Huanying xinshang Ding Fengzhang de zhuye




                    
                   
      公子行
              
                  劉希夷(劉廷芝) 
天津橋下陽春
天津橋上繁華

馬聲廻合青雲外,
人影搖動綠波

綠波蕩漾玉爲

青雲離披錦作

可憐楊柳傷心樹,
可憐桃李斷腸

此日遨遊邀美女,
此時歌舞入娼

娼家美女鬱金

飛去飛來公子

的的珠簾白日映,
娥娥玉顏紅粉

花際裴回雙蛺蝶,
池邊顧歩兩鴛

傾國傾城漢武帝,
爲雲爲雨楚襄

古來容光人所

況復今日遙相

願作輕羅著細腰,
願爲明鏡分嬌

與君相向轉相

與君雙棲共一

願作貞松千歳古,
誰論芳槿一朝

百年同謝西山日,
千秋萬古北邙



******

公子行       
                       
天津橋下  陽春の水
天津橋上  繁華の子。
馬聲 廻合
(くゎいがふ)す  青雲の外,
人影 搖動
(えうどう)す  綠波の裏。
綠波 蕩漾
(たうやう)として  玉を 砂と爲し,
青雲 離披
(りひ)として  錦を 霞と作す。
憐む可
(べ)し 楊柳(やうりう)  傷心の樹,
憐む可
(べ)し 桃李(たうり)  斷腸の花。
此の日 遨遊
(がういう)して  美女を 邀(むか)へ,
此の時 歌舞して  娼家
(しゃうか)に入る。
娼家の美女  鬱金香
(うっこんかう)
飛び去り 飛び來
(きた)る  公子の傍(かたはら)
的的たる 珠簾  白日に 映
(は)え,
娥娥
(がが)たる 玉顏  紅粉もて 妝(よそほ)ふ。
花際 裴回
(はいくゎい)す  雙 蛺蝶(けふてふ)
池邊 顧歩す  兩 鴛鴦
(ゑんあう)
國を傾け 城を傾く  漢の武帝,
雲と爲り 雨と爲る  楚の襄王
(じゃうわう)
古來 容光
(ようくゎう)は  人の羨(うらや)む所,
(いは)んや復(ま)た 今日  遙かに相ひ見るをや。
願はくは 輕羅
(けいら)と作(な)りて  細腰(さいえう)に 著(つ)かん,
願はくは 明鏡
(めいきゃう)と爲りて  嬌面(けうめん)を 分かたん。
君と 相ひ向ひて  轉
(うた)た 相ひ親しみ,
君と 雙
(なら)び棲(す)みて  一身を共にせん。
願はくは 貞松
(ていしょう)と作(な)りて  千歳に古(ふ)りなん,
(たれ)か論ぜん  芳槿(はうきん) 一朝(いつてう)に新たなるを。
百年 同
(おなじ)く 謝す  西山の日,
千秋 萬古  北邙
(ほくばう)の塵。

*****************


◎ 私感註釈

※劉廷芝:劉希夷。初唐の詩人。永徽二年(651年)~儀鳳三年(678年)。二十八歳という若さで、命を落とす。字は希夷。或いは廷芝。『舊唐書・志・楚詞類』では『劉希夷集』とある。汝州(現・汝州市)の人。二十四歳で進士に合格するが、仕官せずに巴蜀、江南を遊覧する。『舊唐書・列傳・文苑中・喬知之弟』に「時又有汝州人劉希夷,善爲從軍閨情之詩,詞調哀苦,爲時所重,志行不修,爲姦人所殺。」とある。

※公子行:劉希夷の二つの代表作。公子(男性)の一生を歌ったもので、女性の一生を歌った『白頭吟(代悲白頭翁)』「洛陽城東桃李花,飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色,行逢落花長歎息。今年花落顏色改,明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪,更聞桑田變成海。古人無復洛城東,今人還對落花風。年年歳歳花相似,歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子,應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐,伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下,清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」とともに「詞調哀苦」で有名である。この『公子行』は、『白頭吟(代悲白頭翁)』同様、全篇の殆どが対句で構成されている見事なものである。

※天津橋下陽春水:洛陽の都の天津橋の下を流れる、暖かな春の時節の水。 ・天津橋:洛陽の都の南にあった橋。隋・煬帝が洛陽に都を遷した時、架した橋で、洛水を天の川に比して「天津」(天の川の渡し場)と名づけた。旧洛陽は洛水を挟んでおり、宮城の南に皇城があり、その正門が「端門」で、更にその真南にあるのが「天津橋」になる。この橋の道というのが、街路中央に御道(天子行幸路)が備えられた御成道であるという洛陽の代表的な道であり、この天津橋は、洛陽を代表的する橋になる。ただ、現在は「天津橋跡」という小さな石碑が道路にあるだけになっている、とのことである。後世、白居易の『和友人洛中春感』には「莫悲金谷園中月,莫歎天津橋上春。若學多情尋往事,人間何處不傷神。」などとある。 ・陽春:陽気の満ちた暖かな春の時節。 ・水:ここでは、洛水川の流れのことになる。

※天津橋上繁華子:洛陽の都の天津橋の上を行き交う、今を盛りと栄えている貴公子(たち)。 ・繁華子:華やかに栄え賑わう若者(たち)。全盛を謳歌している貴公子(たち)。

※馬聲廻合青雲外:馬の嘶きが交わり合って青空の彼方にまで伝わっていく。 ・馬聲:馬の嘶き。 ・廻合:〔くゎいがふ;hui2he2○●〕めぐりあう。めぐり集まる。交わり合う。「迴合」ともする。 ・青雲:青みがかった雲。青空。 ・外:…の向こうまで。

※人影搖動綠波裡:人の姿が緑色の波の内に(反射して)揺れ動いている。 ・人影:人の姿。 ・搖動:〔えうどう;yao2dong4○●〕揺れ動く。 ・綠波:緑色の波。「波」とみれば、澄んだ水の波。 ・裡:…の内。ここでは、人影が川面に映っているさまをいう。

※綠波蕩漾玉爲砂:緑色に澄んだ波は、揺れ動き漂って、(恰も)玉(ぎょく)を砂にした(かのようである)。 ・蕩漾:〔たうやう;dang4yang4●●〕(水、波などが)揺れ動く。漂う。ここは「清迥」ともする。 ・玉爲砂:(恰も)玉(ぎょく)を砂にした(かのようである)。「以玉爲砂」の意。玉のような砂である。

※青雲離披錦作霞:青空が離れ拡がって、(恰も)錦(にしき)を夕焼けにした(かのようである)。青空が分断されて、錦のような夕焼けになっている。 ・離披:〔りひ;li2pi1○◎〕分離するさま。離れ拡がる。花がぱっと開く。 ・錦作霞:(恰も)錦(にしき)を夕焼けにした(かのようである)。「以錦作霞」の意。錦のような夕焼けである。 ・作:なす。なる。上句「綠波蕩漾玉爲砂」の「爲」と同義。樂府体なので強く平仄を意識しないが、やはり歌う時の口調や唐代人としての平仄の知識等との関係で、上句は「○○●●●○○」の様式に合致しており、下句「青雲離披錦作霞」は「雲」の部分が不適合だが、「●●○○●●○」の様式に近くなっている。 ・霞:夕焼けや朝焼け。中国の詩詞では、あまり「かすみ」の意では使わない。蛇足になるが、「かすみ状」の表現は「煙」「靄」「霧」「茫」…になろうか。

※可憐楊柳傷心樹:憐れむべし、楊柳の緑は傷心の樹で。ああ、楊柳の木は胸に迫る緑色である。李白の『菩薩蠻』「平林漠漠煙如織,寒山一帶
傷心碧。暝色入高樓,有人樓上愁。玉階空佇立,宿鳥歸飛急,何處是歸程,長亭更短亭。」 など、風景に接して感情が盛り上がってくる。ここでは、春愁、惜春の情を謂う。 ・可憐:強く心に感じたさまを表す。普通では、いじらしく、かわいらしいこと。また、哀れであることの意で『企喩歌』「男兒可憐蟲,出門懷死憂。尸喪狹谷中,白骨無人收。」 や元の『醉太平』〔正宮調〕「堂堂大元,奸佞專權,開河變鈔禍根原,惹紅巾萬千。官法濫,刑法重,黎民怨;人喫人,鈔買鈔,何曾見;賊做官,官做賊,混賢愚;哀哉可憐。」 になるが、ここでは、強い感動を表す意で使われている。辛棄疾の「渡江天馬南來,幾人眞是經綸手。長安父老,新亭風景,可憐依舊。」や白居易の『長恨歌』「姉妹弟兄皆列土,可憐光彩生門戸。遂令天下父母心,不重生男重生女。」などの後者の方になる。 ・楊柳:〔やうりう;yang2liu3○●〕ヤナギの総称。「楊」はカワヤナギ。「柳」はシダレヤナギ。 ・傷心:〔しゃうしん;shang1xin1○○〕心を傷(いた)めること。悲しく思うこと。

※可憐桃李斷腸花:憐れむべし、桃李は斷腸の花だ。杜甫に『春望』「國破山河在,城春草木深。
感時花濺涙,恨別鳥驚心。」 がある。 ・桃李:モモの花とスモモの花。 ・斷腸:〔だんちゃう;duan4chang2●○〕腸(はらわた)を断ち切られるほどの悲しさ、辛さなどを謂う。

※此日遨遊邀美女:この日の遊びは美女を迎えて。 ・此日:この日。この陽春の一日。 ・遨遊:〔がういう;ao2you2○○〕あそぶ。 ・邀:〔えう;yao1○〕迎える。求める。濫(みだり)に受ける。遇(あ)う。待ち受ける。 ・美女:容姿の美しい女性のことだが、ここでは、妓女のことになる。

※此時歌舞入娼家:此の時、歌舞遊興は妓楼に入り込んだ。 ・歌舞:歌うことと舞うこと。遊興。 ・娼家:〔しゃうか;chang1jia1○○〕遊女を置いて客をとる家。妓楼。青楼。

※娼家美女鬱金香:妓楼の美女は、鬱金香の香りがして。 ・鬱金香:〔うっこんかう;yu4jin1xiang1●○○〕チューリップ。また、ミョウガ科の多年草で、キゾメグサ(鬱金)の香。ハルウコンの香。香草、ハーブの名。西域にあるウッコン草から採った香。唐・李白の『客中行』に「蘭陵美酒
鬱金香,玉碗盛來琥珀光。但使主人能醉客,不知何處是他鄕。」 とある。

※飛去飛來公子傍:貴公子の傍(かたわ)らを、あちらこちらと漂った。 ・飛去飛來:飛び交う。作者劉廷芝(劉希夷)のもう一つの代表作『白頭吟(代悲白頭翁)』では、「
飛來飛去落誰家。」とする。樂府体なので強く平仄を意識しないが、やはり歌う時の口調との関係で、「飛去飛來公子傍」は「●●○○●●○」とすべきところで、「飛來飛去落誰家。」は「○○●●●○○」とすべきところのため、こうなった。 ・公子:諸侯や貴族の子息。『白頭吟(代悲白頭翁)』でいえば「公子王孫芳樹下,清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫神仙。」という具合になる。 ・傍:かたわら。そば。

※的的珠簾白日映:きらきらと輝く宝玉製のスダレが、昼間の太陽に照り映えて。 ・的的:〔てきてき;di
4di4●●〕明るく輝くさま。 ・珠簾:玉スダレ。宝玉製のスダレ。 ・白日:照り輝く太陽。昼間の太陽。 ・映:照り映える。映じる。反射する。

※娥娥玉顏紅粉妝:みめよいきれいな顔をした女性が、紅(べに)と白粉(おしろい)で、粧(よそお)っている。 ・娥娥:〔がが;e2e2○○〕美女の美しいさま。 ・玉顏:きれいな顔。 ・紅粉:(女性の化粧品の)紅(べに)と白粉(おしろい)。化粧品。 ・妝:〔さう(しゃう);zhuang1○〕化粧する。粧(よそお)う。

※花際裴囘雙蝶:花の周りをアゲハチョウが行ったり来たりしており。
ヒオドシチョウ
アゲハチョウ
『花の山』から賜りました
 ・花際:花の咲いている周り。 ・裴囘:〔はいくゎい;pei2hui2○○〕うろうろするさま。また、うろつく。行ったり来たりする。たちもとおる。≒裴徊:〔はいくゎい;pei2huai2○○〕(孔雀が)長い尾を曳きずるさま。衣服の長い裾を曳きずってうろうろするさま。また、うろつく。行ったり来たりする。たちもとおる。≒徘徊〔はいくゎい;pai2huai2○○〕。漢末『古詩爲焦仲卿妻作(孔雀東南飛)』では「孔雀東南飛,五里一裴徊。十三能織素,十四學裁衣,十五彈箜篌,十六誦詩書,十七爲君婦,心中常苦悲。」とある。≒徘徊。 ・雙:つがいの。二匹の。 ・蝶:〔けふてふ;jia2die2●●〕ヒオドシチョウ。アゲハチョウ。(写真:右)杜甫の『曲江』に「朝囘日日典春衣,毎日江頭盡醉歸。酒債尋常行處有,人生七十古來稀。穿花蝶深深見,點水蜻款款飛。傳語風光共流轉,暫時相賞莫相違。」 とある。

※池邊顧歩兩鴛鴦:池の畔(ほとり)では、二羽の対(つがい)となったオシドリが左右をふり返りながら歩いている。 ・池邊:池の畔(ほとり)。池の傍(そば)。 ・顧歩:〔こほ;gu4bu4●●〕左右をふり返りながら歩く。 ・兩:ここでは、二羽の。つがいの。 ・鴛鴦:〔ゑんあう;yuan1yang1○○〕オシドリ。オシドリの雌雄が常に離れることがないので、仲のよい夫婦に喩えられる。「鴛」は雄で「鴦」は雌ともする。漢末の『古詩爲焦仲卿妻作』(孔雀東南飛)「兩家求合葬,合葬華山傍。東西植松柏,左右種梧桐。枝枝相覆蓋,葉葉相交通。中有雙飛鳥,自名爲鴛鴦。仰頭相向鳴,夜夜達五更。」や白居易の『長恨歌』「夕殿螢飛思悄然,孤燈挑盡未成眠。遲遲鐘鼓初長夜,耿耿星河欲曙天。
鴛鴦瓦冷霜華重,翡翠衾寒誰與共。悠悠生死別經年,魂魄不曾來入夢。」、韋荘の『菩薩蠻』「洛陽城裏春光好,洛陽才子他鄕老。柳暗魏王堤。此時心轉迷。   桃花春水綠,水上鴛鴦。凝恨對殘暉,憶君君不知。」 唐・温庭の『南歌子』「手裏金鸚鵡,胸前綉鳳凰。偸眼暗形相,不如從嫁與,鴛鴦。」などと婉約詞に多い。

※傾國傾城漢武帝:国を傾け、城を傾けさせると謂われるほどの絶世の美女(李夫人)を愛した漢の武帝。 ・傾國傾城:国を傾け、城を傾けさせるほどの絶世の美女。漢代、歌手の李延年が武帝に自分の妹を絶讃して薦めた「歌」に基づく。『漢書・列傳・卷九十七上・外戚傳上』に「孝武李夫人,本以倡進。初,夫人兄延年性知音,善歌舞,武帝愛之。毎爲新聲變曲,聞者莫不感動。延年侍上起舞,歌曰:『北方有佳人,絶世而獨立,一顧
傾人城,再顧傾人國寧不知傾城傾國,佳人難再得。』上嘆息曰:『善。世豈有此人乎。』平陽主因言延年有女弟,上乃召見之,實妙麗善舞。由是得幸。」とある。  ・傾國:国を傾けさせるほどの絶世の美女。」白居易は『長恨歌』の冒頭で「漢皇重色思傾國,御宇多年求不得。」と使う。 ・傾城:城を傾けさせるほどの絶世の美女。 ・漢武帝:漢の武帝。(前156年~前87年)前漢第七代皇帝。劉徹のこと。漢帝国の基礎を確立させ、匈奴勢力を漠北から駆逐した。 彼は、樂府・『秋風辭』「秋風起兮白雲飛,草木黄落兮雁南歸。蘭有秀兮菊有芳,懷佳人兮不能忘。汎樓船兮濟汾河,橫中流兮揚素波。簫鼓鳴兮發櫂歌,歡樂極兮哀情多。少壯幾時兮奈老何。」等と、詩をよくする。

※爲雲爲雨楚襄王:雲となり、雨となる(神女との契りを結んだ)楚の襄王(の情愛)。 ・爲雲爲雨:男女の交情をいう。楚の襄王が巫山で夢に神女と契ったことをいう。神女は朝は巫山の雲となり、夕べには雨になるという故事からきている。婉約の詩詞  によく使われるが、千載不磨の契りという風ではなく、もう少し気楽な交わりを謂う。 ・爲雲:(神女は、朝は巫山の)雲となる。 ・爲雨:(神女は、夕べには巫山の)雨になる ・楚襄王:〔そ・じゃうわう;Chu3Xiang1wang2● ○○〕楚の襄王。宋玉の『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気(雲というよりも濃い水蒸気のガスに近いもの)があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮
爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた。婉約の詩歌でよく使われる。「巫山之夢」。李白の『清平調』三首之二に「一枝紅艷露凝香,雲雨巫山枉斷腸。借問漢宮誰得似,可憐飛燕倚新粧。」と詠っている。

※古來容光人所羨:昔よりずっと、顔や姿の美しいことは、人々が羨(うらや)ましいと思うところであり。 ・古來:昔から今に至るまで。昔より。 ・容光:〔ようくゎう;rong2guang1○○〕顔や姿の美しいこと。風采。ようす。俤。 ・人所羨:人々の羨(うらや)むところである。 ・所-:…するところ(のこと)。動詞の前に附き、動詞を名詞化する。また〔被+(名詞)+所(動詞)〕として、受身表現をする。

※況復今日遙相見:(人々は、昔から、美女を羨望の的として思ってきたきたが)ましてやその上に、今日は(実際に)遙々(はるばる)と会いに来たのだ。 ・況復:〔きゃうふく;kuang4fu4●●〕その上。それに加えて。 ・況:まして。いわんや。いはんや…をや。 ・今日:ここでは、男性と女性が出会った日。 ・遙:さまよう。ぶらぶらする。また、遥かに。遠い。長い。遙々(はるばる)と。 ・相見:会う。

※願作輕羅著細腰:願うことならば軽やかなうすぎぬとなって、(女性の)細い腰にまとわりつきたいものだ。 ・願作:…になりたい。願望を表し、この語の後に願望の句が来る。後出「願爲」と同じ。漢の烏孫公主・劉細君の『悲愁歌』に「吾家嫁我兮天一方,遠託異國兮烏孫王。穹盧爲室兮氈爲牆,以肉爲食兮酪爲漿。居常土思兮心内傷,願爲黄鵠兮歸故鄕。」とある。後世の白居易の『長恨歌』では「在天願作比翼鳥,在地願爲連理枝。」になる。『古詩爲焦仲卿妻作(孔雀東南飛)』では「君當作磐石,妾當作蒲葦,蒲葦如絲,磐石無轉移。」になる。 *ここ以降、願望表現の「願…」の句「願作輕羅著細腰」「願爲明鏡分嬌面」、また「願作貞松千歳古」と並ぶ。わたしは、ここで何か違和感のようなものを感ずる。劉希夷は見事な全篇対句で表現してきたのにここになって、破格というか失調のようなものを来して、「願…」「願…」としている。まるで竹枝詞のようである。勿論、長篇詩の歌行を作る劉希夷に失調などはあり得ようはずがない。何か別の意があるのではなかろうか。続く「與君相向轉相親」「與君雙棲共一身」の聯でも、「與君…」と同一の語を並べる。何故なのだろうか。どのようなことを表現したかったのか……。 ・輕羅:軽やかなうすぎぬ。 ・著:つく。 ・細腰:〔さいえう;xi4yao1●○〕女性の細い腰。楚の霊王が細い腰を好んだという。『漢書・馬寥傳』の「呉王好劍客,百姓多瘡瘢。楚王好
細腰,宮中多餓死。」、『荀子・君道』「楚莊王好細腰,故朝有餓人。」や『韓非子』「越王好勇,而民多輕死。楚靈王好細腰,而國中多餓人。」と記録されている。

※願爲明鏡分嬌面:願わくば、澄んだ鏡となって、可愛い顔を写し取りたいものだ。 ・願爲:…になりたい。前出「願作」と同じ。 ・明鏡:澄んだ鏡。 ・分:分かつ。ここでは、美しい顔の貌を写し取る意となる。 ・嬌面:可愛い顔。愛くるしい顔。艶やかな顔。

※與君相向轉相親:あなたと向かい合っていると、ますます親しくなってきて。 ・與君:あなたと。ここでの「君」とは、男性側を指す。 ・相向:向かい合って。 ・轉:〔てん;zhuan3●〕ますます…となってくる。一層…となってくる。かえって…となってくる。何となく。うたた。 ・相親:親しくしていき。

※與君雙棲共一身:あなたと二人で、一緒になって住んで。 ・雙棲:夫婦や、つがいのように両者が一緒になって住む。 ・共一身:我が身と(貴男の身を)共にして。夫婦として。 ・一身:自分の一つの身体。自分自身。全身。

※願作貞松千歳古:できることならば、節操を守っていつも葉の色を変えない松のようになって、千年を経たい。 ・貞松:〔ていしょう;zhen1song1○○〕操の堅い松。節義を守って冬にも葉の色を変えない、常青の松。 ・千歳古:千載不磨の契りを交わす。 ・千歳:千年。 ・古:古(ふ)る。動詞。

※誰論芳槿一朝新:ムクゲのように、毎朝、新たに咲く(ものの、夕方には凋んでしまう)ような(儚い愛情は、)一体誰が考えましょうか。*ここまでの数聯が男女の睦言。 ・誰論:一体誰があげつらおうか。 ・論:〔ろん;lun2○〕論じる。あげつらう。述べ語ること。考える。(物事の道理を)述べる。言い争うこと。動詞。 ・槿:芳(かぐわ)しいムクゲ。 ・槿:〔きん;jin3●〕ムクゲ。花は、アサガオのように朝に開いて、夜には凋(しぼ)む。一朝だけの儚(はかな)い花。色には淡紅・白・淡紫色などがある。木槿。 ・一朝:ひと朝(毎に)。一日の朝(だけ)。 ・新:新たにする。動詞。ここでは、「新たに(咲く)」の意になる。

※百年同謝西山日:(長くても)百年、(人の生も)同様に西方の山に沈んでいく太陽(のように)沈んでいくのだ。 *この聯「百年同謝西山日,千秋萬古北塵」は作者・劉希夷のまとめとしての部分。「願作輕羅著細腰,願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親,與君雙棲共一身。願作貞松千歳古,誰論芳槿一朝新。」といった男女の願い事も儚いものであって、人はやがて「百年同謝西山日,千秋萬古北塵。」と、消え去るのみであると詠う。こうした詩の末尾に詠った内容を要約するという表現は、『楚辞』の亂から始まって、漢末の『古詩爲焦仲卿妻作(孔雀東南飛)』の「多謝後世人,戒之慎勿忘。」や、北魏の長編叙事詩『木蘭詩』「雄兎脚撲朔,雌兎眼迷離。兩兎傍地走,安能辨我是雄雌。」などと、意識してその形式を継いできたものなのだろう。更に後世へは、白居易の『長恨歌』「天長地久有時盡,此恨綿綿無絶期。」へと、その形式を伝えている。 ・百年:人の生の最大値である。 ・同:同じく。同様に。 ・謝:〔しゃ;xie4●〕去る。辞去する。世を去る。死ぬ。衰える。散る。凋む。 ・西山日:西方の山に沈んでいく太陽。

※千秋萬古北邙塵:(今、栄華を極めた人も)永遠の時間の後は、北山の陵墓の塵土(になっている)。 ・千秋萬古:永遠に。とわに。永久に。 ・千秋:千年。 ・萬古:遠い昔。大昔から今に至るまで。永久。 ・北塵:北山の陵墓の塵土(に帰っていくこと)。 ・北:〔ほくばう;bei3mang2●○〕北山のこと。洛陽の北にある陵墓が集まってある山。墓所をいい表す語である。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)44-45ページ「唐 洛陽附近」にある。洛陽の北20キロメートルの所を東西に広がっている。位置関係を南側からいえば、洛水が西南西から東北東に流れ、その北側にも洛陽の市街が広がっている。その20キロメートル北に、北山が東西に60キロメートル横たわっている。その更に北側を黄河が流れている。漢・梁鴻『五噫歌』の「陟彼
北芒,噫!顧覽帝京兮,噫!宮室崔嵬兮,噫!民之劬勞兮,噫!遼遼未央兮,噫!」 東晋・陶潜(陶淵明)『擬古九首』其四「迢迢百尺樓,分明望四荒。暮作歸雲宅,朝爲飛鳥堂。山河滿目中,平原獨茫茫。古時功名士,慷慨爭此場。一旦百歳後,相與還。松柏爲人伐,高墳互低昂。頽基無遺主,遊魂在何方。榮華誠足貴,亦復可憐傷。」や、やや後代の唐・沈期の『山』「北邙上列墳塋,萬古千秋對洛城。城中日夕歌鐘起,山上唯聞松柏聲。」と、多い。 ・塵:〔ぢん;chen2○〕塵土。土に帰ること。陶淵明の『挽歌詩其三』「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中,送我出遠郊。四面無人居,高墳正嶢。馬爲仰天鳴,風爲自蕭條。幽室一已閉,千年不復朝。千年不復朝,賢達無奈何。向來相送人,各自還其家。親戚或餘悲,他人亦已歌。死去何所道,託體同山阿。」のことでもある。

               ***********




◎ 構成について

 韻式は「aaaBBBBCCCCCCdddEEEE」。韻脚は上記色分け部分で、平水韻「上声四紙,、下平六麻、下平七陽、去声十七霰、上平十一真。次の平仄はこの作品のもの。

○○○●○○●,(a韻)
○○○●●○●。(a韻)
●○○●○○●,
○●○●●○●。(a韻)
●○●●●○○,(B韻)
○○○◎●●○。(B韻)
●○○●○○●,
●○○●●○○。(B韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(B韻)
○○●●●○○,(C韻)
○●○○○●○。(C韻)
●●○○●●●,
○○●●○●○。(C韻)
○●○○○●●,
○○●●●○○。(C韻)
○●○○●●●,
○○○●●○○。(C韻)
●○○○○●●,(C韻)
●●○●○○●。(d韻)
●●○○●●○,(d韻)
●○○●◎○●。(d韻)
◎○○●●○○,(E韻)
◎○○○●●○。(E韻)
●●○○○●●,
○○○●●○○。(E韻)
●○○●○○●,
○○●●●○○。(E韻)
2005.11. 3
     11. 4
     11. 5
     11. 6
     11. 7
     11. 8
     11. 9完
2007.11.23補

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