海不揚波二百年, 無人開ロ到防邊。 一腔熱血枉埋却, 唯有九原蘇老泉。 |
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林子平像に題す
海 波を 揚(あ)げざること 二百年,
人の ロを開けて 防邊に到る 無し。
一腔の熱血 枉(ま)げて 埋却す,
唯(た)だ 九原に 蘇老泉 有り。
◎ 私感註釈 *****************
※題林子平像:海防の重要性を説き続けた林子平の像を見て、詩を作る。詩題には『題…像』や『題…圖』というのがあるが、軸などにした図画を見て詩に詠んだもの。或いは、そのように想定して作ったものに附ける。 ・林子平:江戸時代中期の経世家。元文三年(1738年)〜寛政五年(1793年)江戸の人。海外事情に通暁し、海防の重要性を説き、『海国兵談』『三国通覧』を表す。ために罪に問われた。江戸、仙台で活躍する。
※斉藤竹堂:江戸末期の儒者。林子平の活躍した仙台の人。『林子平傳』の著者でもある。
※海不揚波二百年:海浜は、二百年の間穏やかであったが。国際関係は平和な状態が続いて、二百年になるが。 ・海:海内と海外の間にあるもの。ここでは、国際関係の意になる。 ・不揚波:波を揚げない。平和な状態が続いているさまをいう。 ・二百年:徳川幕府の鎖国令施行以降の年数になる。
※無人開ロ到防邊:誰一人、海防の重要性を説く者がいない。 ・無人:…をする人物がいない。…を担う人物がいない。誰も…(し)ない。 ・開ロ:口を開く。ここでは、主張する、ことをいう。 ・到:…に及ぶ。普通は、動詞のすぐ後に附き、その動作が…にまで及び到ることを表す。 ・防邊:海防。辺疆防備。辺境防衛。
※一腔熱血枉埋却:満身の熱血を(敢えて無理をして)曲げて、埋没させてしまっている。 ・一腔:満身。満腔。全身。 ・熱血:熱烈な精神、意気。激しい情熱。沸騰するような血潮。熱く滾(たぎ)るような血。熱情を表す常套表現で『國際歌』「 起來!饑寒交迫的奴隸!起來!全世界受苦的人!滿腔的熱血已經沸騰,要爲眞理而鬪爭!舊世界打個落花流水,奴隸們起來!起來!不要説我們一無所有,我們要做天下的主人!這是最後的鬪爭,團結起來到明天!英特納雄耐爾,就一定要實現!」 を想い出した。 ・枉:〔わう;wang3●〕まげる。 ・埋却:埋めてしまった。 ・却:動詞のすぐ後に附き、その動作、状態の程度の著しいことを表す。
※唯有九原蘇老泉:ただ、黄泉路にいる蘇洵だけは、(理解してくれて)いる。 ・唯有:ただ…だけがある。 ・九原:黄泉路。あの世。本来の義は、晋の卿大夫の墓所のあった地名。現・山西省新絳の北、三門峡の北百キロメートルの所にある。後に、墓地、黄泉路、死後の世界の意に使う。≒九泉。杜甫の『哭長孫侍御』に「流水生涯盡,浮雲世事空。唯餘舊臺柏,蕭瑟九原中。」と使う。 ・蘇老泉:蘇洵のこと。老泉は号になる。蘇軾の父。こと。『唐宋八大家文読本』巻十五〜十七には、蘇洵の文章が記録されている。内容は、上書から始まって、多くの論に及ぶ四十八篇ほどの文章(写真:下)が載っており、斉藤竹堂も、恐らくこの中の篇章に因って詠じたものと想われるが、どの篇に依ったのかは、不明。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「年邊泉」で、平水韻。次の平仄は、この作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
●○●●●○●,
○●●○○●○。(韻)
平成17.3.19 3.20完 平成30.8. 4補 |
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