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辛酉二月出寺蓄髮時作 |
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伴林光平 | ||
本是神州淸潔民, 謬爲佛奴説同塵。 如今棄佛佛休恨, 本是神州淸潔民。 |
本是れ 神州 淸潔の民,
謬って 佛奴と爲りて 同塵を説く。
如今 佛を棄つ 佛 恨むを休めよ,
本是れ 神州 淸潔の民。
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河内国志紀郡林村の尊光寺平成21.3.18 姓の由来の伴林神社 尊光寺門前の碑(前面)辞世の和歌 「…八尾教恩寺ニ在リ…」とある。(裏面)
◎ 私感註釈
※伴林光平:江戸時代末期の勤王の志士で、国学者、歌人。攘夷を主張する。文化十年(1813年)?~文久四年(1864年)。幼名は信丸。通称は左京、六郎。法名は大雲坊、周永。号して蒿斎。変名して並木春蔵と名のる。姓の伴林は、生家近く(北200メートル)にある伴林神社に由来するという。河内国志紀郡林村(現・藤井寺市林)の尊光寺
に生まれ、仏道、漢学、国学、和歌を修める。孝明天皇の攘夷親征の意を体しての天誅組義挙に際し、駆けつけて加わるが、事敗れて処刑された。辞世に:
君が代は巖と共に動かねば 碎けてかへれ沖つ白波
(生家の尊光寺門前の碑にこの辞世が彫られている。写真:左列の下)がある。
※辛酉二月出寺蓄髮時作:辛酉年(文久元年(1861年))に、八尾の教恩寺から住持の職を擲って出奔し、髪を伸ばし還俗し、(勤王の志士として活動し始め)た時。 ・辛酉:〔しんいう;xin1you3○●〕かのととり。この詩の時期の場合、文久元年(1861年)のことになる。 ・出寺:住持としていた八尾の教恩寺(現在不明。生家の尊光寺門前にある碑には「…八尾教恩寺ニ在リ…」(写真:右列の下)とあり、確かな寺院名)からの出奔を謂う。 ・蓄髮:(剃髪していたのを)髪を伸ばす。 *絶句では、起句と結句との平仄が同じことから、このようにもなし得るが、(ふざけて作ったというのは別として、わたし自身の経験では、)中国の伝統的な近体詩では、このような例は北宋・蘇軾の『廬山煙雨』「廬山煙雨浙江潮,未到千般恨不消。到得還來別無事,廬山煙雨浙江潮。」
等の外あまりない(と思う)。
※本是神州清潔民:(わたしは)本来は、神の国である日本の清潔を重んじる民であった(が)。 ・本是:もと…。本来…。 ・神州:わが国・日本の美称。神国。自国の美称。中国の豪放詩詞では中国の美称。とりわけ漢民族の故地・中原一帯を指す。『晋書巻九十八・列伝第六十八・桓温』に「(桓)温自江陵北伐,行經金城,見少爲琅邪時所種柳皆已十,慨然曰:『木猶如此,人何以堪!』攀枝執條,然流涕。於是過淮泗,践北境,與諸僚属登平乖樓,眺矚中原,慨然曰:『遂使神州陸沈,百年丘墟,夷甫諸人不得不任其責』」とある。胡世將の『酹江月』秋夕興元使院作,用東坡赤壁韻に「神州沈陸,問誰是、一范一韓人物。北望長安應不見,抛卻關西半壁。塞馬晨嘶,胡笳夕引,嬴得頭如雪。三秦往事,只數漢家三傑。」や、辛棄疾の『水龍吟』甲辰歳壽韓南澗尚書「渡江天馬南來,幾人眞是經綸手。長安父老,新亭風景,可憐依舊。夷甫諸人,神州沈陸,幾曾回首。算平戎萬里,功名本是,眞儒事、公知否。 況有文章山斗,對桐陰、満庭淸晝。當年墮地,而今試看,風雲奔走。綠野風煙,平泉草木,東山歌酒。待他年 整頓,乾坤事了,爲先生壽。」
と使われている。日本での用例に、藤田東湖の『和文天祥正氣歌』「天地正大氣,粹然鍾 神州。秀爲不二嶽,巍巍聳千秋。注爲大瀛水,洋洋環八洲。發爲萬朶櫻,衆芳難與儔。」
がある。 ・淸潔民:日本の国民を謂う。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の黄泉国からの帰還以降、御祓を重んじ、浄明正直の心を尊んだ日本の民草のこと。
※謬為仏奴説同塵:まちがって、仏(ほとけ)の僕(しもべ=僧侶)となって、仏法を説いていた。 ・謬爲:まちがって…となる。 ・佛奴:仏(ほとけ)の僕(しもべ)。僧侶を謂う。 ・説:物事を分けて明らかにする。解釈する。説(と)く。言う。述べる。 ・同塵:「和光同塵」を指す。仏が衆生(しゅじょう)を救うために、その本地(本来)の智慧の力を隠しやわらげ、人間界に姿を変えて現れること。ここでは仏法を説くことをいう。もと『老子』のことばより出る。
※如今棄仏仏休恨:今、仏道の修行を棄てようとしているが、仏陀よ、恨まないでほしい。 ・如今:いま。ただいま。現今。 ・棄佛:(外来の)仏教を棄てて、日本古来からの神聖な存在である天皇のために尽くすこと。 ・休:やめる。 ・恨:(自分に対して)残念に思う。うらみに思う。「咎」ともする。意味の上からでは、「咎」の方がよい。「仏休咎」(仏(ぶつ) 咎(とが)むるを休(や)めよ)。
※本是神州淸潔民:(わたしは)本来は、神国・日本の清潔を重んじる民である(からだ)。 *絶句では、起句と結句との形(平仄・押韻)が同じことから、このようにもなし得る。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「民塵民」で、平水韻上平十一真。平仄はこの作品のもの。
●●○○○●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○●●●○●,
●●○○○●○。(韻)
平成21.3.16 3.17完 3.18写真 平成24.2.26 |
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