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一爲遷客去長沙,
西望長安不見家。
黄鶴樓中吹玉笛,
江城五月落梅花。
史郎中欽と 黄鶴樓上に吹笛を聴く
一たび 遷客と爲(な)りて 長沙に去る,
西のかた 長安を 望めど 家を見ず。
黄鶴樓中 玉笛を吹く,
江城 五月 「落梅花」。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる安史の乱では苦労をし、後、永王が謀亂を起こしたのに際し、幕僚となっていたため、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
※與史郎中欽聽黄鶴樓上吹笛:郎中の官位にある史欽と黄鶴楼上で笛の音を聴いた。安禄山の乱の事後処理に関わって、夜郎国(現・貴州省)に流されることになり、武昌(現・湖北省武漢)に到った時の作。 ・與:…と。 ・史郎中欽:郎中の官位にある史(姓)欽(名)。 ・郎中:官名。 ・聽:(耳をすませて)聴く。 ・黄鶴樓:武昌(現・武漢)の西南の蛇山北黄鵠(長江右岸)ににある楼の名。道士が黄鶴に乗って飛び去ったという言い伝えがある。李白の七絶『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』「故人西辭黄鶴樓,煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡,惟見長江天際流。」 や、唐の崔の七律『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡洲。日暮ク關何處是,煙波江上使人愁。」がある。 ・吹笛:笛を吹奏する。
※一爲遷客去長沙:ひとたび…となるやいなや、長沙に向かって行った。 ・一爲:ひとたび…となる(やいなや)。ひとたび…となってすぐに。 ・遷客:流罪に処せられた者。作者自身のことになる。 ・去:去る。行く。 ・長沙:現・湖南省省都。夜郎国(現・貴州省)に行く経由地になる。長沙は屈原の『懷沙』ともいわれる。
※西望長安不見家:西の方を望み見るが、我が家を見ることは(でき)ない。 *西望長安不見家:「西望長安」「不見佳」 同様のものに、白居易の『初貶官過望秦嶺』「草草辭家憂後事,遲遲去國問前途。望秦嶺上迴頭立,無限秋風吹白鬚。」、韓愈の『左遷至藍關示姪孫湘』「一封朝奏九重天,夕貶潮州路八千。欲爲聖明除弊事,肯將衰朽惜殘年。雲横秦嶺家何在,雪擁藍關馬不前。知汝遠來應有意,好收吾骨瘴江邊。」がある。 ・西望:西の方を望み見る。李白の辿ったコースは秦嶺を越えて、漢水を下って武昌に到ったのだろう。武昌(黄鶴楼)からの長安のある実際上の方角は、西北になるが、漢水を東下したことに因る感覚か。或いは「北望」とすればイメージや語調が大きく異なるために、こうしたのか。 ・長安:首都。昨日までの居所。 ・不見家:我が家を見ることは(でき)ない。
※黄鶴樓中吹玉笛:黄鶴樓で、美しい笛の音を聴いたが。 ・玉笛:玉(ぎょく)で作った立派な笛。美しい笛。
※江城五月落梅花:川沿いの町の夏五月というのに「落梅花」という曲名であった。 ・江城:川沿いの町。また武昌(漢陽、後に漢口も)一帯をも謂う。 ・五月:旧暦では夏季。太陽暦の七月頃。 ・落梅花:笛の演奏用の「落梅花」という曲名のこと。「梅」は漢代の『横笛曲』にある『梅花落』両宋・李清照の『永遇樂』「落日熔金,暮雲合璧,人在何處?染柳烟濃,吹梅笛怨,春意知幾許。」 として、使われている。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「沙家花」で、平水韻下平六麻。次の平仄は、この作品のもの。
●○○●●○○,(韻)
○◎○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
2004.12.13 12.14 12.18完 2007. 7.25補 |
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