獄中題壁
譚嗣同
望門投止思張儉,
忍死須臾待杜根。
我自橫刀向天笑,
去留肝膽兩崑崙。
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。
獄中の壁に題す
門を望みて 投止せし 張儉を 思ひ,
死を忍ぶこと 須臾
(しゅゆ)
は 杜根を 待つ。
我 自ら 刀を橫
(たづさ)
へ 天に向かひて笑ふ,
去留の 肝膽は 兩つの崑崙。
******************
◎ 私感訳註:
※譚嗣同:清末の近代改良派の政治家、思想家。1865年(同治四年)~1898年(光緒二十四年)。字は復生。号して壯飛。湖南省瀏陽の人。日清戦争敗北に衝撃を受け、民族的危機感から、新学を提倡、維新の新政と変法を志し、康有為
、梁啓超
、唐才常らと政治改革を目指した。ブルジョア改良主義的な立憲君主制を主張した戊戌変法に加わり、最も急進的な一人だった。変法失敗した後も毅然として国内に留まり続け、亡命することなく、自らの流血を以て戊戌変法を締めくくった。北京南郊の菜市口に刑死。戊戌六君子の一。
※獄中題壁:戊戌変法に失敗した後も、亡命することなく、留まり続け、処刑された。今以て豪毅な行為は高く評価されている。康有為
、梁啓超
、また、張之洞
にも詩作あり。
※望門投止思張儉:門を望んで泊まったという、(逃げ足の速い)張倹のことを思い出し。 ・望門:門を望む。 ・投止:泊まる。投宿する。宿る。立ち寄って足を止める。 ・思:思い出す。 ・張儉:〔ちゃうけん;Zhang1Jian3○●〕後漢末の人。東部督郵に任じ、人民に暴虐の極を尽くしている宦官の侯覧やその母をを弾劾したが、逆に侯覧より二十四名で私党を組んでいると訴えられた。朝廷は張倹を捕縛しようとしたので、遁走して、門の所で泊まった、という故実に依る。『後漢書・黨錮列傳・張儉』「爲東部督郵。時中常侍
侯覽
家在
防東
,殘暴百姓,所爲不軌。儉舉劾
覽
及其母罪惡,請誅之。
覽
遏絶章表,並不得通,由是結仇。…遂上書告
儉
與同郡二十四人爲黨,於是刊章討捕。
儉得亡命,困迫遁走,
望門投止
,
莫不重其名行,破家相容。」なお、張倹のこの行為は「張儉知名天下,而亡非其罪.縱儉可得,寧忍執之乎?」と批判的に見られている。
※忍死須臾待杜根:死んだふりを暫くして(命が助かったというのは、)杜根を待とう。 ・忍死:死んだふりをする。 ・須臾:〔しゅゆ;xu1yu2○○〕しばらくの間。短い時間。暫時。 ・待:まつ。 ・杜根:〔とこん;Du4Gen1●○〕後漢の人。外戚の鄧后の擅政を劾して、安帝に政権を返すべきであるとしたところ、袋袋詰めにされて、死ぬまで撲られた。この時、執り行った法官は、杜根という著名人なので、手加減を加えるように小声で部下に命じた。鄧后は、本当に死んだのかどうか疑問だったので、人を遣わして確認したところ、死んだふりをして、三日目には、目にウジがわいたので、逃げおおせた、という故実に基づく。『後漢書・杜根』に「時和熹鄧后臨朝,權在外戚。根以安帝年長,宜親政事,乃與同時郎上書直諫。太后大怒,收執根等,令盛以
嚢,於殿上撲殺之。執法者以根知名,私語行事人使不加力,既而載出城外,根得蘇。太后使人檢視,根遂詐死,三日,目中生蛆,因得逃竄,爲宜城山中酒家保。」とある。
※我自橫刀向天笑:わたし自身は(彼等、張倹・杜根のように逃げたり隠れたりしないで)刀を横にかかえて天に向かって(豪快に)笑っている。(それがわたしの死に臨んでの態度である)。 ・我自:わたし自身。 ・橫刀:刀の柄を持って腰に引きつける。刀を横にかかえる。刀を腰に帯びる。(刀の柄を持って腰に引きつけて)身構える。ここでは、前者の意で、『三國志・魏書・袁紹』の「紹不應,橫刀長揖而去。」に基づく。ここの語を使ったのは、ここの部分は董卓が袁紹を呼んで、廃帝の論議を仕掛けたが、袁紹は廃帝について同意しない、つまり、譚嗣同は光緒亭の廃帝に同意しないということを暗示している。「董卓呼紹,議欲廢帝,立陳留王。是時紹叔父隗爲太傅,紹偽許之,曰:『此大事,出當與太傅議。』卓曰:『劉氏種不足復遺。』」と廃帝の話があった後に「紹不應,橫刀長揖而去。」と続いている。 ・向天笑:或いは、(刀を持ったまま、)天に向かって笑う。或いは(構えた刀を)天に向けて笑う。
※去留肝膽兩崑崙:去る者も留まる者も、誠の心は、ふたつの崑崙の霊峰の高みにある。 *この句、具体的には何(誰)を指しているのか、当時の歴史を詳しく調べる必要がある。 ・去留:進退。去ることと留まること。 ・肝膽:〔かんたん;gan1dan3○●〕きも。肝臓と胆嚢。心の中。誠の心。 ・兩:ふたつ。詩句の構成上ここでは、何を指しているのか難しい。「去」「留」の二者を指すのか、或いは、「去留肝膽」が恰も二峰の「崑崙」のようであるというのか。この部分具体的には亡命した康有為と残った譚嗣同自身のことといわれ、或いは、康有為と侠客大刀王五のことという。 ・崑崙:〔こんろん;kun1lun2○○〕昔、中国の西方にあると考えられた霊山。西王母の住むといわれる玉の産地。中国人の揺るがぬ精神的な支柱であり、ここでは、実在の大崑崙山脈のことではない。
◎
構成
について
韻式は「AA」。韻脚は「根崙」で、平水韻上平十三元。次の平仄はこの作品のもの。
◎○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
●●○○●○●,
●○○●●○○。(韻)
2005.8.17
8.18
8.19
8.20
8.21
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