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夜涙闇銷明月幌,
春腸遙斷牡丹庭。
人間此病治無藥,
唯有楞伽四卷經。
元九の悼亡詩を見 因て此れを以て寄す
夜涙 闇に銷ゆ 明月の幌(とばり),
春腸 遙かに斷たん 牡丹の庭に。
人間 此の病 治するに 藥 無く,
唯だ 楞伽(りょうが) 四卷の經 有るのみ。
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◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜846年(會昌六年)。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。
※見元九悼亡詩因以此寄:元の悼亡詩を読んで、(感ずることがあって)そのため、このわたくしの詩を作って、とどける。元は『聞白樂天左降江州司馬』「殘燈無焔影幢幢,此夕聞君謫九江。垂死病中驚坐起,暗風吹雨入寒窗。」というのを作って、白居易を想った詩がある。 ・元九:元。九は排行。我が国でいえば九郎のようなものになる。 ・悼亡詩:亡くなったことを悼む詩。元が妻の亡くなったことを悼んだ詩『遣悲懷』「闕ソ悲君亦自悲,百年都是及多時。ケ攸無子尋知命,潘岳悼亡猶費詞。 同穴冥何所望,他生縁會更難期。唯將終夜長開眼,報答平生未展眉。」などを作っているが、それに因ったか。 ・因:そのため。よって。 ・以:…で。 ・此:このページの白居易の作品のことになる。 ・寄:詩を郵送する。詩を届ける。
※夜涙闇銷明月幌:夜に流す涙は闇(やみ)に消されて、明月のホロ(が覆い隠してくれることだろうが)。 ・夜涙:夜の闇に隠れて流す涙。夜に流す涙。 ・闇銷:秘かに消える。闇(やみ)に消える。・銷:けす。なくす。=消。 ・明月:澄んだ月影。 ・幌:〔くゎう;huang3〕幔幕。とばり。たれぎぬ。
※春腸遙斷牡丹庭:春の季節でも(わたしから離れたところにいて)ボタンの花咲く爛漫の春の庭を見ながら、断腸の思いをしていることだろう。 ・春腸遙斷:春に断腸の思いをしていることだろう。 ・遙…:遙かに離れているところの情景を想像していうことば。盛唐・岑參の『梁行軍九日思長安故園』「強欲登高去,無人送酒來。遙憐故園菊,應傍戰場開。」や盛唐・杜甫の『月夜』「今夜州月,閨中只獨看。遙憐小兒女,未解憶長安。香霧雲鬟,清輝玉臂寒。何時倚虚幌,雙照涙痕乾。」に同じ。 ・牡丹庭:ボタンの咲く庭。人の心とは関係なく、訪れている世の春の光景。
※人間此病治無藥:人の世のこの病(やまい)には、治す薬がない。 ・人間此病:人の世のこの病(やまい)。死を指す。 ・人間:人の世。 ・治:治療する。治す。 ・無藥:薬がない。
※唯有楞伽四卷經:ただ楞伽経四巻だけがあるのみである。 ・唯有:ただ…だけがあるのみである。 ・楞伽:〔りょうが;leng24qie2〕楞厳経のことか。達磨が仏法の理を悟り、弟子に授けた経典という。
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◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「庭經」で、平水韻下平九青。次の平仄は、この作品のもの。
●●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
○○●●●○●,
○●◎○●●○。(韻)
2004.11.27 11.28完 2012.10.31補 |
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