虞美人歌
秦末 虞美人
漢兵已略地,
四方楚歌聲
。
大王意氣盡,
賤妾何聊生。
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虞美人歌
漢兵 已に 地を略し,
四方 楚の 歌聲。
大王 意氣 盡き,
賤妾 何ぞ生を 聊んぜん。
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私感訳注:
◎この詩は『史記・項羽本紀』
の註釈、『史記正義』に出てくる楚の項羽(項籍)の女官である虞美人の作といわれる。ただ、項羽の詩の形式が節奏、押韻、用字等で、『詩経』『楚辞』等、上古の詩の特徴を持った「□□□兮□□
」という騒体で、兮字脚
の働きもしっかりと「□ + □□兮
・
□□
」という風にある。恰も『楚辭』九歌・『國殤』
である。それに対して、この虞美人のものと伝えられる作品は六朝詩よりも新しい「□□・□□ + □□□」という節奏であり、後世のものであるかもしれない。或いは、蔡文姫の『悲憤詩』が二様あって五言の「漢季失權柄」
と騒体の「嗟薄兮遭世患」
とがあるのと軌を一にするか。項羽が、垓下で敗れたときにうたった詩『垓下歌』「力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝。騅不逝兮可奈何,虞兮虞兮奈若何!」
であるが、それに対して虞美人が歌い舞った。(舞ったことは史記には載っていない。『十八史略』
)。なお、この詩には題はない。
※虞美人歌:西楚覇王・項羽の愛姫・虞姫の唱った歌。 *この悲劇に基づき後世、同題の詩が作られる。 ・虞美人:項羽の女官。「美人」は位。『史記・項羽本紀』
によると、虞姫は、どの戦闘にもついて行った。実質上の妻。
※漢兵已略地:漢の軍勢がすでに楚の地を侵した。 ・漢兵:漢の劉邦の軍隊。 ・已:すでに。 ・略地:領地が侵される。
※四方楚歌聲:周りの敵・漢軍から故郷の楚の歌声が聞こえる。漢の兵士に楚人がなってしまったということ。故国の楚は、敵・漢の手に落ちてしまったことをいう。四面楚歌のこと。前出・『史記・項羽本紀』「項王(項羽)軍壁垓下,兵少食盡,漢(劉邦)軍及諸侯兵圍之數重。
夜聞漢軍
四面皆楚歌
,項王乃大驚曰:「漢皆已得楚乎?是何楚人之多也!」項王則夜起,飮帳中。」
を指す。
※大王意氣盡:大王(覇王項羽)さまの意気は尽き果てた。 ・大王:西楚覇王・項羽への虞美人からの呼称。「大王」は普通の北京語では、dai4wang0(盗賊の頭)またはda4wang2(「餃子大王」等の大王)であるが、ここはdai4wang0となるところ。蛇足だが、アニメ『西遊記』では、「…新大(dai4)王…」といっている。また、『覇王別姫』の劇中劇(京劇)の台詞では、dai3wang4のような言い方をしている。 ・意氣盡:意気が尽きた。
※賤妾何聊生:この後、わたくしめは何を頼りに生きていけば好いのでしょうか、もう何もたよって生きていくものはありません。 ・賤妾:わたくしめ。いやしき わたくしめ。女性が謙譲して使う自称。魏の曹植『七哀詩』「明月照高樓,流光正徘徊。上有愁思婦,悲歎有餘哀。借問歎者誰,言是客子妻。君行踰十年,孤妾常獨棲。君若C路塵,妾若濁水泥。浮沈各異勢,會合何時諧。願爲西南風,長逝入君懷。君懷良不開,
賤妾
當何依
。」
に同じ用法。 ・聊:〔れう;liao2○〕たよる。よりどころとする。やすんじる。
◎ 構成について
この作品の平仄を掲げておく。二千数百年前の作品に、後代の格律を以て見ることは、如何なものかとも思われるが、詩詞の変遷を知る一とした。平仄は近体詩と大分違うが、押韻はきっちりとしている。
●○●●●,
●○●○○。(韻)
●○●●●,
●●○○○。(韻)
となる。
脚韻は、平声韻一韻到底。韻式は「AA」
韻脚は「聲生」で、八庚韻である。
20001.1.28
2. 4完
2. 5補
5.18
8.27
2004. 4. 1
2007.10.19
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