喪亂才生汝, 全家竄道邊。 畏啼思便棄, 得免意加憐。 兒女閼餘劫, 干戈逼小年。 興亡天下事, 追感倍淒然。 |
亡女 を哭 す 三首 其の一
喪亂 才 めて汝 を生 み,
全家 道邊 に竄 る。
啼 くを畏 れ便 ち棄 てんことを思ひ,
免 るるを得 て 意憐 みを加 ふ。
兒女 餘劫 に閼 せられ,
干戈 小年 に逼 る。
興亡 天下の事,
追感 すれば倍 す淒然 たり。
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◎ 私感訳註:
※呉偉業:(明末)清初の人。明・萬暦三十七年(1609年)〜清・康煕十年(1671年)。号して梅村。新王朝である清に出仕するも、すぐに退隠する。詩は二朝に仕えた複雑な感情を詠ったものが多い。
※哭亡女:亡くなった娘を悼む。 *三首 其の一 ・哭:〔こく;ku1●〕(死者を悼むために)声をあげて泣く。人の死に際して、儀礼的に大声で泣くこと。 ・亡女:むすめを亡くす。
※喪乱才生汝:世が乱れた時に、ようやく、おまえを生んだ(が)。 ・喪乱:人が死んだり、禍が起こったりする意。世が乱れること。 ・喪:sang1○:名詞。sang4●:動詞。 ・才:(副詞)いましがた。たったいま。やっと。ようやく。わずかに。…だけ。 ・汝:おまえ。なんじ。ここでは、自分の娘を指す。
※全家竄道辺:(その時は)一家全部が道端(みちばた)を逃げ回っていた。 ・全家:一家全部。全家族。 ・竄:〔ざん、さん;cuan4●〕隠れる。逃(のが)れる。逃げる。逃げ回る。 ・道辺:道端(みちばた)。また、約束の言葉を国境守備隊に告げる。ここは、前者の意。
※畏啼思便棄:(赤ん坊の)泣き声(で隠れていることが発覚するの)を恐れて、棄てようと思った(が)。 ・畏:おそれる。どこともなしにおそれはばかる。 ・啼:声を出して泣く。 *「なく」について: 「啼」は、(泣き)声を出すことで、 「泣」は、(泣いて)涙を流すこと。 ・便:(副詞)もう。すぐに。すなわち。
※得免意加憐:(不幸な事態は、一時)免れることができたので、(赤子に対する)憐(あわ)れみが倍加した。 ・得免:免れることができる、意。 ・憐:あわれむ。同情する。
※児女閼餘劫:むすめは、最後の災厄に塞(ふさ)がれ。 ・児女:むすめ。女の子。 ・閼:〔あつ、あ;e4●〕塞(ふさ)ぐ。塞がる。とどめる。さえぎる。 ・餘劫:最後の災厄。
※干戈逼小年:戦争は、(むすめを)短命に追いやった。 ・干戈:〔かんくゎ;gan1ge1○○〕戦(いくさ)。戦争。本来は、干(たて)と戈(ほこ)といった武器。南宋・文天祥の『過零丁洋』に「辛苦遭逢起一經,干戈寥落四周星。山河破碎風飄絮,身世浮沈雨打萍。惶恐灘頭説惶恐,零丁洋裏歎零丁。人生自古誰無死,留取丹心照汗青。」とある。 ・逼:〔ひつ;bi1●〕せまる。近づく。縮まる。接近する。追いつめる。無理に…させる。 ・小年:寿命の短いこと。『莊子・逍遙遊』に「小知不及大知,小年不及大年。奚以知其然也?朝菌不知晦朔,蟪蛄不知春秋,此小年也。」とある。
※興亡天下事:興隆と衰亡とは、(個人の力では如何ともし難(がた)い)国家の大事であり。 ・興亡:興(おこ)ることと亡(ほろ)びること。興(おこ)っては、亡(ほろ)んでいくこと。「亡」の意味の方が強いことに留意。興廃。盛衰。南宋・辛棄疾の『南ク子』「登京口北固亭有懷」に「何處望~州?滿眼風光北固樓。千古興亡多少事?悠悠。不盡長江滾滾流。」とある。 ・天下事:国家の大事。
※追感倍淒然:(当時を)思い起こせば、ますます悲しみ痛んでくる。 ・追感:思い起こす。 ・倍:ますます。 ・凄然:悲しみ痛むさま。
◎ 構成について
2019.3.17 3.18 3.19 |
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