鐵騎橫行鐵嶺頭,
西看邏取封侯。
靑海只今將飲馬,
黄河不用更防秋。
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九曲の詞
鐵騎 橫行す 鐵嶺の頭(ほとり),
西のかた 邏を看て 封侯を取らん。
青海 只今 將(まさ)に馬に飲(みづか)はんとし,
黄河 用(もち)ゐず 更に 秋を防ぐを。
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◎ 私感註釈
※高適:〔かうせき;Gao1Shi2〕盛唐代の詩人。(702年頃~765年:廣德二年)。字は達夫。滄州勃海の人。辺塞の離情を多くよむ。
※九曲詞:吐蕃(チベット民族)近くの地名に因む歌。哥舒翰が吐蕃を撃ち、黄河の九曲の地方を奪取して隴西郡を置いた祝賀のうた。当時の漢民族の最前線の一。稍離れたところに涼州もある。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)「唐時期 吐蕃」76-77ページにある。青海東岸の南100キロメートルに九曲軍(現・貴南)がある。
※鐵騎橫行鐵嶺頭:(我が軍の)武装した騎馬部隊が、大威張りで闊歩している。 ・鐵騎:〔てつき;tie3ji4●●〕騎馬兵。武装した軍馬。ここでは、味方(漢民族側)の軍隊を指す。「騎」字は名詞〔ji4●〕で、動詞〔qi2○〕と別れる。ここは、前者の意。 ・橫行:思いのままに、大威張りで歩く。また、のさばる。むちゃくちゃなことをして暴れ回る。気まま勝手に歩き回る。ここは、前者の意。 ・鐵嶺:地名。前出『中国歴史地図集』「唐時期 吐蕃」でそれらしいところを探すと、賀蘭山、赤嶺、紫山(悶摩黎山)、難磨あたりになろうか。 ・頭:辺り。ほとり。上。
※西看邏取封侯:西の方のラサを看て、諸侯に取り立てられるように手柄を立てようと奮い立った。 ・邏
:〔Luo2sha?◎?〕ラサ。現在のチベットにあるチベット自治区の区政府の所在地ラサのこと。敵の本拠地、の意で使われている。九曲の西南1000キロメートルのところにある。なお、現代語では「拉薩」〔La1sa3〕と書き表し、前出『中国歴史地図集』「唐時期 吐蕃」では、「邏些城」〔Luo2xie1 cheng2〕と書き表す。 ・取封侯:諸侯に取り立てられる。覓封侯。 ・封侯:諸侯に取り立てられる。諸侯の封ぜられる。貴族階級になる。王昌齡『閨怨』「閨中少婦不知愁,春日凝妝上翠樓。忽見陌頭楊柳色,悔敎夫壻覓封侯。」
や、唐・曹松の『己亥歳』に「澤國江山入戰圖,生民何計樂樵蘇。憑君莫話封侯事,一將功成萬骨枯。」
とあり、後世、南宋・陸游の『訴衷情』で「當年萬里覓封侯,匹馬戍梁州。關河夢斷何處?塵暗舊貂裘。胡未滅,鬢先秋,涙空流。此生誰料,心在天山,身在蒼洲!」
と使い、同・陸游『夜遊宮』記夢寄師伯渾で、「雪曉淸笳亂起。夢遊處、不知何地。鐵騎無聲望似水。想關河,雁門西,靑海際。 睡覺寒燈裏。漏聲斷、月斜
紙。自許封侯在萬里。有誰知,鬢雖殘,心未死。」
と使う。
※青海只今將飲馬:青海は、今やまさに(我が軍の)軍馬に水飼うところになろうとしている。(青海を今や我が軍の勢力下に収めようとしている。) ・青海:ココノール湖。中国語では青海湖(チンハイフーQing1hai3hu2)。現・青海省東北部にある湖。唐・王昌齡の『從軍行』に「青海長雲暗雪山,孤城遙望玉門關。黄沙百戰穿金甲,不破樓蘭終不還。」とあり、杜甫は『兵車行』で「長者雖有問,役夫敢申恨。且如今年冬,未休關西卒。縣官急索租,租税從何出。信知生男惡,反是生女好。生女猶得嫁比鄰,生男埋沒隨百草。君不見青海頭,古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。」
と使う。 ・只今:現在では。 ・將:まさに…となろうとしている。まさに…んとす。 ・飲馬:〔いんば;yin4ma3●●〕馬にみづかう。馬に水を飲ませる。「飲ませる」の意は〔yin4〕となる。蛇足になるが、「飲む」の意は〔yin3〕。
※黄河不用更防秋:(それ故)黄河(をして)、もはや(異民族からの侵寇に対する防禦濠)とする必要はない。 ・黄河:華北を流れる大河。水源は、紫山(悶摩黎山)(現・青海省巴顏喀拉山脈(バヤンカラ)山脈)西北部で、渭水、汾水、洛河などの支流を合わせて渤海湾に注ぐ。 ・不用:使わない。必要がない。するには及ばない。 ・更:さらに。その上。 ・防秋:秋の(収穫時期に起こる異民族の侵寇による)収奪を防ぐ。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「頭侯秋」で、平水韻下平十一尤。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
○◎◎?●○○。(韻)
○●●○○●●,
○○●●●●○。(C韻)
2007.8.5完 8.6補 |
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