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一枝紅艷露凝香,
雲雨巫山枉斷腸。
借問漢宮誰得似,
可憐飛燕倚新粧。
清平調三首 其二
一枝の紅艷 露 香を 凝らす,
雲雨 巫山 枉(むな)しく 斷腸。
借問(しゃもん)す 漢宮 誰か 似たるを 得ん,
可憐の飛燕 新粧に 倚る。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる。安史の乱では苦労をする。後、永王が謀亂を起こしたのに際して幕僚となっていたために、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
『聯珠詩格』卷三より
※清平調:曲調の名。この作品は、三首の中の其の二。漢の美女・趙飛燕と比べて、牡丹と見まがうばかりの楊貴妃の美しさを讃えて詠いあげている。清平調其一はこちら。清平調其三はこちら。
※一枝紅艷露凝香:ひとえだの鮮やかな赤い牡丹の花に降りた露は、香を凝聚させたかのようである。 ・一枝:ひとえだ。「枝」は名詞。量詞としては意味が通らない。 ・紅艷:鮮やかな赤い花。ここでは牡丹の花。「紅」は花の意でもある。 ・露凝香:つゆは、香を凝聚させたかのようである。
※雲雨巫山枉斷腸:(楚の襄王が)巫山の神女をむなしく夢で断腸の思いをした(が、今の玄宗と楊貴妃とは、何とすばらしいことか)。 ・雲雨:神女の姿。朝は巫山の雲となり夕べには雨になるという。後出「巫山雲雨」の故事に基づく。交情、情愛の表現。 ・巫山:「巫山雲雨」の故事に基づく男女の交情をいう。楚の襄王が巫山で夢に神女と契ったことをいう。神女は朝は巫山の雲となり夕べには雨になるという故事からきている。宋玉『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気(雲というよりも濃い水蒸気のガスに近いもの(か))があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた。「巫山之夢」。婉約の詩詞 によく使われるが、千載不磨の契りといった感じのものではなく、もっと気楽な契りをいう。 ・枉:いたずらに。むなしく。まげる。 ・斷腸:腸(はらわた)を断ち切るほどの辛(つら)さ、悲しさ。
※借問漢宮誰得似:すこしおたずねするが、漢代の宮中では、誰が似通っているのだろうか。 ・借問:すこしおたずねするが。問いかけの表現。 ・漢宮:漢代の宮中。 ・得似:具合良く似ている。うまく似通っている。 ・得:ぐあいよく。うまく…できる。
※可憐飛燕倚新粧:心が揺り動かされる趙飛燕の身繕いの終わったさまであろう。 ・可憐:心が揺り動かされる。また、可哀想である。かわいい。前者の意で白居易の『長恨歌』に「承歡侍宴無濶ノ,春從春遊夜專夜。後宮佳麗三千人,三千寵愛在一身。金屋妝成嬌侍夜,玉樓宴罷醉如春。姉妹弟兄皆列土,可憐光彩生門戸。」がある。 ・飛燕:趙飛燕。漢の成帝の愛妃。美女の代名詞的な女性。 ・倚:〔い;yi3●〕たよる。すがる。よる。意味が分かりにくい語。この語義だと、趙飛燕(楊貴妃)をお化粧美人と謂っているようで、楊貴妃に対して失礼な表現になるが…。 ・新粧:メイクしたて。白粉(おしろい)を美しく塗り立て。あらたな装い。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「香腸粧」で平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)。
○●●○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2005.4.2 |
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