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渭水東流去,
何時到雍州。
憑添兩行涙,
寄向故園流。
西のかた 渭州を過ぎ 渭水を見て 秦川を思ふ
渭水 東に 流れ 去りて,
何 れの時にか雍州 に 到らん。
憑 りて兩行 の涙を添 へて,
寄 せて故園 に向 かひて 流さん。
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◎ 私感註釈
※岑參:〔しんじん;cen2shen1〕盛唐の詩人。開元三年(715年)~大暦五年(770年)南陽の人。安西節度使に仕え、当時西の地の涯までいった。ために、辺塞詩をよくする。蛇足になるが、岑參の「參」字は〔さん;can1〕〔しん;cen1〕〔じん;shen1〕とあるが、彼の名は〔じん;shen1〕になる(『中国大百科全書・中国文学 Ⅰ』(中国大百科全書出版)。
※西過渭州見渭水思秦川:淮河上流地方の甘(甘肅の甘)にやって来て、そこの渭水の流れをを見て、(懐かしい)陝西の長安や、秦を流れる川の流れを想い出して(この詩を作った)。『唐詩選』では『見渭水思秦川』とする。 ・渭州:隴西の辺り半径70キロメートルほどになる。現・甘肅省東南部一帯。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)61-62ページ「唐 隴右道東部」にある。 ・渭水:甘肅省渭源県の鳥鼠山に源を発して、陝西省を東流し、長安の北側を西から東に通って黄河に注ぎ込む大河。現・渭河。 ・秦川:陝西の長安附近を流れる渭水の流れ。ただ、『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)40-41ページ「唐 京畿道 関内道」では、多くの川が長安付近で渭水に注ぎ込んでいるが「秦川」は確認できない。「川」には川原で原野の意があり秦の平原の意もある。
※渭水東流去:渭水は、東に向かって流れ去り。 ・東流:(河水が)東に向かってそそぐ。「郷里に向かう」という思いで詠ったものに、元・掲傒斯の『別武昌』「欲歸常恨遲,將行反愁遽。殘年念骨肉,久客多親故。佇立望江波,江波正東注。」がある。 ・去:さる。行く。
※何時到雍州:いつ(頃)になったら、長安に着くのだろうか。 ・何時:いつ。 ・到:いたる。行く。着く。 ・雍州:〔ようしゅう;●○〕(固有名詞・九州の「雍州」の「雍」は去声)古代の九州の一で、現・陝西省、甘肅省一帯で、ここでは、陝西省の長安を指している。地名としての雍州は、長安のやや西になる。
※憑添兩行涙:二筋の涙の水を(淮河の水の流れに)托して。 ・憑:…に頼って。…によって。…を頼りとして。 ・添:そえる。 ・兩行:二筋の(涙)。両目からの涙。 ・行:〔ぎゃう;hang2○〕すじ。唐・『孟浩然宿桐廬江寄廣陵舊遊』に「山暝聽猿愁,滄江急夜流。風鳴兩岸葉,月照一孤舟。建德非吾土,維揚憶舊遊。還將兩行涙,遙寄海西頭。」とある。
※寄向故園流:ふるさとに向かって送ろう。 ・寄:手紙を出す。よこす。送る。 ・向:…に向かって。 ・故園:ふるさと。
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◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「州流」で、平水韻下平十一尤。次の平仄はこの作品のもの。「行」は辞書の意味から見ると○になりそうだが、○は動詞という面(王力『漢語詩律学』)もあり、よくわからない。ただ、詩作の平仄の流れから見ると当然●となる。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○●◎●,
●●●○○。(韻)
2004. 8. 9 8.10完 2007.10.20補 2011. 1.29 |
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