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草草辭家憂後事,
遲遲去國問前途。
望秦嶺上迴頭立,
無限秋風吹白鬚。
初めて 官を 貶(おと)されて 望秦嶺を 過ぐ
草草として 家を辭して 後事を 憂ひ,
遲遲として 國を去りて 前途を 問ふ。
望秦嶺上 頭(かうべ)を 迴(めぐ)らせて 立てば,
無限の 秋風 白鬚に 吹く。
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◎ 私感註釈
※初貶官過望秦嶺:初めて左遷されて、(長安南方の山脈にある)望秦嶺を通過した時の作。元和十年に作ったこの作品と似たイメージのものに、李白の『與史郎中欽聽黄鶴樓上吹笛』「一爲遷客去長沙,西望長安不見家。黄鶴樓中吹玉笛,江城五月落梅花。」韓愈がこの作品より四年後、その上奏文に因り左遷された時の『左遷至藍關示姪孫湘』 「一封朝奏九重天,夕貶潮州路八千。欲爲聖明除弊事,肯將衰朽惜殘年。雲横秦嶺家何在,雪擁藍關馬不前。知汝遠來應有意,好收吾骨瘴江邊。」がある。どちらの作品も、左遷されて都長安から遠ざかっていく時の気持ちを詠んでいる。 ・貶官:官位を落とされて、左遷されること。 ・過:すぎる。よぎる。通過すること。 ・望秦嶺:長安南方に広がる秦嶺山脈にあると思われるが、詳細な位置は不明。「秦(長安一帯)を望む嶺」「長安をふり返り見るいただき」の意で、秦嶺山脈を越えて南方に行く時、ふり返って北方に見える長安一帯を望む最後の場所。畿内の最終地である。長安南西に「秦嶺」があるが、それとは違うはず。
※草草辭家憂後事:にわかであわただしく家を後にすることとなり。 ・草草:にわかで、ていねいでないありさま。あわただしく。 ・辭家:家に別れを告げる。家を辞す。 ・憂:心を傷める。うれえる。 ・後事:〔こうじ;hou4shi4〕あとの事。死後のこと。ここは、前者の意。
※遲遲去國問前途:ゆるゆると国都長安を去ってゆき、今後の道筋を尋ねる。 ・遲遲:ものごとが進まないさま。ゆっくりと進むさま。 ・去國:国都長安を去ってゆく。 ・問前途:進んでいく道のようすを尋ねる。将来を心配する。
※望秦嶺上迴頭立:望秦嶺からふり返って立ち止まって見れば。 ・迴頭立:ふり返って立ち止まる。
※無限秋風吹白鬚:吹き止むときがない限りない秋風が、白くなったあごひげに吹き続けてくる。 ・無限秋風:吹き止むときがない秋風。 ・秋風:日本語の語感同様、凋落の雰囲気を含む。 ・吹:ふく。 ・鬚:あごひげ。蛇足だが、ヒゲはその生えている場所によって言い方(文字)が変わる。鬚のイメージは、あごなどから長く伸び出た感じのもの。ただ、ここは韻脚でもあるので、さほど深く考えなくともよい。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「途鬚」で、平水韻上平七虞。この作品の平仄は次の通り。
●●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
◎○●●○○●,
○●○○○●○。(韻)
2003.10.16 |
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