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花間一壼酒,
獨酌無相親。
舉杯邀明月,
對影成三人。
月既不解飮,
影徒隨我身。
暫伴月將影,
行樂須及春。
我歌月徘徊,
我舞影零亂。
醒時同交歡,
醉後各分散。
永結無情遊,
相期邈雲漢。
月下 獨酌
花間 一壺の酒,
獨酌 相ひ親しむ 無し。
杯を 擧げて 明月を 邀(むか)へ,
影に 對して 三人と 成る。
月 既に 飮を 解せずして,
影 徒(いたづら)に 我が身に 隨ふ。
暫く 月と影とを 伴ひて,
行樂 須(すべか)らく 春に 及ぶべし。
我 歌へば 月 徘徊し,
我 舞へば 影 零亂す。
醒時 同じく 交歡し,
醉後 各〃(おのおの) 分散す。
永く 無情の遊を 結び,
相ひ期さん 邈(はる)かなる雲間に。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる。安史の乱では苦労をする。後、永王が謀亂を起こしたのに際して幕僚となっていたために、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
『古文眞寶』より
※月下獨酌:月光の下で、独り酒を飲んで、後出陶淵明『影答形』の「立善有遺愛,胡爲不自竭。酒云能消憂,方此不劣。」と思っている。李白で月を詠った詩作は、『把酒問月』「天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,拷喧ナ盡C輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲陝刀B白兔搗藥秋復春,娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」が有名である。表現は、陶潛よりも華やかだが、詩境は陶潛のそれである。
※花間一壼酒:花の下にあって、一壷の酒で。 ・花間:咲いている花の下で。うららかな春に。美しい女性の間で。ここでは、前二者の意。後者の意で使われているのは『花間集』の「花間」がそれになる。『全唐詩』(康煕揚州詩局本の写真版(上海古籍出版社上巻四百二十四ページ)では『月下獨酌四首』とし、「花間【一作下一作前】一壺酒」と「花間」と「花下」と「花前」とが記されているが、『古文眞寶』(江戸時代の木版(写真:右上)前集巻二 七頁)では『月下獨酌』として「花下一壺酒」となっている。 ・一壼酒:一壷の酒。酒のボトル一本。
※獨酌無相親:親しい人もいなくて、独りぼっちで、酒を酌(く)む。 ・獨酌:独りだけで酒を飲む。陶潛の『飮酒二十首』の序では、「余闍初ヌ歡。兼比夜已長。偶有名酒。無夕不飮。顧影獨盡。忽焉復醉。」と独りで酒を飲んで思いに耽る心境をいっている。 ・相親:親しい人。
※舉杯邀明月:杯を持ち上げて、清らかな月を迎えると。 ・舉杯:さかづきを持ち上げる。 ・邀:迎える。 ・明月:清らかな月影。
※對影成三人:影法師とむきあうことになり、三人となった。 ・對:むきあう。むかえる。あわせる。数える。動詞。 ・影:影法師。光をさえぎった時にできる黒い形。 ・成三人:自分の姿と、明月が来たためにできた影。陶潜に自分の肉体と、そこに出来た影法師とを別個のものに見立てた詩『形贈影』「天地長不沒,山川無改時。草木得常理,霜露榮悴之。謂人最靈智,獨復不如茲。適見在世中,奄去靡歸期。奚覺無一人,親識豈相思。但餘平生物,舉目情悽。我無騰化術,必爾不復疑。願君取吾言,得酒莫苟辭。」や『影答形』「存生不可言,衞生毎苦拙。誠願游崑華,然茲道絶。與子相遇來,未嘗異悲ス。憩蔭若暫乖,止日終不別。此同既難常,黯爾倶時滅。身沒名亦盡,念之五情熱。立善有遺愛,胡爲不自竭。酒云能消憂,方此不劣。」がある。また、前出『飮酒二十首』序では、「無夕不飮。顧影獨盡。忽焉復醉。」と李白も、恐らく陶淵明のこれらの後編として詠いたかったのではないか。全て超俗の詩篇である。
※月既不解飮:月(の方)は飲酒ということが解らないばかりか。 ・既:…である上に、また、…である。…であるのみならず、また、…である。もはや。…ばかりでなく。 *月は「飲酒」ということを解さないばかりか、影も いたづらにわたしの体に付き従っているばかりである。前出『影答形』の「此同既難常,黯爾倶時滅。」に同じ。 ・不解:理解しない。 ・飮:飲酒。酒を飲む。
※影徒隨我身:影法師(の方も)、ただいたずらにわたしの身体つきしたがうだけである。 ・徒:むだに。ただ。いたづらに。 ・隨:つきしたがう。 ・我身:わたしの身体。
※暫伴月將影:しばらくは、月と影とを伴なおう。 ・暫:しばらく。 ・伴:ともなう。 ・將:…と。…ともに。
※行樂須及春:山野に出て遊び楽しむのは、春に なってからすべきである。楽しみごとをするのは、春が最適である。 ・行樂:外出して、遊ぶこと。 ・須:是非とも…する必要がある。すべからく…べし。 ・及:…に なってからである。到達する。およぶ。追いつく。動詞。
※我歌月徘徊:わたしが歌えば、月は さまよい。 ・歌:歌う。動詞。 ・徘徊:うろつく。さまよい歩く。目的もなく歩きまわること。 動詞。曹植の『七哀詩』に「明月照高樓,流光正徘徊。上有愁思婦,悲歎有餘哀。借問歎者誰,言是客子妻。君行踰十年,孤妾常獨棲。君若C路塵,妾若濁水泥。浮沈各異勢,會合何時諧。願爲西南風,長逝入君懷。君懷良不開,賤妾當何依。」とある。
※我舞影零亂:わたしが舞えば、影法師は乱れ動く。 ・舞:舞う。動詞。 ・零亂:乱れ動くさま。
※醒時同交歡:(まだ酔わないで)しっかりとして、さめている時は、ともに、親しく交わり楽しむが。。 ・醒時:(まだ酔わないで)しっかりとして、さめている時。(酔いから)さめた時。ここでは、前者の意になる。 ・同:同じく。ともに。下句の「各(:副詞)」と対になるところなので、副詞と見るべきであろう。 ・交歡:互いに親しく交わり楽しむこと。
※醉後各分散:酔っぱらったあとは、それぞれ分かれ散らばってしまう。 ・醉後:酔っぱらったあと。 ・各:おのおの。それぞれ。 ・分散:分かれ散らばること。
※永結無情遊:末永く、人情を超越した清遊を結び。 ・永:末永く。永遠に。 ・結:形成する。…をむすぶ。 ・無情:人情を超越した。脱俗的な。超俗的な。 ・遊:ここでは清遊をいう。
※相期邈雲漢:遙かな天の川で、日時を約束して会うことにしよう。 ・相期:互いに日時を約束する。互いに待つ。 ・邈:はるかな。 ・雲漢:天の川。仙界でもある。
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◎ 構成について
換韻。韻式は、「AAAAbbb」。韻脚は「親人身春 亂散漢」で、平水韻上平十一真。去声十五翰。次の平仄はこの作品のもの。
○○●○●,
●●○○○。(韻)
●○○○●,
●●○○○。(韻)
●●●●●,
●●○●○。(韻)
●●●○●,
○●○●○。(韻)
●○●○○,
●●●○●。(韻)
◎○○○○,
●●●○●。(韻)
●●○○○,
●●●○●。(韻)
2004. 7. 4 7. 5 7. 6完 8.11補 2006.11. 4 2009. 7. 3助 |
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