******
殘燈無焔影幢幢,
此夕聞君謫九江。
垂死病中驚坐起,
暗風吹雨入寒窗。
白樂天の 江州司馬に左降せられしを 聞く
殘燈 焔(ほのほ) 無く 影 幢幢(たうたう),
此の夕 君が 九江に 謫(たく)せられしと 聞く。
垂死(すゐし)の病中 驚きて 坐起すれば,
暗風 雨を 吹きて 寒窗(かんさう)に 入る。
*****************
◎ 私感註釈
※元稹:中唐の詩人。白居易と親交があった。
※聞白楽天左降江州司馬:白居易が江州司馬に左遷されたことを耳にして。 ・聞:きこえる。噂を耳にする。 ・左降:左遷される。低い地位・官職に落とされる。 ・江州:現・江西省九江(=尋陽)一帯に設かれた州。「江州司馬」は白居易が左遷された先の官位。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)57−58ページ「唐 江南西道」にある。 ・司馬:官名。(唐代:)州の刺史の次官。なお、司馬は、周:軍事をつかさどる。陸軍大臣。前漢には大司馬と称した。 *この詩に詠まれた白居易の境遇を表すものに白居易の『舟中讀元九詩』「把君詩卷燈前讀,詩盡燈殘天未明。眼痛滅燈猶闇坐,逆風吹浪打船聲。」や『琵琶行』「潯陽江頭夜送客,楓葉荻花秋瑟瑟。主人下馬客在船,舉酒欲飮無管絃。醉不成歡慘將別,別時茫茫江浸月。忽聞水上琵琶聲,主人忘歸客不發。尋聲闇問彈者誰,琵琶聲停欲語遲。移船相近邀相見,添酒迴燈重開宴。千呼萬喚始出來,猶抱琵琶半遮面。」がある。
※殘燈無焔影幢幢:消えかかった灯火(ともしび)は、ほのおも(殆ど)無くなり、火影(ほかげ)はくすんで明らかでなく、揺れて落ち着かないさまであり。 ・殘燈:油が泣くなり、消えかかった灯火(ともしび)。油が無くなり、火がすたれて消えかかった灯火(ともしび)。 ・焔:〔えん;yan4●〕ほのお。ほむら。光:(名詞)。 *蛇足になるが、「焔」と「炎」とは別字で、「炎」は〔えん;yan2○〕動詞、形容詞:もえる。もえあがる。あつい。 ・影:ここでは、火影(ほかげ)のことになる。 ・幢幢〔たうたう;chuang2chuang2○○〕揺れて落ち着かないさま。「幢」は多音字で多義に亘る:幢:〔たう(だう);chuang2○〕:(名詞)はた。古代ののぼり旗。ゆらゆらと揺れるさま。なお、幢:〔だう;zhuang4●〕:(名詞)ほろ。皇后の乗る車の屋根に下げる飾りの布。「棟(むね/とう)」。建物の棟数を数える量詞。幢:〔とう;tong2○〕旗の羽毛の垂れたさま。揺れて落ち着かないさま。くすんで明らかでないさま。薄暗いさま。
※此夕聞君謫九江:この夜、あなたが九江郡の司馬に左遷されたということを耳にした。 ・此夕:この夜。 ・夕:夜。宵。 ・聞君…:「あなたの…という噂を耳にした」「あなたが…となった(した)という噂を聞いた」という、伝聞の表現形式の一。「聞」以降が伝聞の内容。ここでは、「謫九江」の部分になる。但し、これは兼語文で、「君謫九江」で一文ともなり、「君」は「謫九江」の主語ともなっている。「此夕聞君」であり「此夕聞・〔君謫九江〕」でもあるということ。「聞」が「耳に入る、聞こえる」といった伝聞を表す場合は●となる。 ・謫:〔たく;zhe2●〕官位を下げて遠くへ追放になる。せめる。とがめる。罪する。 ・九江:現・江西省九江市を含む広い一帯。『琵琶行 序』「元和十年,予左遷九江郡司馬。…予出官二年,恬然自安,感斯人言,是夕始覺有遷謫意。因爲長句,歌以贈之。」。地図はこちら。
※垂死病中驚坐起:死にかけの病で病臥中なのだが、驚いて、起きあがって坐り(直した)。 ・垂死:死にかけ。瀕死。死になんなんとす。 ・驚坐起:(横臥していたが)驚いて、起きあがって坐る意。
※暗風吹雨入寒窗:暗闇から吹いてくる風が、寒々としてわびしげな窓から雨を吹き込ませてきた。 ・暗風:暗闇から吹いてくる風。 ・吹雨:雨を吹き込ませる。 ・入:はいる。 ・寒窗:寒々としてわびしげな窓。冬の窓。
***********
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「幢江窗」で、平水韻上平三江。次の平仄はこの作品のもの。
○○○●●○○,(A韻)
●●◎○●●○。(A韻)
○●●○○●●,
●○○●●○○。(A韻)
2005.1. 4 1. 5完 10.11補 2013.1.25 1.26 |
次の詩へ 前の詩へ 抒情詩選メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |
メール |
トップ |