山中偶成 |
||
高杉晉作 | ||
賣刀買山住, 閑臥獨怡怡。 多病雖辭客, 寸心豈負時。 作書書更拙, 探句句成遲。 恨我少年日, 學兵不學詩。 |
刀を賣 り 山を買ひて住み,
閑臥 して獨 り怡怡 たり。
多病 客を辭 すと雖 も,
寸心 豈 時 に負 かんや。
書 を作 せば 書 更に拙 く,
句を探せば 句成 ること遲 し。
恨 むらくは我 が少年の日,
兵 を學びて 詩を學ばざりしを。
*****************
◎ 私感註釈
※高杉晋作:幕末の尊皇攘夷運動の志士。長州藩士。天保十年(1839)〜慶應三年(1867)。病歿。
※山中偶成:山中で、ふとした思いつきでできた詩。 *各種の漢語語法に則った、見事な構成の詩である。 *この作品は、国立国会図書館デジタルコレクション中の『東行詩文集』四十三頁にある。慶応二年(1866年)の作で、作者が数え二十八歳の時(絶命の前年)のもの。 ・山:桜山になろうか。 ・偶成:偶然にできた詩。ふとした思いつきでできた詩。
※売刀買山住:刀を売って、(得たお金で)山を買って住み。 ・売刀:刀を売る。闘いをやめたことをも謂う。
※閑臥独怡怡:静かに横になって寝るて、ひとり和らぎ喜んでいる。 ・閑臥:静かに横になって寝る、意。 ・独:ひとり。 ・怡怡:〔いい;yi2yi2○○〕楽しむさま。和らぎ喜ぶ。
※多病雖辞客:病気がちで、人と会うことを断っているとはいうものの。 ・雖-:…で(は)あるが。…とはいうものの。…けれども。…(と)いえども。事実を認めた上で、逆接を導く。 ・辞:辞退する。断る。
※寸心豈負時:(自分の)心の中は、どうして時局に違(たが)えようか。 ・寸心:(自分の)心の中。「自分の気持ち」を遜(へりくだ)って謂う。 ・豈:どうして…か。あに…や。 ・負:たがえる。そむく。
※作書書更拙:書(しょ)を書いても、書は一層つたなく。 ・作書:手紙を書く。ただし、ここでは、字を書く、の意で使われていよう。前者の意では、中唐・白居易の『禁中夜作書與元九』「心緒萬端書兩紙,欲封重讀意遲遲。五聲宮漏初鳴後,一點窗燈欲滅時。」がある。 ・更:一層。さらに。 ・拙:〔せつ;zhuo1●〕つたない。へたである。拙劣である。にぶい。
※探句句成遅:詩句を探しとろうとしても、詩句は出来上がるのが遅い。 ・探句:自分の詩題を探しとる意で、「探題」の意で使うか。「探題」は:自分の詩題を探しとる意。「探題」は●○で、●○(○○)のところで使い、「探句」は●●で●●のところで使う。ここは「探句」で、適切。 ・句:詩句を謂う。ここでは、平仄のため(=●●●○○とするため)、「詩」(○)は使えないので「句」(●)を使っている。 ・遅:ぐずぐずと時間がかかって、おそいこと。なお、「晩」は:時間的に後の方、終わりに近い意で、おそいこと。
※恨我少年日:わたしの少年時代がうらめしい。 *「恨我少年日」といった言い回しは、「愛我祖国」などと同様のよく見る構文で、「恨我少年日」「愛我祖国」を、「我恨少年日」「我愛祖国」とは、あまりしない。 *この聯「恨我少年日,学兵不学詩」で一まとまり。 ・恨:うらめしく思う。うらむ。 ・我少年日:わたしの少年時代。
※学兵不学詩:(それは)兵学や武術を学んだが、詩は学ばなかった(ので)。 *この句は、「〔V・O1+不V・O2〕で、「…(O2)をしないで…(O1)をする。」といった構文になる。 ・兵:ここでは、兵学・武術のことになる。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「怡時遅詩」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,(韻)
○○●●○。(韻)
○○○●●,
○●●○○。(韻)
平成29.6.3 6.4 |
トップ |