鴨東百絶 | ||
中島棕隱 |
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紅燈無影夜寥寥, 一片殘蟾掛柳梢。 少女十三能慣客, 不辭風露送過橋。 |
紅燈 影 無く 夜寥寥 ,
一片 の殘蟾 柳梢に掛かる。
少女 十三能 く 客に慣れ,
風露 を辭せず 送りて橋を過ぐ。
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◎ 私感註釈
※中島棕隠:(なかじま そういん)江戸後期の漢詩人。儒者。名は規。字は景寛。号して、棕軒、棕隠。安永九年(1779年)〜安政二年(1855年)。京都の人。
※鴨東百絶:鴨川の東の方を詠った漢詩(絶句)百首。 ・鴨東:鴨川の東で、祇園などのあるところ。祇園は花街(歓楽街)で有名。 ・鴨:鴨川(=賀茂川)。京都市内を真南に流れる川。
※紅灯無影夜寥寥:色町の灯火(ともしび)に映し出される人影は、寂しくて静かでまばらであり。 ・紅灯:色町のともしび。赤提灯(あか ちょうちん)。 ・無影:(灯に映し出される人影) ・寥寥:〔れうれう;liao2liao2○○〕寂しくて静かなさま。まばらなさま。
※一片残蟾掛柳梢:ひとひらの残月(明け方まで空に残っている月)が、柳の梢(こずえ)に掛かっている。 ・一片:ひとひら。 ・蟾:〔せん;chan2○〕月の別名。ここの句の平仄の配列は「●●○○●●○」で、第四字目は「○(平韻)」とすべきところ。ここの句、本当は「一片殘月掛柳梢」としたかったが、第四字目の「月」の所は平韻にすべき所なので、平韻字で「月」と同義の「蟾」に置き換え、「一片殘蟾掛柳梢」(●●○○●●○)としたか。(以上、推測)。薛昭蘊の『喜遷鶯』に「殘蟾落,曉鐘嗚。」があるが…。なお、「蟾」字が“ヒキガエル”と“月”の両義あるのは「月にヒキガエルが棲んでいる」という伝説に拠る。 ・残月:明け方まで空に残っている月。有明の月。 ・掛:かかる。
※少女十三能慣客:(そこで下働きをしている)十三歳の少女は、上手に酔客に応対することに慣(な)れており。 ・能:よく。よくする。うまくできる。 ・慣客:酔客に対する応対に慣(な)れていることを謂う。
※不辞風露送過橋:風や露(つゆ)を厭(いと)わないで、橋を渡って、見送っている。 ・不辞-:…を厭(いと)わない。 ・風露:風とつゆ。 ・送:見送る。 ・過橋:橋を渡る。なお、「過」は両韻(≒多音字)。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「寥梢橋」で、平水韻下平二蕭(寥橋)・下平三肴(梢)。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
令和3.7.26 7.27 |
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