三伏閉門披一衲,
兼無松竹蔭房廊。
安禪不必須山水,
滅得心中火自涼。
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夏日 悟空上人の院に題す
三伏(さんぷく) 門を閉ざして 一衲(なふ)を 披(はお)り,
兼(くは)へて 松竹の 房廊(ばうらう)を 蔭(おほ)ふ 無し。
安禪 必ずしも 山水を 須(もち)ゐずして,
心中に 滅し得て 火 自(おのづか)ら涼し。
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◎ 私感註釈
※杜荀鶴:晩唐の詩人。杜牧の末子。大順二年(891年・昭宗)に進士に合格する。字は彦之。九華山人と号す。安徽省池州の人。846(會昌六年)〜904年(天祐元年)。
※夏日題悟空上人院:夏の日に悟空上人の寺で詩を作る。 ・夏日:夏の日。 ・題:詩を作る。 ・悟空上人:僧侶の名。不明。明代の悟空はこちら。 ・院:てら。僧侶や道士の住むところ。
※三伏閉門披一衲:酷暑の候に門を閉ざして、ころもを一枚はおり。 *晉・程曉の『嘲熱客』に「平生三伏時,道路無行車。閉門避暑臥,出入不相過。今世褦襶子,觸熱到人家。主人聞客來,顰蹙奈此何。謂當起行去,安坐正跘跨。所説無一急,沓沓吟何多。疲瘠向之久,甫問君極那。搖扇臂中疼,流汗正滂沱。莫謂此小事,亦是人一瑕。傳戒諸高朋,熱行宜見訶。」とある。 ・三伏:猛暑の候。酷暑の頃。陰陽五行説に基づき、@夏至後の第三庚(かのえ)を「初伏」、A第四の庚を「中伏」、B立秋後初めての庚を「末伏」の三つの伏。その「初伏」「中伏」「末伏」の「-伏」の総称。酷暑の間。太陽暦で七月中旬から八月上旬にかけてになる。後世、南宋・陸游は『秋懷』「園丁傍架摘黄瓜,村女沿籬采碧花。城市尚餘三伏熱,秋光先到野人家。」と使う。 ・閉門:門を閉ざす。 ・披:〔ひ;pi1○〕はおる。また、ひろげる。ここは、前者の意。 ・衲:〔なふ;na4●〕僧衣。ころも。
※兼無松竹蔭房廊:くわえて、松や竹がしげって建物を覆うということも、ない。 ・兼:〔けん;jian1○〕あわせて。くわえて。兼ねて。 ・松竹:松と竹。冬の寒さに耐えて緑を保つ植物。 ・蔭:〔いん;yin4●〕おおう。かばう。かざす。しげる。動詞。 ・房廊:〔ばうらう;fang2lang2○○〕小さな建物の廊下。
※安禪不必須山水:坐禅で精神を統一するのには、山と水とのある景色を用いることを要しない。 *この聯の節奏は当然「安禪不必+須山水,滅得心中+火自涼」となろうが、意味から「安禪不必須+山水,滅得心中火+自涼」としたい衝動に駆られる。 ・安禪:〔あんぜん;an1chan2○○〕坐禅で精神を統一すること。盛唐・王維の『過香積寺』に「不知香積寺,數里入雲峰。古木無人逕,深山何處鐘。泉聲咽危石,日色冷青松。薄暮空潭曲,安禪制毒龍。」とある。 ・不必:…するに及ばない。…を要しない。いらない。必要としない。 ・須:もちいる。 ・山水:山と水。山と水とのある景色。
※滅得心中火自涼:心の中を消した結果は、火も自ずと涼しいものである。 ・滅得:(…の火を)消した結果。消けした結果。ほろぼした結果。 ・心中:心の中。 ・自涼:「亦涼」ともする。その形で『碧巖録』第四十三則の評唱に引用されている。「滅却心頭火亦涼」(心頭を滅却すれば火も亦涼し)。
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◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「廊涼」で、平水韻下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。
○●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2007. 9. 1 9. 6完 2013. 9.12補 2014.11.24 |
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