******
余閒居寡歡,兼比夜已長。偶有名酒,無夕不飮。顧影獨盡,忽焉復醉。既醉之後,輒題數句自娯。紙墨遂多,辭無詮次。聊命故人書之,以爲歡笑爾。
飮酒 序
余 閒居(かんきょ)して 歡(たの)しみ 寡(すくな)く, 兼(くは)ふるに 比(このご)ろ 夜 已(すで)に 長し。 偶(たまた)ま 名酒 有れば, 夕べとして 飮まざる 無し。 影を顧(かへり)みて 獨(ひと)り 盡(つ)くし, 忽焉(こつえん)として 復(ま)た醉ふ。 既に 醉ひの後に, 輒(すなは)ち 數句を 題して 自ら娯(たの)しむ。 紙墨 遂(つひ)に多く, 辭に 詮次 無し。 聊(いささ)か 故人に 命じて 之(これ)を書かしめ, 以て 歡笑を 爲さん爾(のみ)。
*****************
◎ 私感註釈
※陶潜:陶淵明。東晋の詩人。五柳先生と自称し、田園生活と酒をよく詠う。
※飮酒・序:このページは「飮酒二十首并序」とされる部分の序になる。
※余閒居寡歡:わたしが隠棲してからは、楽しみ事も(だんだんに)減ってきた。 ・余:わたし。 ・閒居:隠棲する。 ・寡:〔くゎ;gua3●〕減る。缺ける。少ない。 *以前は今よりも楽しみ事も多かったが、最近は、だんだんと減ってきたことを表す。 ・歡:よろこび。(口を開けて笑えるような陽気な)喜び。
※兼比夜已長:その上に、近頃は、夜がすっかり長くなった。 ・兼:くわえるに。あわせて。かねて。作者の境遇が「閒居寡歡」になっている状況に、「比夜已長」という季節の要因も重ね合わさって、ということ。 ・比:このごろ。近頃。 ・已:すでに。とっくに。
※偶有名酒:たまたま、銘酒があれば。 ・偶:たまたま。ふと。偶然に。或いは「遇」に通じて、であうの意。 ・名酒:評判の酒。有名な酒。
※無夕不飮:飲まない宵は、無い。毎夜必ず飲む。 ・無夕不…:…をしない夕べは、一日もない。どの夕べもみな…する。
※顧影獨盡:(作者自身の)影をかえりみて、独りで飲み尽くす。 *ここの思いを後世、李白は『月下獨酌』で「花間一壼酒,獨酌無相親。舉杯邀明月,對影成三人。月既不解飮,影徒隨我身。暫伴月將影,行樂須及春。我歌月徘徊,我舞影零亂。醒時同交歡,醉後各分散。永結無情遊,相期雲漢。」
と、影を歌いあげている。 ・顧影:自分の姿の影をかえりみて。 ・影:影法師。光をさえぎった時にできる黒い形。 ・獨盡:独りで(酒を)飲み尽くす。作者は、自分の肉体と、そこに出来た影法師とを別個のものに見立てた詩『形贈影』「天地長不沒,山川無改時。草木得常理,霜露榮悴之。謂人最靈智,獨復不如茲。適見在世中,奄去靡歸期。奚覺無一人,親識豈相思。但餘平生物,舉目情悽
。我無騰化術,必爾不復疑。願君取吾言,得酒莫苟辭。」
や『影答形』「存生不可言,衞生毎苦拙。誠願游崑華,
然茲道絶。與子相遇來,未嘗異悲悅。憩蔭若暫乖,止日終不別。此同既難常,黯爾倶時滅。身沒名亦盡,念之五情熱。立善有遺愛,胡爲不自竭。酒云能消憂,方此
不劣。」
がある。
※忽焉復醉:たちまち、また酔っぱらう。 ・忽焉:〔こつえん;hu1yan1●○〕たちまちにおこるさま。急であるさま。突然であるさま。にわかなさま。=忽然。 ・復:また。ふたたび。 *ここでの意味はどうなるのか?
※既醉之後:酔っぱらった後は。 ・既:すでに…した以上。
※輒題數句自娯:(酔余はいつでも)そのたびに、数首の詩を作り、自分一人で楽しんでいる。 ・輒:そのたび毎に。そのつど。すなわち。 ・題:詩を作る。
※紙墨遂多:費やした紙や墨も多く、詩作はたくさん出来た。 ・紙墨:詩作に費やした紙や墨で、詩の作品のことをいう。 ・遂:とうとう。ついに。
※辭無詮次:「『飮酒詩』二十首」としているが、二十首各篇が順序だって並んでいるものではない。 ・辭:ことば。 ・詮次:順序。次第。秩序。
※聊命故人書之:ちょっと友人に頼んで、清書、編輯してもらった。 *「無夕不飮」の所等とともに、陶淵明は農民ではなく、豊かな生活が出来た隠士であることが垣間見える部分である。 ・聊:しばし。しばらく。かつ。 ・故人:ふるくからの友人。
※以爲歡笑爾:(各位に)楽しんで見て頂くためにやっただけのものである。 ・以爲:もって…となす。ここは「おもへらく」の意では使っていない。『歸去來兮辭』「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。」と同様の用法になる。 ・歡笑:人々の会話で、楽しみの笑いを引き出す具として。会話の笑いのたね。 *「…笑」は作者謙遜の気持ちを表すものであって、この『飮酒詩』二十首は、声をあげて笑えるような内容ではなく、重い重いものばかりである。重すぎる内容なので、意図的に軽い表現をとるのは、『詩經』から現代に至る中国詩の長い伝統である。 ・爾:のみ。文末の語気助詞。≒「耳」。
***********
◎ 構成について
韻文ではない。念のために平仄を示しておく。
○●●○●,
●●●○○。(韻)
○●●○●,
●●○●○。(韻)
●○○●●
2004.8.10 8.11 |
![]() ![]() ![]() ************ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
![]() メール |
![]() トップ |