月明星稀霜滿野,
氈車夜宿陰山下。
漢家自失李將軍,
單于公然來牧馬。
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胡笳の曲
月 明(あきら)かに 星 稀(まれ)に 霜 野(や)に滿つ,
氈車(せんしゃ) 夜 宿(しゅく)す 陰山の下(もと)。
漢家 李將軍を 失ひしより,
單于(ぜんう) 公然と 來りて 馬を牧す。
◎ 私感註釈 *****************
※胡笳曲:楽府題。辺疆の異民族を暗示する。 ・胡笳:北方の異民族の民吹く葦笛。なお、参考までに漢魏・蔡文姫に胡笳十八拍(我生之初尚無爲)第一拍〜第六、胡笳十八拍(日暮風悲兮邊聲四起)第七拍〜第十二
、胡笳十八拍(不謂殘生兮卻得旋歸)第十三拍〜第十八拍
と、悲憤詩 一(漢季失權柄)
、悲憤詩 二(邊荒與華異)
、悲憤詩 三(去去割情戀)
、悲憤詩 七言騒体(嗟薄
兮遭世患)
がある。唐・王昌齡の『出塞』はこの『胡笳曲』とは逆のことを「秦時明月漢時關,萬里長征人未還。但使龍城飛將在,不ヘ胡馬渡陰山。」
と詠う。辛棄疾の『滿江紅』「漢水東流,キ洗盡、髭胡膏血。人盡説、君家飛將,舊時英烈。破敵金城雷過耳,談兵玉帳冰生頬。想王カ、結髮賦從戎,傳遺業。」
と詠い、漢の李広の偉業を称える。
※月明星稀霜滿野:(天上に)月は(満月に近いために)明るく、(その明るさのために)星の数は少ない。 ・月明星稀:(天上に)月は(満月に近いために)明るく、(その明るさのために)星の数は少なく、(地上に)霜が原野一面に降りている。魏・曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。 慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。 青青子衿,悠悠我心。但爲君故,沈吟至今。鹿鳴,食野之苹。我有嘉賓,鼓瑟吹笙。 明明如月,何時可輟。憂從中來,不可斷絶。 越陌度阡,枉用相存。契闊談讌,心念舊恩。 月明星稀,烏鵲南飛。繞樹三匝,何枝可依。 山不厭高,水不厭深。周公吐哺,天下歸心。」
とある。 ・野:原野。
※氈車夜宿陰山下:匈奴の毛氈を張った車(群)が夜に、陰山のもとに宿泊している。 ・氈車:〔せんしゃ;zhan1ju1(che1)○○〕毛氈などを張り巡らした車。匈奴の車。 ・宿:泊まる。宿泊する。 ・陰山:内モンゴル自治区にある大山脈。陰山山脈。黄河の北岸、五原〜包頭〜呼和浩特の北側百キロメートルの山脈で、北流する黄河がこの山脈に当たって東流する。『史記巻一百十・匈奴列傳』に「築長城,自代並陰山下,至高闕爲塞。」、前出・王昌齡『出塞』に「不ヘ胡馬渡陰山。とある。
※漢家自失李將軍:漢王朝は飛将軍李廣を失ってより。 ・漢家:漢の王室。漢王朝。 ・自:…より。…から。 ・李將軍:漢の武将。飛将軍李廣のこと。李陵
の祖父。前出・王昌齡『出塞』に「但使龍城飛將在,不ヘ胡馬渡陰山」。
のこと。
※單于公然來牧馬:匈奴の單于(一族)が表だって馬の放牧にやって来ている。 ・單于:〔ぜんう;chan2yu2○○〕匈奴の王の尊称。 ・公然:表だって。おおやけに。 ・來牧馬:馬の放牧にやって来る。
◎ 構成について
韻式は「aaa」。韻脚は「野下馬」で、平水韻上声二十一馬。平仄はこの作品のもの。
○○○○○●●,(韻)
○○●●○○●。(韻)
●○●●●○○,
○○○○○●●。(韻)
2006.12. 4 12. 5 12. 6完 2020.6.26補 |
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