從來有修短, 豈敢問蒼天。 見盡人間婦, 無如美且賢。 譬令愚者壽, 何不假其年。 忍此連城寶, 沈埋向九泉。 |
悼亡 詩
從來修短 有 れども,
豈 に敢 へて 蒼天に問 はんや。
人間 の婦 を見 盡 くしたれども,
如 も 美しく且 つ賢なる 無し。
譬令 愚者は壽 なりとせば,
何 ぞ其 の年 を假 さざる。
此 の連城 の寶 の,
沈埋 して九泉 に向 かふに忍 びんや。
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◎ 私感訳註:
※梅堯臣:北宋の詩人。咸平五年(1002年)〜嘉祐五年(1060年)。字は聖兪。宣州宣城(現・安徽省宣城)の人。宣城は、古くは宛陵と呼ばれていたので、宛陵先生と呼ばれた。終生官途には恵まれなかったが、その詩名は「宋詩開山の祖」として知られる。『詩經』『楚辭』の「写実」「寄興」の継承を主張し、西崑派の無意味な言葉を連ねる浮薄な傾向に反対して「平淡」「閑遠」「発想は新しく、語句を練る」ことを主張した。その詩の多くは現実の生活を反映したもので、叙景・抒情の詩は清新で、深遠な意境を秘めている。
※悼亡詩:亡妻を悼んで作った詩。 *梅堯臣の『悼亡詩』は、このページの外、「結髮爲夫婦,於今十七年。相看猶不足,何況是長捐。我鬢已多白,此身寧久全。終當與同穴,未死涙漣漣。」、「毎出身如夢,逢人強意多。歸來仍寂寞,欲語向誰何。窗冷孤螢入,宵長一雁過。世間無最苦,精爽此銷磨。」と、三首ある。後世、清・王士モフ『悼亡詩』に「藥爐經卷送生涯,禪榻春風兩鬢華。一語寄君君聽取,不ヘ兒女衣蘆花。」がある。 ・悼亡:亡妻を悼み思うこと。妻に死に別れること。また、亡き妻。
※従来有修短:今まで、(寿命の)長短というものがある(のは分かっていたので)。 ・従来:これまで。今まで。かつて。 ・修短:長短。=脩短。 「修」:長い。
※豈敢問蒼天:どうしてわざわざ、天に尋ねることをあえてできるようか。 ・豈敢:どうして…することをあえてできるだろうか、(決してしない)。謙遜や諷刺を表す。また、どういたしまして。(挨拶言葉)。ここは、前者の意。 ・問蒼天:大空に問いかける。古代詩の特徴の一である天問の形をとっている。『詩經』唐風の中の『鴇羽』に「肅肅鴇翼,集于苞棘。王事靡,不能藝黍稷,父母何食。悠悠蒼天,曷其有極。」とあり、『詩經』王風の中の『黍離』に「彼黍離離,彼稷之苗。行邁靡靡,中心搖搖。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。 彼黍離離,彼稷之穗。行邁靡靡,中心如醉。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。 彼黍離離,彼稷之實。行邁靡靡,中心如噎。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。」とある。 「蒼天」:青空。天。また、天帝。造物主。
※見尽人間婦:人の世の(多くの)妻(というもの)を見尽くしていた(ので)。 ・見尽:見尽くす意。 ・人間:人の世。 ・婦:つま。
※無如美且賢:こんなに美しくて賢い(人=わたしの妻)は、いない。 ・如:ばかり。あたる。相当する。なお、「無如」で:(程度や能力が)及ぶ。匹敵する。また、いかんせん。いかんともするなし。惜しいことに。等のの意があるが、ここでは該当しない。 ・美且賢:美しい上に賢い。美しくて賢い。 ・且:その上に。しかも…であって。かつ。
※譬令愚者寿:もしも愚か者が長生きするというのならば。 ・譬令:もしも…なら。仮に…とすれば。 ・愚者:おろかもの。 ・寿:寿命(じゅみょう)。
※何不仮其年:どうして、その年(とし)を借りないのだ。 ・何不:どうして…しないのだ。なぜ…しない。反語の表現をつくる ・仮:〔か;jia3●〕借りる。貸す。
※忍此連城宝:このかけがえのない宝(=わたしの妻)を。 ・忍:こらえる。がまんする。耐える。我慢する。しのぶ。 ・此:この。後出・「連城宝」=妻を指す。 ・連城宝:「連城璧(連城(れんじゃう)の璧(へき))」戦国時代、趙の恵文王の持っていた宝玉。秦の昭王が十五城と交換しようとしたのでこの名がある。転じて無上の宝の意。ここでは亡き妻を謂う。『史記・廉頗/藺相如列傳 第二十一』(二四三九頁 中華書局版618ページ)に「趙惠文王時,得楚和氏(かし)璧。秦昭王聞之,使人遺趙王書,願以十五城請易璧。…和氏璧,天下所共傳寶也,…(完璧)。」とある。初唐・楊炯の『夜送趙縱』に「趙氏連城璧,由來天下傳。送君還舊府,明月滿前川。」とある。
※沈埋向九泉:よみじに沈み埋もれさせるに忍びない。 ・沈埋:しずみうずもれる。 ・九泉:黄泉。よみじ。あの世。幾重にも重なった地の底の意。
◎ 構成について
2016.6.21 6.22 6.23 |