梁王昔全盛,
賓客復多才。
悠悠一千年,
陳迹惟高臺。
寂寞向秋草,
悲風千里來。
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宋中
梁王(りゃうわう) 昔(むかし) 全盛,
賓客 復(また) 多才。
悠悠(いういう)たり 一千年,
陳迹(ちんせき) 惟(ただ) 高臺(かうだい)のみ。
寂寞(せきばく) 秋草(しうさう)に 向かへば,
悲風 千里より 來(きた)る。
◎ 私感註釈 *****************
※高適:〔かうせき;Gao1Shi2〕盛唐代の詩人。(702年頃〜765年:廣コ二年)。字は達夫。滄州勃海の人。辺塞の離情を多くよむ。
※宋中:古代の宋の地において。陽(現・商丘市)において。 ・宋:春秋戦国時代の国名(現)河南省一帯。『中国歴史地図集』第一冊 原始社会・夏・商・春秋・戦国時期(中国地図出版社)の24−25ページ「春秋 鄭宋衛」、39−40ページの「戦国 齊魯宋」にある。(現)河南省。その一部が漢代に梁國となりその中の地(現)商丘市が梁の孝王の都・陽になる。『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期(中国地図出版社)19−20ページの「州豫州、青州、徐州刺史部」にある。この詩は『宋中十首』の其一になる。
※梁王昔全盛:漢代の梁の孝王の時代は、全盛で。 ・梁王:漢の文帝の子、梁の孝王のこと。梁の孝王が築いたものに梁苑がある。『史記・世家・梁孝王』に「孝王,竇太后少子也,愛之,賞賜不可勝道。於是孝王築東苑,方三百餘里。廣陽城七十里。」とある。梁王を詠ったものに唐・王昌齡の『梁苑』「梁園秋竹古時煙,城外風悲欲暮天。萬乘旌旗何處在,平臺賓客有誰憐。」がある。 ・全盛:〔ぜんせい;quan2sheng4○●〕この上なく盛んである。栄華をきわめる。動詞。前出『史記・世家・梁孝王』には「於是孝王築東苑,…大治宮室,爲複道,自宮連屬於平臺三十餘里。得賜天子旌旗,出從千乘萬騎。東西馳獵,擬於天子。出言蹕,入言警。」と、天子並みの勢威を誇っていた。
※賓客復多才:梁王の賓客も、多才な顔ぶれであった。 ・賓客:文士などの賓客。(孝王の)ブレーン。(孝王に招かれた)賓客。鄒陽、枚乘、司馬相如などを指す。前出・王昌齡の『梁苑』「平臺賓客有誰憐。」に同じ。前出『史記・世家・梁孝王』には「招延四方豪桀,自山以東游説之士。」とある。 ・復:また。韻文としての語調を整える働きをし、「またふたたび」の意はない。陶淵明詩に多い表現。 ・多才:いろいろな才能を多く備えているさま。
※悠悠一千年:(その時から)遥かに一千年(の歳月が流れ)。 ・悠悠:〔いういう;you1you1○○〕遠くはるかなさま。限りないさま。長く久しいさま。また、行くさま。ひまのあるさま。うれえるさま。ここは、前者の意。『詩經・王風』の『黍離』「彼黍離離,彼稷之苗。行邁靡靡,中心搖搖。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。」や、『古詩十九首之十一』の「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」や、崔(さいかう:Cui1Hao4)の七律『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡州。日暮ク關何處是,煙波江上使人愁。」や、 ・一千年:後世、日本の太宰春臺は『寧樂懷古』で「南土茫茫古帝城,三條九陌自縱。籍田麥秀農人度,馳道蓬生賈客行。細柳低垂常惹恨,閑花歴亂竟無情。千年陳迹唯蘭若,日暮野鹿鳴。」と使う。
※陳迹惟高臺:(今は)古跡が、ただの盛り土をした高い土台(として残っているだけで)。 ・陳迹:〔ちんせき;chen2ji4○●〕むかし、物事のあったあと。なごり。古跡。旧跡。唐彦謙の『金陵懷古』に「碧樹涼生宿雨收,荷花荷葉滿汀洲。登高有酒渾忘醉,慨古無言獨倚樓。宮殿六朝遺古跡,衣冠千古漫荒丘。太平時節殊風景,山自水自流。」 とある。 ・陳:ふるい。ふるくなって腐りかかったり、色が変わったりすること。 ・惟:ただ(…だけ)。=唯。 ・高臺:土が高く積み上げられたところ。高く土を積み上げたところだけになった、昔の平臺のこと。梁の孝王が梁園に築いた台の名。孝王は、ここに当代の文士を集めて宴を催した。宮殿と平台との間、三十余里を複道(=上下二重になっている廊下。諸将を望見するためのものでもある)でつなげたといわれるところ。前出・『史記・世家・梁孝王』の「大治宮室,爲複道,自宮連屬於平臺三十餘里。」のこと(紫字)。初唐・陳子昂の『薊丘覽古 燕昭王』に「南登碣石館,遙望黄金臺。丘陵盡喬木,昭王安在哉。霸圖悵已矣,驅馬復歸來。」と、似たイメージを詠うが、「黄金台」は曽て実在したもの。固有名詞で、戦国時代、燕の昭王が台を築き、台上に千金を置いて賢者を招いたと称される台。河北省易水のほとりにあった。招賢台。
※寂寞向秋草:静かにひっそりとして秋に花の咲く草に向かっていると。 ・寂寞:〔せきばく、じゃくまく;ji4mo4●●〕寂しく静かなさま。ひっそりとしてもの寂しいさま。 ・向:向かう。 ・秋草:秋に花の咲く草の総称。後世、劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡,隔林何處起人煙。山僧獨在山中老,唯有寒松見少年。」や、晏幾道の『鷓鴣天』に「醉拍春衫惜舊香,天將離恨惱疏狂。年年陌上生秋草,日日樓中到夕陽。雲渺渺,水茫茫。征人歸路許多長。相思本是無憑語,莫向花箋費涙行。」と使う。
※悲風千里來:もの寂しい思いを起こさせる秋風が、遙か彼方から吹いてきた。 ・悲風:〔ひふう;bei1feng1○○〕もの寂しい音をたてる風。悲しみの情を起こさせる風。秋風を謂う。『古詩十九首』之十四「去者日以疎,來者日以親。出郭門直視,但見丘與墳。古墓犁爲田,松柏摧爲薪。白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。思還故里閭,欲歸道無因。」とあり、東晋・陶淵明の『飮酒』其十六に「少年罕人事,遊好在六經。行行向不惑,淹留遂無成。竟抱固窮節,饑寒飽所更。弊廬交悲風,荒草沒前庭。披褐守長夜,晨鷄不肯鳴。孟公不在茲,終以翳吾情。」とある。 ・千里:遙か彼方から。長大な道のりを謂う。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「才臺來」で、平水韻上平十灰。平仄はこの作品のもの。
○○●○●,
○●●○○。(韻)
○○●○○,
○●○○○。(韻)
●●●○●,
○○○●○。(韻)
2007.6.11 6.12完 2012.9.22補 |
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