題畫山水 |
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田能村竹田 | ||
終日無人相往還, 亂煙滿地掩柴關。 誰知世上難行處, 不在山村風雨閒。 |
終日 人の相 ひ往還 する無く,
亂煙 地に滿ちて柴關 を掩 ふ。
誰 か知らんや世上 行 き難 き處,
山村 風雨の閒 に在 らざるを。
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◎ 私感註釈
※田能村竹田:江戸末期の文人画家。安永六年(1777年)~天保六年(1835年)。名は孝憲。字は君彝。通称は竹蔵。竹田は号。豊後の人。浦上玉堂、篠崎小竹、頼山陽と交った。
※題画山水:風景画を詩題にして(詩を)作る。 *この詩、恐らく、作者が人間関係に疲れを覚えた時の作になろう。後出・中唐・白居易の『新樂府・太行路』で白居易が訴えていることを田能村竹田も言いたかった。詩の前半部分は、盛唐・王維の『答張五弟』「終南有茅屋,前對終南山。終年無客常閉關,終日無心長自閒。不妨飮酒復垂釣,君但能來相往還。」の影響を受けたか。 ・題:…を題にして詩を作る。 ・画山水: 山と川のある自然の景色の絵をかく。山水画を描く。
※終日無人相往還:一日中、誰(ひとり、作者のいる許へ)来て、かえってゆく人がいない。((“隠者”としての作者は、)世の人との付きあいは一切無い)。 ・終日:一日中。朝から晩まで。 ・無人-:…する人がいない。 ・往還:往復する。作者のいる許へ来て、またかえってゆくことを謂う。
※乱煙満地掩柴関:霞(かすみ)、靄(もや)があちらこちらに起こって地に満ちて、(作者の)隠棲する庵の門を掩っている。 ・煙:霞(かすみ)、靄(もや)の類。 ・掩:おおう。 ・柴関:柴の門。隠棲する庵の門。
※誰知世上難行処:世の中の過ごしにくいところを、誰が分かろうか。 ・誰知:だれが分かろうか。誰も分かるまい。この言葉の指すところは「世上難行処,不在山村風雨間,(只在人情反覆間)」。 ・世上:世の中で。 ・難行処:前に行くのが困難なところ。 *この部分は中唐・白居易の『新樂府・太行路』借夫婦以諷君臣之不終也「太行之路能摧車,若比人心是坦途。巫峽之水能覆舟,若比人心是安流。人心好惡苦不常,好生毛羽惡生瘡。與君結髮未五載,忽從牛女爲參商。古稱色衰相棄背,當時美人猶怨悔。何況如今鸞鏡中,妾顏未改君心改。爲君熏衣裳,君聞蘭麝不馨香。爲君盛容飾,君看金翠無顏色。行路難,難重陳,人生莫作婦人身,百年苦樂由他人。行路難,難於山,險於水,不獨人間夫與妻。近代君臣亦如此,君不見左納言,右納史,朝承恩,暮賜死。行路難,不在水,不在山,只在人情反覆間。」とあるのに拠る。(『太行(たいかう)の路(みち)』夫婦に借りて以って君臣の終へざるを諷する也「太行の路は 能く車を摧(くだ)くも,若(も)し 人の心を比すれば 是れ 坦途(たんと)なり。巫峽の水は 能く舟を覆えすも,若し 人の心に比すれば 是れ 安流なり。人心の好惡 苦(はなは)だ 常ならず,好めば 毛羽を生じ 惡(にく)めば瘡(きず)を生ず。君が與(ため)に髮を結びて未だ五載ならざるに,忽ち 牛(ぎう)と女(ぢょ)の 參(しん)と商と爲るに 從ふ。古(いにし)へより稱す 色 衰ふれば 相ひ棄背(きはい)すと,當時の美人 猶ほ 怨悔(ゑんくゎい)す。何(いか)に 況(いは)んや 如今 鸞鏡(らんきゃう)の中(うち),妾(せふ)が顏(かんばせ)の未だ改まざるに 君が心 改まる。君が爲に 衣裳を熏ずれば, 君は蘭麝(らんじゃ)を聞(か)いで馨香(けいかう)とせず。君が爲に 容飾を盛んにすれば,君は金翠を看て 顏色無しとす。行路 難,重(かさ)ねて陳(の)べ難(がた)し,人 生まれて 婦人の身と作(な)る莫かれ,百年の苦樂は 他人に由(よ)る。行路 難,山よりも難(かた)く,水よりも險(けは)し,獨(ひと)り 人間(にんげん)の夫(ふ)と妻(さい)のみならず。近代の君臣も亦た 此(か)くの如し,君 見ずや左納言(さなごん),右納史(うないし),朝(あした)に恩を承(う)け,暮に死を賜ふ。行路 難,水に在(あ)らず,山に在らず,只だ 人情 反覆の間(かん)に在り。)
※不在山村風雨間:(世の中の過ごしにくいところは)風や雨といった(嵐の)時にあるのではない(ただ、人間関係の複雑な綾の中(うち)にあるのだ)。 ・不在:…にあるのではない(「只在人情反覆間」にあるのだ)。 ・風雨間:風と雨の時。嵐の時。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「還関間」で、平水韻上平十五刪。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○○●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○○●○。(韻)
平成29.3.27 3.28 |
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