天山雪後海風寒,
橫笛偏吹行路難。
磧裏征人三十萬,
一時回首月中看。
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從軍北征
天山 雪後 海風 寒く,
橫笛 偏(ひと)へに 吹く 『行路難』。
磧(せき)裏の 征人 三十萬,
一時に 首(かうべ)を回(めぐら)して 月中に 看る。
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◎ 私感註釈
※李益:中唐の詩人。749年?(天寶八年?)~827年(太和元年)。大暦年間の進士。燕趙の間(現・河北山東の間)の軍幕にいた。辺塞詩の七絶をよくする。字は君虞。隴西姑臧の人。
※從軍北征:軍団に従って、北方の(異民族の地)へ出征する。 ・從軍:軍団に従って。 ・北征:北方の(異民族の地)へ出征する。
※天山雪後海風寒:天山の雪の次は、青海湖(せいかいこ;チンハイフーQing1hai3hu2○●○)(ココノール湖)からの風が冷たく。 ・天山:〔てんざん;Tian1shan1○○〕新疆にある祁連山〔きれんざん;Qi2lian2shan1○○○〕(チーリェンシャン)。天山一帯。当時の中国人の世界観では、最西端になる。天山山脈のこと。新疆ウイグル(維吾爾)自治区中央部タリム盆地の北を東西に走る大山系で、パミール高原の北部に至る。雪山。ここでは「異民族との戦闘の前線」の意として、使われている。唐・岑参の『胡笳歌送顏真卿使赴河隴』「君不聞胡笳聲最悲,紫髯綠眼胡人吹。吹之一曲猶未了,愁殺樓蘭征戍兒。涼秋八月蕭關道,北風吹斷天山艸。崑崙山南月欲斜,胡人向月吹胡笳。胡笳怨兮將送君,秦山遙望隴山雲。邊城夜夜多愁夢,向月胡笳誰喜聞。」
、唐・李白『戰城南』「去年戰桑乾源,今年戰葱河道。洗兵條支海上波,放馬天山雪中草。萬里長征戰,三軍盡衰老。匈奴以殺戮爲耕作,古來唯見白骨黄沙田。秦家築城備胡處,漢家還有烽火然。烽火然不息,征戰無已時。野戰格鬪死,敗馬號鳴向天悲。烏鳶啄人腸,銜飛上挂枯樹枝。士卒塗草莽,將軍空爾爲。乃知兵者是凶器,聖人不得已而用之。」
、李白の『塞下曲』「五月天山雪,無花祗有寒。笛中聞折柳,春色未曾看。曉戰隨金鼓,宵眠抱玉鞍。願將腰下劍,直爲斬樓蘭。」
、また、南宋・陸游の『訴衷情』「當年萬里覓封侯,匹馬戍梁州。關河夢斷何處? 塵暗舊貂裘。胡未滅,鬢先秋,涙空流。此生誰料,心在天山,身在蒼洲!」
とある。 ・雪後:(天山の雪を乗り越えてその)次に。 ・海風:青海から吹いてくる風。青海とは、ココノール湖(青海湖(せいかいこ:チンハイフーQing1hai3hu2)。現・青海省東北部にある湖のこと。高適の『九曲詞』に「鐵騎橫行鐵嶺頭,西看邏
取封侯。靑海只今將飲馬,黄河不用更防秋。」
とあり杜甫は『兵車行』で「長者雖有問,役夫敢申恨。且如今年冬,未休關西卒。縣官急索租,租税從何出。信知生男惡,反是生女好。生女猶得嫁比鄰,生男埋沒隨百草。君不見青海頭,古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。」
とある。
※橫笛偏吹行路難:橫笛は『行路難』の曲だけをひたすらに吹いている。 ・偏吹:それだけをひたすらに吹く。偏(ひとえ)に吹く。 ・偏:〔へん;pian1○〕…だけ。ひとえに。 ・行路難:曲名。ここでは笛で演奏している曲名のことをいう。楽府題の一。世渡りの苦しみの意。李白の『行路難』には「行路難,行路難。多岐路,今安在 。」とある。『行路難』で「金樽清酒斗十千,玉盤珍羞直萬錢。停杯投箸不能食,拔劍四顧心茫然。」と使っている。
※磧裏征人三十萬:土漠の荒れ地にいる出征軍人三十万人は。 ・磧:〔せき;qi4●〕さばく。すなはら。石の多い河原(かわら)。原野。北方の荒れ地やゴビ砂漠。現代語でもゴビ沙漠は“戈壁灘”〔Ge1bi4 tan1〕で、モンゴルのGobi(砂礫を含んだ草原)の意。 ・裏:中(に)。 ・征人:〔せいじん;zheng1ren2○○〕戦いに行っている人。また、旅人。ここは、前者の意。
※一時回首月中看:(その曲を聴いて)月明の中、一斉に(故郷の方を)ふり返った。 ・一時:その時一斉に。 ・回首:ふり返る。首(こうべ)を巡らす。 ・月中:月下に。また、月の中に。ここは、前者の意。白居易の『憶江南』「江南憶,最憶是杭州。山寺月中尋桂子,郡亭枕上看潮頭。何日更重遊。」とある。後者の意では晉の傅玄『擬天問』の「月中何有?白兔搗藥」がある。 ・看:見る。ここは「月の光の下、南の故郷の方を見た」のか。「月を見たのか」。ここは、前者の意となる。もし後者の意ならば「回首」ではなく「仰首」のような表現が相応しい。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「寒難看」で、平水韻上平十四寒。次の平仄はこの作品のもの。
○○●●●○○,(韻)
○●○○○●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○◎。(韻)
2007.9. 1完 2020.5.21補 |
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