンタ・ノートを持って来ていて、作品が良かったら監督と話そうと思っていました。
ところが私の胃を嫌悪感が直撃し、体がノーと言ってしまったので、リタイア。マーターズですら眉1つ動かさず見ていられましたし、もっとグロテスクなホラー映画でも私はこんな反応は起こしません。
帰宅中仲間も含め5人で地下鉄であれこれ話しましたが、そのうちにだんだん自分で分かり始めました。この監督の前作2本も含め、酷い暴力映画、残酷な心理映画など、ホラーのハードコアの映画を何本も見ましたが、これほど後味の悪い作品は知りません。
どこが違うんだろうと思ったのですが、どうも酷い暴力シーンがあっても監督がストーリーの流れを作り、それなりの結論がある作品では私は問題なく見ていられる、そういう目的らしきものが見つからない作品だったので拒否反応を起こしてしまったのだという感じです。
表面的には一応方向が示されていて、現実逃避をする人と、現実の中でぼろぼろになる人を合わせて描写し、加えて、娘を気遣う母親も好意的に描いています。ところがそうやってまとまったこの作品の周囲に、何か描かれているものと違う雰囲気が漂っていたのではないかと思います。ホラー映画を散々見ているファンタの仲間は何となくその辺のずれを感じ取ったのかなと、少なくとも私自身はそこに反応してしまったのかなと思います。
監督は「自分の兄弟との経験を盛り込んでいる」と発言していますが、見終わってあまり説得力が感じられませんでした。この話が口実なのか、監督に表現力が乏しかったのかは分かりません。
例えば冬のファンタに参加した The endless は、監督自身の経験なのか他の人の話なのか、全く頭の中で作り出した絵空事なのかは分かりませんが、見終わると非常に納得が行きます。
批評家からは評判が悪い婦女暴行、私刑映画アレックスも私は途中退席せず最後まで見た結果、非常に高く評価する作品の1つに入れています。事件から順番に過去に戻って行く作りで、カップルが幸せに暮らしていて、ちょうど妻が妊娠の知らせを受け取ったところで終わります。要はこれほど幸せで、明るい未来が開けている若い女性を酷い婦女暴行でめちゃめちゃにしてしまった犯人フィリップ・ナオン、間違った男を犯人だと思って殺してしまった夫と友達、これでこの家族はぼろぼろというストーリーです。プロの批評家が途中退席するなど厳しい接し方をしていましたが、私は婦女暴行がいかに1人の人間、家族を破壊するかが明確に表現されていると思ったので、優秀作に数えています。
監督がエンター・ザ・ボイドを引っさげてファンタに現われ、「気に入ったか」と私に聞いた時、「アレックスの方が良かった」と答えたら、監督は意外そうな顔をしていました。あの作品は特に女性に叩かれていたようです。
私の方は監督が男であれ、女であれ、暴行を受ける女性の気持ち、将来がどうなってしまうかを的確に表現してくれているので、人に薦めてもいいぐらいに思っていました。
これは1つの例ですが、他にも色々な残酷映画やグロテスクな作品がありました。でもこれまでに見た作品は大体起承転結の結がきちんとしていました。それに比べ Ghostland は肝心な所、話の芯がよく見えませんでした。ストーリーを作り上げる材料は色々揃っていたのに、それを使いこなすはずの監督がまだ話を組み立てるところで確信が持てていなかったような感じです。監督がまだ自分の悩み事を消化し切れていないのでしょうか。
★ 苦しい時の逃避頼み − 蛇足
もう少し詰めて表現すればかなりいい作品に変貌したのではと思える点が1つ。
この作品の背骨にする事もできるのが姉妹の別々な対応です。16年もの間夜な夜な襲って来る男たちに毎晩アレックスのようなぼろぼろの目に遭っている姉妹。こういった状況の中で正気を保つのは非常に難しいです。その中でどうやって生き延びるか。
1人は一見うつけになってしまったように振舞いながら、実は自分の身に毎晩起きていることを把握。もう1人は夢の世界に入り込んでしまい、夢の中では素敵な高級アパートで素敵な家族と暮らし、職業的にも大成功。現実は彼女の頭の中では無かったことになっています。
2人の方から好んで選んだ運命ではないので、どちらを選択しても当事者以外の人は非難をすることはできません。そうしないと生き続けて行けないという状況の中での選択だからです。そして兄弟姉妹によくあるように1人が A を選ぶと、もう1人が B を選ぶという描写になっています。
ここまで凄まじい運命でないにしても世の中には大変な目に遭っている人がちょくちょくいます。その際多少でも役に立てばという案があります。こういった犯罪行為でなくとも仕事や身近で極度に強いストレスがかかる場合があり、そういう時にも役に立つのではと思います。
☆ よく分かった上での逃避
1日のうち30分とか、1時間、これは逃避なのだと理解した上で逃避をしたらどうかと思います。人によっては単に「ストレス解消」と名づけるかも知れません。例えば私は一時期「1日1笑い」と決め、落語を聴いていました。井上さんからも協力をいただき、結構な数の落語を聴くことができました。逃避なのですから、日常生活のリズムが狂うほど長時間ではだめ。それで30分から1時間と決めました。
どんなに差し迫った問題を抱えていても、酷い目に遭っても、寝る前1時間ほど時間を取って落語を聴き、笑っていました。同じ事を音楽、漫画を読む、アニメを見るなどの方法でやってもいいです。お薦めはその時間内に笑うとか感動するというような、心が動く要素を取り入れること。なので、ペットを飼っている人なら、擬似家族にして、子供(ペット)の可愛いしぐさを見て喜ぶとかもいい方法です。
☆ 行き過ぎ、長過ぎはだめ
この処方箋は確実に効きますが、この楽しい時間にのめりこんで時間数を増やしてはだめです。1時間が最高限度でしょう。
時間数を増やし過ぎると、この作品の主人公のように、現実から離れてしまいます。問題、ストレスなどは現実そのもので、そこを解決すれば消えます。そちらに背を向けてしまうと一生問題を抱え続けることになります。ですからこの処方箋は問題解決のためのエネルギーを生み出すところに役立てるだけ。そこに頼り切ってはだめです。
ついでに言うと、厳しい状態が終わり、体調を崩すほどのストレスが去った後も、毎日30分ほどそういう逃避時間を持ち続けて、次の日の英気をコンスタントに養うのはいいかも知れません。
★ 本当のホラーは
この作品の後味の悪さは出演者の事故に関係があるのかも知れません。
事件の被害者姉妹の1人を演じた20歳のタイラー・ヒックソンが撮影中の事故で70針も縫うことになってしまいました。あろう事か、俳優の商売道具の顔です。私も顔の3分の1を大火傷して、ホラー映画のモンスターのようになったことがあるのですが、重症でも治るものは治ります。しかしだめなものはだめ。私の場合は面積で勝負でしたが、彼女の場合は線で勝負。そして、彼女の場合は傷が残りました。現代の医学ではかなりの線まで治療が可能ですが、彼女の場合一生傷が残るか、あるいは今後大金のかかる手術をしなければならないのではと思います。現在の医学では傷が残ったままになるというのが関係者の見解。
監督の命令でガラスのドアに突進するシーンを撮影。普通は自動車のフロントガラスのように壊れる時には小さな粒になるガラスを使用するべきなのでしょうが、この撮影の時は彼女の上半身と頭にガラスの破片が刺さってしまいました。事故後の写真を見ると、左の頬から顎にかけて太い傷跡がくっきり。ドーランを厚く塗っても見えます。
私は事故直後、入院中の写真も目にしたのですが、凄い有様です。
にも関わらず宣伝ポスターにこんな写真を使う趣味の悪さ。
制作会社を訴えており、恐らくはある程度の保障はしてもらえるのでしょうが、まだ20歳の彼女、こんな人生設計はしていなかったと思います。こちらの方がずっとホラー。
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