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皇統歌 | ||
大窪詩佛 |
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天地開闢來, 大統長相傳。 天子無姓氏, 正知姓是天。 天皇如日月, 萬古無變遷。 誰道周德盛, 劣能八百年。 爲嬴爲劉後, 至今已二千。 其閒幾姓氏, 相代互忽焉。 如何日出國, 相傳自綿綿。 |
天地 開闢より來 ,
大統長 に相 ひ傳ふ。
天子姓氏 無く,
正 に知る 姓は是 れ天 なるを。
天皇は日月 の如し,
萬古 變遷 無し。
誰 か道 ふ周 德盛 んなりと,
劣 に能 く 八百年。
嬴 爲 り劉 爲 るの後 ,
今に至るまで已 に二千。
其の閒幾 姓氏,
相 ひ代 りて互 ひに忽焉 たり。
如何 ぞ日 出 る國,
相 ひ傳へて自 ら綿綿たるに。
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◎ 私感註釈
※大窪詩仏:江戸中・後期の詩人。明和四年(1767年)~天保八年(1837年)名は行。字は天民。通称は柳太郎。号して詩仏。常陸国(現・茨城県)の人。市河寛斎の江湖詩社で詩を学び、神田お玉が池に詩聖堂を営んだ文化・文政時代の詩壇の中心人物。
※皇統歌:天子の血統の歌。 ・皇統:天皇の血筋。また、天皇が国を統治すること。ここは、前者の意。
※天地開闢来:天と地が開けて、世が始まって以来。 ・開闢:〔かいびゃく;kai1pi4○●〕ひらく/ひらける。「天地開闢」で、天と地が開け始める。世界の始まり。 ・来:そののち。以来。(…より)このかた。
※大統長相伝:天子の血筋を、とこしえに代々に伝えている。 ・大統:〔だいとう;da4tong3●●〕天子の血筋。前出の「皇統」に同じ。 ・長:とこしえに。 ・相伝:何代も受け継ぐ。代々に伝わる。
※天子無姓氏:天皇は、名字(みょうじ)を持たないとされている(が…)。 *古来、天皇は氏姓及び名字を持たないとされている。 ・姓氏:姓(かばね)と氏(うじ)。また、苗字(みょうじ)。血縁集団を意味し、同一の祖先に出自し、同一の祖神を信奉する血縁集団を指す。「氏」は:同一の祖先から分岐した家族の意。=氏姓。
※正知姓是天:正(まさ)しく、姓は「天」(てん/あま/あめ)であることが分かった。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・天:天であり、「あめ」「あま」。『舊唐書・倭國・日本國傳』には「その王の姓は『あめ(あま)』という」とある(=後出)。皇祖神に「アマ(ツ)…」「アメ(ノ)…」などが多くある。ただし、天皇は氏姓及び名字を持たないとされている。『舊唐書・倭國・日本國傳』(列傳第一百四十九上 東夷 舊唐書卷一百九十九上 中華書局版五三四〇頁 1362ページ)に「倭國者,古倭奴國也。去京師一萬四千里,在新羅東南大海中。依山島而居,東西五月行,南北三月行。世與中國(※ここ(『二十四史』中)の「中國」は「中央・都」の意で、固有名詞を表す下線を附けるところではない。)通。其國,居無城郭,以木爲栅,以草爲屋。四面小島五十餘國,皆附屬焉。其王姓阿毎(あめ/あま)氏,置一大率,檢察諸國,皆畏附之。設官有十二等。」とある。
※天皇如日月:天皇は、太陽や月のように。
※万古無変遷:永遠に変わることがない。*「万古不易」を謂う。永久に変わらないこと。 ・万古:〔ばんこ;wan4gu3●●〕永久。永遠。また、遠い昔。大昔から今に至るまでの久しい間。ここは、前者の意。杜牧の『悲呉王城』に「二月春風江上來,水精波動碎樓臺。呉王宮殿柳含翠,蘇小宅房花正開。解舞細腰何處往,能歌女逐誰迴。千秋萬古無消息,國作荒原人作灰。」
とあり、權德輿の『蘇小小墓』に「萬古荒墳在,悠然我獨尋。寂寥紅粉盡,冥寞黄泉深。蔓草映寒水,空郊曖夕陰。風流有佳句,吟眺一傷心。」
とあり、劉希夷(劉廷芝)の『公子行』に「傾國傾城漢武帝,爲雲爲雨楚襄王。古來容光人所羨,況復今日遙相見。願作輕羅著細腰,願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親,與君雙棲共一身。願作貞松千歳古,誰論芳槿一朝新。百年同謝西山日,千秋萬古北
塵。」
とあり、日本・江戸・梁川星巖の『大楠公』に「豹死留皮豈偶然,湊川遺蹟水連天。人生有限名無盡,楠氏精忠萬古傳。」
とある。
※誰道周徳盛:周の王朝は人民を教化する徳の力が盛んであったと、一体誰言ったのか。 ・道:言う。 ・周:古代の王朝。西周と東周。紀元前1027年?~前256年。姫(き)氏の国。殷(=商)に従属していたが、西伯(=文王)の治世の後を継いでその子・武王が殷王・紂を滅ぼして建国。鎬京に都をおき、封建制をしき、華北中原を支配した。 ・徳:人民を教化する力。おしえ。価値ある行ない。
※劣能八百年:やっと八百年(ではないか)。 ・劣:わずかに。やっと。 ・能:よく。 ・八百年:周(西周)の建国(=紀元前1027年?)から滅亡(前256年)までの間の概算の年数。
※為嬴為劉後:嬴(えい:秦の帝室の姓)となり、劉(りゅう:漢の帝室の姓)となった後。 ・為:…となる。…たり。 ・嬴:〔えい;Ying2○〕秦の帝室の姓。 ・劉:〔りう;Liu2○〕漢の帝室の姓。
※至今已二千:今に至るまで、すでに二千年経(た)った(が)。 ・至今:今にいたる(も)。 ・已:とっくに。すでに。 ・二千:二千年。後漢の末(220年:献帝による曹丕への禅譲=後漢滅亡)以降、この詩を作った江戸時代中後期(:1800年過ぎ)までの間の概算の年数(:1580年間ほど)。或いは、秦の滅亡(:紀元前206年)以降、この詩を作った江戸時代中後期(:1800年過ぎ)までの間の概算の年数(:1790年間ほど)。また、日本の事と考えると:神武天皇即位(紀元前660年)以降、この詩を作った江戸時代中後期(1800年過ぎ)までの間の概算の年数(:2460年間ほど)。
※其間幾姓氏:その間(=その二千年の間)に、どれほど(王朝の交替があり、帝室の)姓が替わったことであろうか。 *周は姫、秦は嬴、漢は劉、新は王、魏は曹、呉は孫、蜀は劉、晋は司馬、隋は楊、唐は李、宋は趙、元は?、明は朱、清は愛新覚羅。この外に、春秋時代、戦国時代の諸国、五胡十六国、南北朝の各王朝、五代十国などの各帝室がある。
※相代互忽焉:交代していくのが慌ただしい。 ・忽焉:〔こつえん;hu1yan1●○〕見定めがたいさま。たちまち。突然。
※如何日出国:日が昇る処の国・日本では、どのようであるか(と謂えば)。 ・如何:どのようであるか。どのようにするか。いかに。 ・日出国:日が昇る処の国・日本のこと。推古朝の聖徳太子が関わった国書「日出處天子致書日沒處天子無恙。」で、煬帝は「不悦」と、気分を害した。『隋書・東夷・倭國』では「帝覽之不悅,謂鴻臚卿曰:『蠻夷書有無禮者,勿復以聞。』」と、外務大臣にぼやいた。『日本樂府』の註記(写真:右)では「神武天皇起於日向,東征平定山跡,都之曰:大和,又曰:日本,遂以爲國號。推古帝時,遣使遺隋主書曰:『日出處天子,致書日沒處天子無恙。』及通於唐,未嘗受其册封。詔令之式,稱大日本天皇。又稱大八洲天皇,國有八洲也。」(句読点は変えた)。*江戸後期・頼山陽の『日本樂府・日出處』に「日出處,日沒處,兩頭天子皆天署。扶桑鷄號朝已盈,長安洛陽天未曙。嬴顛劉蹶趁日沒,東海一輪依舊出。」とある。
※相伝自綿綿:(皇統を)代々受け継いで伝えて、いつまでも絶えることがない。 ・綿綿:〔めんめん;mian2mian2○○〕長々と続いて絶えないさま。事細かなさま。安静なさま。かすかなさま。東晉・陶潛の『始作鎮軍參軍經曲阿作』に「弱齡寄事外,委懷在琴書。被褐欣自得,屡空常晏如。時來苟宜會,宛轡憩通衢。投策命晨旅,暫與園田疎。眇眇孤舟遊,綿綿歸思紆。我行豈不遙,登降千里餘。目倦川塗異,心念山澤居。望雲慚高鳥,臨水愧遊魚。眞想初在襟,誰謂形迹拘。聊且憑化遷,終反班生廬。」とあり、中唐・白居易の『長恨歌』に「含情凝睇謝君王,一別音容兩渺茫。昭陽殿裡恩愛絶,蓬莱宮中日月長。回頭下望人寰處,不見長安見塵霧。唯將舊物表深情,鈿合金釵寄將去。釵留一股合一扇,釵擘黄金合分鈿。但敎心似金鈿堅,天上人間會相見。臨別殷勤重寄詞,詞中有誓兩心知。七月七日長生殿,夜半無人私語時。在天願作比翼鳥,在地願爲連理枝。天長地久有時盡,此恨綿綿無絶期。」
とあり、唐・蔡希寂の『洛陽客舍逢祖詠留宴』に「綿綿鐘漏洛陽城,客舍貧居絶送迎。逢君貰酒因成醉,醉後焉知世上情。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAAAA」。韻脚は「傳天遷年千焉綿」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
○●○●○,
●●○○○。(韻)
○●○●●,
●○●●○。(韻)
○○○●●,
●●○●○。(韻)
○●○●●,
●○●●○。(韻)
○○○○●,
●○●●○。(韻)
○○●●●,
○●●●○。(韻)
○○●●●,
○○●○○。(韻)
平成26.6.18 6.19完 平成29.5. 4補 5. 5 |
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