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一上高城萬里愁,
蒹葭楊柳似汀洲。
溪雲初起日沈閣,
山雨欲來風滿樓。
鳥下綠蕪秦苑夕,
蝉鳴黄葉漢宮秋。
行人莫問當年事,
故國東來渭水流。
咸陽城 東樓
一たび 高城に 上れば 萬里 愁ひ,
蒹葭(けんか) 楊柳 汀洲に 似る。
溪雲 初めて起こり 日 閣に 沈み,
山雨 來らんと欲して 風 樓に 滿つ。
鳥は 綠蕪(りょくぶ)に 下る 秦苑の夕(ゆふべ),
蝉は 黄葉に 鳴く 漢宮の秋。
行人 問ふこと莫(なか)れ 當年の事を,
故國 東來 渭水 流る。
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◎ 私感註釈
※許渾:晩唐の詩人。791年(貞元七年)~854年(大中八年)?。字は仲晦。丹陽の人。現・江蘇省丹陽市。陶淵明の時代では曲阿といった。鎭江市のすぐ南になる。
※咸陽城東楼:咸陽の街の東楼にて。これは覧古、弔古の詩。 ・咸陽城:秦の始皇帝が都を置いた都市。古都。故都。渭城と呼ばれた。王維の『送元二使安西』に「渭城朝雨輕塵,客舎靑靑柳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人。」
とある。現・陝西省中部、渭水の北岸にあり、西安の西北にあたる
。
※一上高城萬里愁:ひとたび高楼(たかどの)に上って、遙か彼方まで(眺めれば)もの悲しい(歴史上のことが想い出される)。 ・一上:ひとたび上る。 ・高城:高楼(たかどの)。城楼。 ・萬里:遙か彼方まで。 ・愁:もの悲しい。愁う。
※蒹葭楊柳似汀洲:アシの茂みと楊柳の茂みは、(そこが)中州であることを示している。 ・蒹葭:〔けんか;jian1jia1○○〕葦(あし)、ヨシや、荻(おぎ)、ヒメヨシなどの水辺に生えるイネ科の多年生草本の総称。 ・楊柳:〔やうりう;yang2liu3○●〕ヤナギの総称。 ・楊:カワヤナギ、ネコヤナギ。 ・柳:シダレヤナギ。 ・似:示す。動詞。ここは、…のようである、…に似ている、…の如くである、といった用法ではない。 ・汀洲:〔ていしう;ting1zhou1○○〕中州。川の中に土砂が積もって島のようになった陸地。
※溪雲初起日沈閣:渓(たに)間に雲がはじめて起こって、太陽が大きな建物の向こうに沈もうとして。 ・溪雲:渓(たに)間に生じる雲。 ・初起:たった今、起こり。たった今、出てきた。後出・梁・何遜の『相送』に「江暗雨欲來,浪白風初起。」とあるのに因る。 ・初:たった今。 ・日沈閣:太陽が大きな建物の向こうに沈む。
※山雨欲來風滿樓:山に雨が降り始めようとして、風が高殿に吹き来て満ちてきている。 *後世、この句は「事が起こるには、その前兆がある。満を持しているさま。一触即発。事変の予兆が現れる」といった意の成語の如くに使われる。南朝・梁・何遜の『相送』に「客心已百念,孤遊重千里。江暗雨欲來,浪白風初起。」とあるのに因るか。 ・山雨:山に降る雨。 ・欲來:降り始めようとしている。 ・風滿樓:風が高殿に吹き来て満ちてきている。変化の予兆をいう。
※鳥下綠蕪秦苑夕:鳥が緑色の雑草の茂った草叢(むら)に下りるが、(それは昔の)秦の御苑の夕べ(の時と同じ情景である)。 ・鳥下:鳥が…に下りる。「鳥下」という語がある訳ではない。 ・綠蕪:〔りょくぶ;lyu4wu2●○〕緑色の雑草の茂った草叢(むら)。 ・秦苑:〔しんゑん;Qin2yuan4○●〕秦の御苑。秦の始皇帝が咸陽に建設した宮殿の御苑。 ・夕:ゆうべ。宵。
※蝉鳴黄葉漢宮秋:蝉がもみじ葉に鳴いたのも、漢の宮居の秋(の情景に同じである)。 ・蝉鳴:蝉が鳴く。 ・黄葉:もみじ葉。 ・漢宮:漢の宮殿。
※行人莫問當年事:通り過ぎて行く(人生の)旅人よ、その当時のできごとを尋ねてくださるな。 ・行人:道を通り行く人。旅人。 ・莫問:尋ねてくださるな。 ・當年:その当時。昔。往時。 ・事:できごと。事件。
※故國東來渭水流:昔の国都を渭水は(自然の掟通りに)東流して(去って)いく。 ・故國:故都。ここでは、咸陽のことになる。 ・東來:やや意味が分かりにくい。「東去」「往東」の意か。中国の河は東流することが天地の理(ことわり)である。 ・渭水:渭河。咸陽と長安の間を劃するように東に向かって流れて黄河に注ぐ大河。。 ・渭水流:(歴史的)時間は流れ去る、の意も含まれる。『論語・子罕篇』「子在川上曰:逝者如斯夫,不舎晝夜。」に同じ。 ・渭水:黄河の大支流で咸陽の南を東流する大河
。甘粛省南東部に発して東流し、陜西省に入って潼関附近で黄河に注ぎ込む大河。渭河。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「愁洲樓秋流」で平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。「當」は両韻で、ここでは○。
●●○○●●○,(韻)。
○○○●○○○。(韻)
○○○●○●●,
○●●○○●○。(韻)
●●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2005.4. 3 4. 9完 2012.4.10補 |
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