捨生取義是男兒, 四海紛紛何所期。 好向京城埋侠骨, 待他天定勝人時。 |
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失題
生を捨て 義を取るは 是れ 男兒,
四海 紛紛 何の期する所ぞ。
好し 京城に 向(おい)て 侠骨を埋め,
待たん 他(か)の 天 定まりて 人に勝つの時を。
◎ 私感註釈 *****************
※安積東海:幕末の勤皇の志士。文久三年の政変で処刑される。天保三年(1832年)〜元治元年(1864年)。名は武貞。通称は五郎。東海は号。下総の人。
※捨生取義是男兒:身を捨てて大義に生きることは真男児の努めである。 ・捨生取義:身を捨てて大義に生きる。正義のために生命を犠牲にする。『資治通鑑・唐紀』「…況汝諸王,先帝之子,豈得不以社稷爲心。今李氏危若朝露,汝諸王不捨生取義,尚猶豫不發,欲何須邪。」などと、犠牲となる時の常套表現。 ・是:…は…である。述語の頭に附き、述語を明確化する。〔A是B。:Aは、Bである〕。「…、これ…。」。 ・男兒:男性。男子の意だが、ここでは、真男児。本当の男の意。雲井龍雄の『釋大俊發憤時事慨然有濟度之志將歸省其親於尾州賦之以贈焉』で詠う「生當雄圖蓋四海,死當芳聲傳千祀。非有功名遠超群,豈足喚爲眞男子。」の意になる。
※四海紛紛何所期:国内がごたついているが、一体何を期待してのことなのか。 ・四海:四方の海。転じて、国中。国内。更に、世の中。天下。また、四方の外国。 ・紛紛:まじり乱れるさま。ごたつくさま。 ・何:何(を)。 ・所:…するところ(のこと)。動詞の前について、その動詞を名詞化する。 ・期:期待する。予期する。予想する。待ちもうける。
※好向京城埋侠骨:ちょうど好い、京洛の地に於いて、壮漢(おとこ)の骨を埋めることとして。 ・好向:よし、…で…。…にちょうどよい。李Uの『菩薩蠻』に「花明月黯籠輕霧,今宵好向カ邊去。襪歩香階,手提金縷鞋。 畫堂南畔見,一人顫。奴爲出來難,ヘ君恣意憐。」とあるが、こことは、少し異なる。 ・向:…に。…で。…に於いて。≒於。ここでは、「向かって」の意の用法ではない。 ・京城:みやこ。帝都。ここでは、京都のことになる。 ・埋:うめる。埋葬する。 ・侠骨:義侠心に富んだ気性の男の屍体。義侠心に富んだ気性。おとこぎ。
※待他天定勝人時:(そして、)回天の大業が俗人を制するときを待つのだ。 ・待:まつ。…しようとする。前出『資治通鑑・唐紀』の青字部分「須」字に同じ。 ・他:かの。あの。 ・天定:運命。天の定め。回天の大業が成就すること。 ・勝人時:(回天の大業が成就して)俗人事に勝利する日。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「兒期時」で、平水韻上平四支。次の平仄はこの作品のもの。
●○●●●○○,(韻)
●●○○○●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成17.2.26 2.27完 平成27.3.15補 4.19 |
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