huanying xinshang Ding Fengzhang de zhuye
楚辞 九章 懐沙



                     
九章 懷沙
          

                         
         楚・屈原

             
亂曰:
浩浩湘,
分流汨兮。
脩路幽蔽,
道遠忽兮。
懷質抱情,
獨無匹兮。
伯樂既沒,
驥焉程兮?
民生稟命,
各有所錯兮。
定心廣志,
余何所畏惧兮?
曾傷爰哀,
永歎喟兮。
世溷濁莫吾知,
人心不可謂兮。
知死不可讓,
願忽愛兮。
明告君子,
吾將以爲類兮。


    **********************
       懷沙
     
亂に 曰く:
浩浩たる  湘,
分流して  汨
(こつ)たり。
(なが)き 路  幽(かす)かに 蔽(かく)れ,
道  遠忽たり。
質を 懷
(いだ)き 情を 抱(いだ)けるも,
獨り 匹
(あかし) 無し。
伯樂  既に 沒し,
驥  焉
(いづく)んぞ  程(はか)らんや?
民生  命を 稟
(う)け,
ゝ(おのおの) 錯(お)く所 有り。
心を 定め  志を 廣め,
余 何ぞ 畏惧せる 所ならんや?
(かさ)ねて 傷(いた)み  爰(ここ)に 哀しみ,
永く 歎喟
(たんき)す。
世 溷濁
(こんだく)して  吾を知る 莫(な)く,
人心   謂
(い)ふ 可(べ)からず。
死は  讓る 可
(べ)からざるを 知る,
願くば  愛
(を)しむを 忽(ゆるがせに)せよ。
明かに  君子に 告ぐ,
吾  將
(まさ)に 以て  類を 爲(な)さん と。

             ******************

◎ 私感訳註:

※懐沙:屈原の晩年の自作。「懐沙」とは「沙石を懐(いだ)く」の意で、小石を懐(ふところ)に入れて、入水自殺をする意、或いは「長沙を懐(なつか)しむ」の意。前者は、『史記・巻八十四・屈原賈生列傳 第二十四』では「於是
懷石遂自汨羅以死。」と記されているのに基づく。この作品の舞台「長沙」「」「湘」「汨羅」は、全て現・湖南省にある。春秋戦国の楚国である。屈原は、戦国時代の楚国の王族・屈姓の出身。嘗て楚の懐王に三閭大夫に任じられるが、やがて疎んじられ、頃襄王のとき、讒言のため、職を解かれた上、都を逐出されて各地を流浪した。遂に汨羅(湖南省長沙の北方)に身を投げて自殺した。時に、前278年の五月五日である。現在、湘陰の北、汨羅市よりも岳陽よりに屈子祠がある。なお、『懐沙』は前出『史記・屈原賈生列傳』では「懷沙之賦」として出ている。但し、『楚辞』と一部異なる。次の青字部分が異なるところになる。「浩浩湘兮,分流汨兮。脩路幽兮,道遠忽兮。恆悲兮,永歎慨兮。世既莫吾知兮,人心不可謂兮。懷情抱質兮,獨無匹兮。伯樂既歿兮,驥焉程兮?人生稟命兮,各有所錯兮。定心廣志,餘何畏兮?曾傷爰哀,永歎喟兮。世溷不吾知,心不可謂兮。知死不可讓兮,願愛兮。明告君子,吾將以爲類兮。」となっている。語彙は、『離騒』と多々共通するものがあるので、双方参照しあって読むべきところ。

※亂:詩歌の最終節。本来、『懷沙』は「滔滔孟夏兮,草木莽莽。傷懷永哀兮,汨徂南土。」から歌われ始めるが、本ページはその最終部分で、全体のまとめと要約の部分でもある。我が国でいえば、反歌。

※浩浩湘:広々とした(水面の)水と湘水は。 ・浩浩:おおみずのさま。ものの広大なさま。 ・湘:水と湘水。現在の江と湘江。ともに湖南省の大河。前者は、貴州省より湖南を東流し、洞庭湖水系に注ぎ、後者は、湖南を北流し、同じく洞庭湖水系に注ぐ。

※分流汨兮:分流して、さらさらと流れる。 ・分流:分流。分れて流れる川の流れ。 ・汨:〔こつ;gu3〕さらさらと(流れる)。王逸の古註では、流れる。この義では、〔こつ;gu3〕になる。水の流れるさま。水が流れる。波の音。(水の流れが)速い。なお、汨羅の汨は〔べき;mi4〕になる。水の流れる音や、汨羅江といった地名用語(字)。また、『離騒』では、「汨余若將不及兮」での「汨」は、〔いつ;yu4〕になり、楚の方言で、水が速く流れるようすになる。この三者の区分が必要。(字体もやや異なり、さんずいに「日」と「曰」の差異がある)。 ・兮:詩歌で語調をととのえ、強めるため、節奏の部分に現れる辞。上古詩に多い。ここは兮字脚で、この『懐沙』の乱の部分だけの特殊な押韻。『詩経』に見られる押韻の方法になる。『楚辞』での兮字の用法は、句の語(字)数は異なるものの、すべて、

□□□□兮, □□□□。」

というふうになっている。それは、『懐沙』の本辞の部分を含めてそうなっている。乱の前の節は、「古固有不並兮,豈知其何故。湯禹久遠兮,而不可慕。懲違改忿兮,抑心而自彊。離而不遷兮,願志之有像。進路北次兮,日昧昧其將暮。舒憂娯哀兮,限之以大故。」であり、やはり前記の押韻形式をとっている。
                       
□□□□□兮, □□□□
□□□□兮, □□□□
□□□□兮, □□□□
□□□□□兮, □□□□
□□□□兮, □□□□□
□□□□兮, □□□□
 (以下、本ページ次の部分に繋がる。)
亂曰:

浩浩湘,分流汨兮。
脩路幽蔽,道遠忽兮。

                       
という具合になって、乱に続いている。ところが、この『懐沙』の乱(詩歌の最終節)のみ、

□□□□, □。」

という『詩経』にも見られる押韻の方法をとっている。

乱の部分は、

亂曰:
□□□□, □□兮。
□□□□, □□兮。
□□□□, □□兮。
□□□□, □□兮。
□□□□, □□□兮。
□□□□, □□□□兮。
□□□□, □□兮。
□□□□□□,□□□□兮。
□□□□□, □□兮。
□□□□, □□兮。


と、大きく異なる。押韻形式からのみいえば、乱の部分の成立は、或いは、本辞部分や他の『楚辞』作品とは、別の時期になるのではないか。詳しくは、下記「◎ 構成について」を参照

※脩路幽蔽:長いみちはおくぶかくおおわれ。 ・脩路:長いみち。長途、遠路。 ・脩:〔しう;xiu1〕長い。おさまる。かわく。 ・幽蔽:〔いうへい;you1bi4〕おくぶかくおおう。 ・幽:〔いう;you1〕おくぶかい。かくれる。かすか。 ・蔽:〔へい;bi4〕おおう。おおいかぶせる。くらます。

※道遠忽兮:道は遥か遠く、かすかになる。 ・道:(人の往来する)みち。また、行いのみち。前出「脩路」の「路」は「(人の往来する)みち」の意のみ。 ・遠忽:遥かに遠いさま。 ・遠:とおい。 ・忽:遥かに遠いさま。明らかでない。

※懷質抱情:すばらしい資質と忠良な感情は。 ・「懷」「抱」ともに、「いだく、もつ」の意。 ・質:(すばらしい)資質。(すぐれた)資質。 ・情:忠良の情。真情。「質」「情」ともに、作者自身のことをいう。屈原の資質と、楚国や懷王をおもう真情のこと。

※獨無匹兮:ただひとり類例がない。「獨無正兮」と見た場合:ただひとり証明されないでいる。 ・獨無:ただ…のみ…ない。 ・匹:朱熹は「正」とする。証明。あかし。「匹」のままとすれば「比べる」「たぐい」になる。

※伯樂既沒:馬の能力・資質を見抜くことができる伯楽は、すでに歿して(、この世におらず)。資質を見抜くことができる人物、理解者がいなくなったことをいう。 ・伯樂:周の人で、馬を見分けることにすぐれていた。孫陽のこと。ここでは、人の能力・資質を見抜くことができる人物。よき理解者の意で、使われている。 ・既:とっくに。すでに。 ・沒:亡くなる。死ぬ。歿する。=歿。

※驥焉程兮:すぐれた能力を持った馬は、どうして(その力を)量りしめすことができようか。すぐれた能力を持った人物が、その能力を発揮できる機会がなくなったことをいう。 ・驥:〔き;ji4〕駿馬。良馬。一日に千里を走る馬。ここでは、すぐれた能力を持った人。作者である屈原自身のことをいう。 ・焉:どうして…か。いづくんぞ。なんぞ。疑問、反語を表す。 ・程:はかる。しめす。動詞。

※民生稟命:人の生は天与の運命にしたがい。 ・民生:人生。人民の生活。人の本性。民の生計、人民の生命。人民。 ・稟命:運命をさずかる。天与の運命。天賦の命。 *「民生稟命」は「萬民之生」ともする。 ・稟〔ひん;bing3〕うける。さずかる。もうす。 ・命:運命。天命。

※各有所錯兮:おのおの安んずるところがある。それぞれ相応の振る舞い方がある。 ・各有:それぞれ…がある。おのおの…がある。 ・所錯:置くところ(が)。・錯:この義では〔そ;cuo4〕になる。置く。やすんじていること。ふるまう。措置する。≒措。「惧(懼)」と韻をふむ。

※定心廣志:心を定めて、志を広くもつ。 ・定心:心をさだめる。 ・廣志:こころざしを広くもつ。

※余何畏惧兮:わたしは、どうして怖じ、おそれ、びくびくすることがあろうか。 ・余:わたしは。 ・何:どうして。なんぞ。 ・畏惧:おじ、おそれる。びくびくする。「餘何畏懼兮」ともする。同義。「惧」は「懼」の略字。「錯(措)」と韻をふむ。

※曾傷爰哀:重ねていたみ、ここに哀しむ。 ・曾:重ねる。かさねて。≒層。 ・傷:いたむ。 ・爰:〔ゑん;yuan2〕ここに。 ・哀:かなしい。かなしむ。

※永歎喟兮:とこしえに嘆き、ため息をつく。 ・永:ながく。 ・歎喟:〔たんき;tan4kui4〕なげきため息をつく。 ・歎:なげく。 ・喟:〔き;kui4〕嘆く。ため息をつく。大息する。

※世溷濁莫吾知:世の中が、穢れ濁り、わたしを理解しようとしない。 ・世:世の中。 ・溷濁:〔こんだく;hun4zhuo2〕にごる。穢れ濁る。にごり。 ・溷:乱れる。穢れる。かわや。 ・濁:にごる。 ・莫吾知:わたしを理解しない。『楚辭』『離騒』の「國無人莫我知兮」(国に人物がいなくて、わたしを理解する者がいない)に同じ。上古漢語の特徴で、否定詞と人称代詞がある場合、「莫知吾」は「莫吾知」となる。

※人心不可謂兮:(他)人の心は、理由を説明しても、(変えさせる)ことができない。 ・人心:人の心。 ・不可:…ことができない。 ・謂:理由を言う。いいわけをする。説明する。いう。告げる。

※知死不可讓:(わたしの)自殺は、避けて通れないことであり。 ・知:わかっている。 ・死:死。(汨羅での)入水を考えていたようだ。 ・讓:ゆずる。避けて通る。

※願忽愛兮:願わくば、我が身を愛惜することを、ゆるがせにせよ。悠久の大儀に生きようとする者は、願わくば、個人の身命にこだわらないようにしてほしいものだ。 ・願:ねがわくば。 ・忽:ゆるがせにする。おろそかにする。 ・愛:愛惜する。惜しむ。我が身を愛おしみ惜しむことをいう。

※明告君子:はっきりと、節義の人士に告げる。 ・明告:はっきりと告げる。 ・君子:節義の人士。『楚辭』『離騒』で頌う彭咸のような人物のこと。殷の賢明な臣下で、君主を諫めたが聞き入れられず、ために入水する。

※吾將以爲類兮:わたしは、法(規範)となろう。「世溷濁莫吾知,人心不可謂兮」なので、もはや「死不可讓」と分かった。されば、諸賢よ、(わたしが憂国の人士の)類例、典型になろう。この部分が文天祥『正気歌』の終尾「顧此耿耿在,仰視浮雲白。悠悠我心悲,蒼天曷有極。哲人日已遠,
典型在夙昔。」にもなっている。 ・吾:わたし(は)。主格に使い分けられることが多い。 ・將:まさに…ん。将然形の副詞。 ・以爲:もって…なす。ここは語法上「おもへらく」は無理。 ・類:のり(法)。模範、手本。





◎ 構成について

兮字脚で、換韻。韻式は「aabBccddee」。韻脚は 「汨忽 正程 錯惧 喟謂 愛類」で、順に入声韻、平声韻、去声韻、去声韻、去声韻になる。次の平仄はこの作品のもの。

●●:
●●○○,○○

○●○●,●●
○●●○,●○

●●●●,●○

○○●●,●●●

●○●●,○○●●

○○○○,●●

●●●●○○,○○●●
○●●●●,●●

○●○●,○○●○


亂曰:
浩浩湘,分流

脩路幽蔽,道遠


懷質抱情,獨無

伯樂既沒,驥焉


民生稟命,各有所

定心廣志,余何所畏


曾傷爰哀,永歎

世溷濁莫吾知,人心不可


知死不可讓,願忽

明告君子,吾將以爲

2004.3.2
     3.3
     3.4
     3.5
     3.6完

漢詩 唐詩 漢詩 宋詞

xia 1 ye次の詩へ
shang 1 ye前の詩へ
Bixue「先秦漢魏六朝・詩歌辞賦」メニューへ戻る
    **********
Maozhuxi shici辛棄疾詞
Maozhuxi shici陸游詩詞
Maozhuxi shici李U詞
Maozhuxi shici李清照詞
shangye花間集
shangye婉約詞
shangye歴代抒情詩集
shangye秋瑾詩詞
shichao shou ye天安門革命詩抄
Maozhuxi shici毛主席詩詞
Maozhuxi shici碇豊長自作詩詞
shici gaishuo豪放詞 民族呼称
shici gaishuo詩詞概説  
唐詩格律 之一
宋詞格律
詞牌・詞譜
詞韻
詩韻
cankao shumu(wenge)参考文献(宋詞・詞譜)
cankao shumu(wenge)参考文献(詩詞格律)
cankao shumu(wenge)参考文献(唐詩・宋詞)
      
zhuzhang わたしの主張
guanhougan
メール
hui shouye
トップ
huanying xinshang Ding Fengzhang de zhuye