登樓寄王卿 | |
|
唐・韋應物 |
踏閣攀林恨不同,
楚雲滄海思無窮。
數家砧杵秋山下,
一郡荊榛寒雨中。
******
登樓して王卿 に寄す
閣 を踏み 林を攀 ぢて 同じうせざるを恨 む,
楚雲 滄海 思ひは窮 まり無し。
數家 の砧杵 秋山 の下 ,
一郡の荊榛 寒雨 の中 。
****************
◎ 私感註釈
※韋応物:中唐の詩人。737年(開元二十五年)〜804年頃(貞元年間)。謝霊運、陶淵明の伝統を継ぐ自然派詩人。京兆万年(現・西安)の人。
※登楼寄王卿:高殿(たかどの)に登って、(今回の旅行に同行しなかった)王卿に詩を郵送する。 ・登樓:高殿(たかどの)に登る。 ・寄:詩歌を手紙に添えて送る。詩歌を郵送する。 ・王卿:作者の親友か。韋応物は『郡齋贈王卿』、『送王卿』、『答王卿送別』、『池上懷王卿』、『陪王卿郎中遊南池』、『南園陪王卿遊矚』と多い。
※踏閣攀林恨不同:(いくつもの)たかどのを踏破して、山林をよじ登った(この快挙に、あなたは)一緒に来なかったことを残念に思う。 ・踏閣:(いくつもの)たかどのを踏破する意。「踏閣」を前出・「登樓」と同義にとらえた解釈もあるが、ここではそうではなかろう。「踏-」は「踏青」「踏月」などと「(そのものを)踏み踏み行く」ことで、ここでの「踏閣」は、山中に幾つかあるたかどのを次々と訪れて行く」意になろう。中唐・劉禹錫の『竹枝』に「兩岸山花似雪開,家家春酒滿銀杯。昭君坊中多女伴,永安宮外踏來。」とある。 ・攀林:山林をよじ登る意。 ・攀:よじ登る。しがみついて登る。 ・恨不同:一緒に来なかったことを残念に思う意。同道しなかったのを遺憾に思う。
※楚雲滄海思無窮:(眺望すれば、西の)楚の地方の雲に、(東の)あおうなばらと、思いはきわまりがない。 ・楚雲:楚の地方(=長江中流域、湖北、湖南一帯)の雲。楚の地方(の空)。また、「巫山の雲雨」の故事(神女は朝は巫山の雲となり夕べには雨になるという故事)。宋玉『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた。中唐・劉長卿の『送李判官之潤州行營』に「萬里辭家事鼓鼙,金陵驛路楚雲西。江春不肯留行客,艸色送馬蹄。」とあり、晩唐・許渾の『秋思』に『h樹西風枕簟秋,楚雲湘水憶同遊。高歌一曲掩明鏡,昨日少年今白頭。」とある。 ・滄海:〔さうかい;cang1hai3○○〕あおうなばら。青々とした海。=東海・渤海。北海中にある仙人の住む島。 ・無窮:きわまりがない。果てしがない。無限。=無極。
※数家砧杵秋山下:秋の山の下にある数軒の家から、砧(きぬた)(を打って冬の着物の準備をする音が聞こえて来る)。 ・砧杵:〔ちんしょ;zhen1chu3○●〕砧(きぬた)と杵(きね)。砧(きぬた)に用いる杵(きね)。着物を洗って石などの上に載せ、棒で打って、冬支度をすること。中唐・白居易の『聞夜砧』に「誰家思婦秋擣帛,月苦風凄砧杵悲。八月九月正長夜,千聲萬聲無了時。應到天明頭盡白,一聲添得一莖絲。」とある。初唐・張若虚の『春江花月夜』「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜鞨K夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」や、盛唐の李白の『子夜呉歌』「長安一片月,萬戸擣衣聲。秋風吹不盡,總是玉關情。何日平胡虜,良人罷遠征。」とある。
※一郡荊榛寒雨中:一地方(全て)の雑木林が、寒々とした冬の雨の中に(ある)。 *晩唐・韓偓の『夜深』に「惻惻輕寒翦翦風,小梅飄雪杏花紅。夜深斜搭鞦韆索,樓閣朦朧煙雨中。」とあり、晩唐・杜牧の『江南春絶句』に「千里鶯啼拷f紅,水村山郭酒旗風。南朝四百八十寺,多少樓臺煙雨中。」とある。 ・郡:行政区劃の一。 ・荊榛:〔けいしん;jing1zhen1○○〕イバラとハシバミ。雑木のしげみ。雑木林。 ・寒雨:寒々とした冬の雨。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「同窮中」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○○●◎○○。(韻)
●○○●○○●,
○●○○○●○。(韻)
2013.5.11 5.12 5.15 |
次の詩へ 前の詩へ 抒情詩選メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 陶淵明集 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |