將西遊示知心諸友 | ||
吉田松陰 |
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名利無心世上求, 一生不顧被人尤。 獨悲駑駘報恩計, 詭遇常爲君父憂。 |
名利 世上 に求むる 心 無く,
一生 人の尤 を被 るも顧 みず。
獨 り悲しむ駑駘 報恩の計,
詭遇 して 常に 君父の憂 と爲るを。
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◎ 私感註釈
※吉田松陰:天保元年(1830年)〜安政六年(1859年)幕末の尊皇攘夷論者。長州藩士。字は義卿。諱は矩方。通称は寅次郎など。 叔父玉木文之進の後を継いで、松下村塾を主宰。門下生から幕末、維新の英傑が輩出した、精神上の指導者、思想家。安政の大獄により刑死する。
※将西遊示知心諸友:西の方の九州に遊学しようとして、気心の知れた友人たちに詩を作って見せる。 *この詩は、嘉永六年(1853年)に九州に遊学した時のもの。 ・将:まさに…(せ)んとす。将然形。〔「将」+動詞〕の型。 蛇足になるが、〔「将」+名詞+動詞〕は:…を以て。…を。≒以。ここは、前者の意。 ・西遊:西の方(・長崎)へ旅をする。動詞としての表現。 ・示:(同等以下のものに、)詩を作って見せる。 ・知心:理解し合っている。人の心を知る。 ・知心諸友:気心の知れた友人たち。=「知心朋友」。中国語版の『ドラえもん』で、ジャイアンが「我が心の友よ!」と言うところが「知心朋友!」となっていたような古い記憶がある。
※名利無心世上求:名誉や利益を世に求めるなどは、考えたり意識したりする心がない。 ・名利:〔みゃうり・めいりming2li4○●〕名誉と利益。また、ごりやく。日本・江戸・良寛の『大愚』に「生涯懶立身,騰騰任天眞。嚢中三升米,爐邊一束薪。誰問迷悟跡,何知名利塵。夜雨草庵裡,雙脚等關L。」とある。 ・無心:考えたり意識したりする心がない。自然であること。一切の妄念を離れた心。 ・世上:世の中。世間。江戸末期・田能村竹田の『題畫山水』に「終日無人相往還,亂煙滿地掩柴關。誰知世上難行處,不在山村風雨閨B」とある。
※一生不顧被人尤:一生、恨み咎められても、頓着しない。 ・不顧:かまわない。問題にしない。頓着しない。顧みない。 ・被人:人に…(ら)れる、意。 ・尤:恨む。とがめる。恨みとがめる。
※独悲駑駘報恩計:おろかもの(=作者)は、恩返しが…となることをひとり、悲しんでいる。 ・駑駘:〔どたい;nu2tai2○○〕のろい馬。才能の劣っている人。おろかもの。 ・報恩:恩にむくいること。恩返し。
※詭遇常為君父憂:正しい方法ではないので、いつも主君や父親を困らせている(ことなることをひとり、悲しんでいる。) ・詭遇:〔きぐうgui3yu4●●〕よこしまな手づるで、人に取り入ろうとすること。正しい方法によらず、禽獣を射止める。ここでは、作者の(鎖国中の)海外渡航の志を指す。 ・常為:いつも…となる、意。 ・君父:主君と父親。忠孝の対象。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「求尤憂」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
●○○○●○●,
●●○○○●○。(韻)
平成30.8. 7 8. 8 8. 9 8.13完 令和3.12.24補 |
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