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悵恨獨策還,
崎嶇歴榛曲。
山澗清且淺,
可以濯吾足。
漉我新熟酒,
隻鷄招近局。
日入室中闇,
荊薪代明燭。
歡來苦夕短,
已復至天旭。
園田の居に 歸る 五首
其五
悵恨して 獨り 策つき 還(かへ)り,
崎嶇として 榛曲を 歴(ふ)。
山澗 清く 且つ 淺く,
以て 吾が足を 濯ふ 可(べ)し。
我が新たに熟せる酒を 漉(こ)し,
隻鷄 近局を 招く。
日 入りて 室中 闇(くら)く,
荊薪 明燭に代ふ。
歡び 來りて 夕の短きを 苦しみ,
已(すで)に復(ま)た 天旭に 至る。
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◎ 私感註釈
※陶潛:東晉の詩人。官吏をやめて、隠棲をする折りの詩。
※歸園田居:田舎へ帰る。帰田、帰耕すること。 *これは、全五首の中の第五首。
※悵恨獨策還:心に傷みうらむことをいだきながら、ひとりだけでツエついて、かえっていった。 ・悵恨:いたみうらむ。残念がる。 ・獨:ひとりだけで。 ・策:ツエつく。動詞。 ・還:(自宅などへ)かえる。もどる。
※崎嶇歴榛曲:(山道が)険しくて、こぼこして、雑木林の一角を通り。険しくて、こぼこした山道で、雑木林の一角を通り過ぎる。 *『歸園田居』の其四「久去山澤游,浪莽林野娯。試攜子姪輩,披榛歩荒墟。」にほぼ同じ。 ・崎嶇:〔きく;qi2qu1〕山道の険しいさま。山道のでこぼこしたさま。 ・歴:経る。通り過ぎる。 ・榛曲:雑木林の一角。 ・榛:〔しん;zhen1〕ハシバミ。山地に生える落葉喬木。雑木。雑木が群がり生える。草木が乱生する。 ・曲:かたすみ。ほとり。くま。
※山澗清且淺:山間の谷川の水は、清くてその上浅い。 ・山澗:〔さんかん;shan1jian4〕山間のたにみず。谷川。 ・清:きよい。 ・且:その上。しかも。かつ。 *同質の用言の間にあって、Aであり、その上、Bでもあるという場合に使われる。 ・淺:あさい。
※可以濯吾足:ちょうどわたしの足を洗うのにもってこいである。 ・可以:…ことができる。…たらいい。…するのがふさわしい。…べきだ。…もって…べし。蛇足だが、現代語の口頭でも、同じ意味で、しばしば使われる。 ・濯吾足:わたしの足を洗う。 ・濯:あらう。洗濯をする。 *ここは『楚辭』漁父(屈原既放) 同孺子歌(滄浪之水C兮)孟子の「滄浪之水C兮,可以濯我纓,滄浪之水濁兮,可以濯我足。」 をふまえているが、大きく変えている。「可以濯我纓」とは言わないで、逆にしている。『楚辭・漁父』では「清らかな流れでは 纓を洗うべきで、濁った流れでは 足を洗うべきだ。」とあるが、陶潜の詩句では「ここの清らかな流れで、足を洗うべきだ。」と詠っている。陶潜の「足を洗うべきだ。」とは、恐らく、「(ここの清らかな流れで、)俗世間の塵を洗い流すべきだ」と言いたいのだろう。
※漉我新熟酒:わたしの新たに熟成した酒をこして。(酒宴の)お酒を用意して。 ・漉:〔ろく;lu4〕こす。したむ。 ・新熟酒:新たに熟成した酒。
※隻鷄招近局:ニワトリを一羽(つぶして)、近隣の人々を招いた。 ・隻鷄:一つのニワトリ。 ・近局:近所の区劃。近隣。近所(に住む人々)。
※日入室中闇:日が沈んで、部屋の中が暗くなり。 ・日入:日が沈む。 ・室中闇:部屋の中が暗い。
※荊薪代明燭:粗末なまきの篝火で、一時的に(高級な)灯油や蝋燭などの照明専用の明かりの代わりとする。 ・荊薪:イバラのまき。粗末なまき。 *「荊」は、前出「榛」と同様に、粗末な木。雑木の意がある。ここでもその意。 ・代:…に代わって。一時的に代わりにする。 ・明燭:灯油や蝋燭などの照明専用の明かり。
※歡來苦夕短:よろこばしいことになってきたが、夜の短いのがおもしろくない。 ・歡來:よろこばしいことが起こって。 ・苦:おもしろくない。にがにがしい。 ・夕短:夜が短い。
※已復至天旭:とっくにまた空に朝日が昇る時になるまで(楽しい酒宴が)続いた。 ・已復:とっくに。 ・至:…になる。いたる。 ・天旭:空に朝日が昇る。
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◎ 構成について
韻式は「AAAAA」で、韻脚は「曲足局燭旭」で、平水韻で見れば入声二沃(曲足局燭旭)になる。この作品の平仄は次の通り。
●●○●○,(韻)
●●○●○。(韻)
●○●●●,
○○○●○。(韻)
●●●●●,
○○●○○。(韻)
●●●●●,
○●○○○。(韻)
●●●○●,
●○○○○。(韻)
○●●●○,
●●○●○。(韻)
●●●○●,
●●○●○。(韻)
○○●●●,
○○○○○。(韻)
2003.10.21 10.22 |
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