虞兮 | ||
呉偉業 |
千夫辟易楚重瞳, 仁謹居然百戰中。 博得美人心肯死, 項王此處是英雄。 |
千夫も 辟易す 楚の重瞳,
仁謹 居然たり 百戰の中。
博し得たり 美人 心に 死を肯ずるを,
項王 此の處 是れ 英雄。
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◎ 私感訳註:
※呉偉業:(明末)清初の人。号して梅村。新王朝である清に出仕するも、すぐに退隠する。詩は二朝に仕えた複雑な感情を詠ったものが多い。
※虞兮:虞美人よ。虞や。項羽の『垓下歌』「力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝。騅不逝兮可柰何,虞兮虞兮奈若何!」に基づく。項羽について詠ったことをいうための詩題。『史記・項羽本紀』に「項王則夜起,飮帳中。有美人名虞,常幸從;駿馬名騅,常騎之。於是項王乃悲歌慨,自爲詩曰:「力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝。騅不逝兮可柰何,虞兮虞兮奈若何!」歌數美人和之,。項王泣數行下,左右皆泣,莫能仰視。」とある。 ・兮:〔けい;xi1○〕詩歌で語調をととのえ、強めるため、節奏の切れ目の部分に現れる辞。上古詩に多い。
※千夫辟易楚重瞳:多くの男が驚き恐れて後ずさりするのは、楚の国の瞳(ひとみ)が二つある人物(=項羽のこと)であって。 ・千夫:多くの男。 ・辟易:〔へきえき;bi4yi4●●〕驚き恐れて後ずさりする。驚き退く。たじろぐ。道を辟(さ)けて場所を易(か)える意(相手をおそれ、道をあけて立ちのくこと)。 ・楚重瞳:楚の国の瞳(ひとみ)が二つあった項羽のこと。西楚覇王・項羽のこと。 ・重瞳:〔ちょうどう;chong2tong2○○〕一つの目に瞳(ひとみ)が二つあること。人なみ優れた人物の相。項羽や舜、李Uがそうであると云われる。『史記・項羽本紀』の最終部分に「太史公曰:吾聞之周生曰『舜目蓋重瞳子』,又聞項羽亦重瞳子。」とある。
※仁謹居然百戰中:(項羽は)多数の戦いの中でも、いつくしみつつしんで、どっしりすわって動かないでいる。 ・仁謹:いつくしみつつしむ。「仁敬」ともする。 ・居然:〔きょぜん;ju1ran2○○〕どっしりすわって動かないさま。そのまま。安らかなさま。また、つれづれ。てもちぶたさ。こともあろうに。意外にも。ここは、前者の意。
※博得美人心肯死:(項羽は、)進んで(共に)死んでもいいという虞美人の思いを大いに得たが。 ・博:大いに得る。取る。また、あまねくゆきわたる。(幅が)ひろい。広く通じている。手広い。ここは、前者の意。 ・得:…た結果。動詞に附き、動詞の程度・結果・方法を表す。 ・美人:女官の職位で、ここでは虞美人のことになる。 ・心:ここでは、(虞美人の)思い。 ・肯:うべなう。がえんじる。よいとして、心から進んで。承諾する。ひきうける。虞美人は「漢兵已略地,四方楚歌聲。大王意氣盡,賤妾何聊生。」と、項羽と共に死ぬことを願った。
※項王此處是英雄:項羽は、この点では、英雄であった。 ・項王:西楚覇王・項羽のこと。 ・此處:この点。虞美人の殉死を得られたという点。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。ここでは、「〔項王此處〕+是〔英雄〕」「項王の此處は、英雄である」ということになる。 ・英雄:才能、武略などが非常にすぐれた人。項羽をどう見るかで、杜牧は『題烏江亭』「勝敗兵家事不期,包羞忍恥是男兒。江東子弟多才俊,捲土重來未可知。」と見る。
◎ 構成について
2009.5.20 |
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