雪胔白骨滿疆場, 萬死孤忠未肯降。 寄語行人休掩鼻, 活人不及死人香。 |
城牆 に題する詩
雪胔 白骨 疆場 に滿ち,
萬死 の孤忠 未 だ肯 へて降 らず。
語 を寄 す行人 鼻を掩 ふを休 めよ,
活 ける人は 死人の香 に及ばず と。
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◎ 私感訳註:
※江陰女子:江陰の一女性。江陰での異民族支配に対する抗清の戦いをくり広げた一女性。 ・江陰:現・江蘇省無錫の北40キロメートルの長江南岸にある都市。順治二年(1645年)、清軍(満洲民族の軍)の侵掠に対して、明朝(漢民族)側の江陰城は八十一日間の死闘を繰り広げた都市の名であり、江陰人民の抗清の戦いの場。この江陰の抗清事件の発端は、清朝(満洲民族の王朝)の薙髪令(漢民族伝統の長髪を剃ることの命令)に反対して、「頭は断つべくも、髪は決して剃るべからず」との誓いを立て、明の典史・陳明遇、閻応元を首領に推し、清に抗して叛乱を起こした。清に降(くだ)った明の武将・劉良佐が命を受けて城を攻めたが、城はなかなか落ちなかった。劉良佐と閻応元とは旧知の間柄だったので、自ら城壁の下に行って降伏を勧めたが、閻応元は「降(くだ)れる将軍あるも、降れる典史なし」と言って、拒否した。数十万の清軍の包囲攻城に対し、三ヶ月も落とすことは出来なかった。だが、救援が断たれて食糧が無くなり、八月二十日に落城した。城を守ってきた人民はまたも清軍と市街戦を展開し、陳明遇は戦死し、閻応元は捕らえられて処刑された。城内の男も女も、老人も子供も一人として清に降(くだ)る者がいなかった。
大きな地図で見る中央「江阴市」とあるのが江陰市
※題城牆詩:城壁に書き記(しる)した詩。 *江陰での抗清の戦いの詩。この詩の最初の語の「雪」(清い・高潔な)と、最後の語の「香」(気節がかんばしい意)とで、詩意を表し尽くしている。 ・題:詩文をしるす。 ・城牆:城の垣。城壁。
※雪胔白骨満疆場:白い腐肉に白い骨が、国の境に満ちている。 ・雪胔:きよらかな腐った肉。「雪」は、きよい、高潔。また白い意。ここは、前者の意。 ・胔:〔し;zi4●〕腐った肉。野晒(のざら)しの屍骸(しがい)。 ・疆場:〔きゃうぢゃう;jiang1chang2○○〕国の境。国境。=境場、疆界。また、田地のさかい。あぜ。ここは、前者の意。
※万死孤忠未肯降:命を擲(なげう)って孤立無援の籠城戦を貫き、戦い抜き、いまもなお敵に降服することを承知しない。いまなお…しようとしない。 ・万死:死ぬ可能性の甚だ多いこと。命を投げ出すこと。何度も死ぬこと。 ・孤忠:孤独な忠義。孤立無援の籠城戦を戦い抜き、異民族の支配に抵抗する対する戦いを展開し、明朝/漢民族に対する節義を全うしたことを謂う。 ・未肯:いまだに…を承知しない。いまなお…しようとしない。 ・降:〔かう;xiang2○〕(敵に)くだる。(敵に)降服する。(敵方に)帰順する。蛇足になるが、〔かう;jiang4●〕は、(上の方から)落ちる、下(さ)がる、おりる意。
※寄語行人休掩鼻:旅をしている人に言葉を与えるが、(屍体から立ち上る悪臭に対して)鼻を掩(おお)うことをやめなさい。 ・寄語:言葉をあたえる。また、伝言する。ことづてする。伝言をたのむ。=寄言。ここは、前者の意。 ・行人:〔かうじん;xing2ren2○○〕旅人。行客。また、道を行く人。出征兵士。ここは、前者の意。清・王士モフ『眞州絶句六首』之二に「白沙江頭春日時,江花江草望參差。行人記得曾游地,長板橋南舊酒旗。」とし、盛唐・王昌齡の『出塞行』に「白草原頭望京師,黄河水流無盡時。秋天曠野行人絶,馬首東來知是誰。」とある。 ・休:やめよ。…するなかれ。…するな。副詞。北宋・沈存中(沈括)の『歎老』に「唯覓少年心不得,當時感舊已潸然。情懷此日君休問,又老當時二十年。」とある。 ・掩鼻:鼻をおおう。
※活人不及死人香:(今ここに)生き(延び)ている人は、(民族の大義のために命を捧げて)死体(となった江陰城の忠義の人々)の高潔さや香(かぐわ)しさにおよばない。 ・活人:生きている人。ここでは、民族の大義のために身命を献げることなく生き延びた人たち。また、人を生かす。ここは、前者の意。 ・不及:(…に)かなわない。(…に)およばない。 ・死人:ここでは、民族の大義のために身命を呈した江陰城の忠義の人々を指す。 ・香:かぐわしいかおり。
◎ 構成について
2013.8. 2 8. 3 8. 4完 10.11補 2015.8.20 |